34品目
「そうだな。早くしないと食い尽くされるな。それにある程度片付けとかないと面倒そうだ」
「メビウスさん、そんな事は言わないでください」
メビウスはホールで声をあげている冒険者達を少し冷めた目で見た後、頭をかく。
セフィーリアはメビウスが煉獄鳥や月光草を採るためにヒュプノパイソンが邪魔だとしか考えていない事がわかったようである。騎士としての信念なのか彼女は身体を震わせながら、ヒュプノパイソンをどうにかしないといけないと言う。
「俺達の目的は別だろ」
「で、ですけど、月光草には魔物が寄ってくるんですよね? どうにかしないと大変ですよ」
しかし、冒険者達がいかに盛り上がっていようとも彼にとってはどうでも良い話であり、相手をしてはいられないとため息を吐いた。
普通に考えるとヒュプノパイソンの大量発生は大事なのだが彼は何とも思っていないため、重要さを理解でいていない彼の様子にセフィーリアは説得を試みようとするがメビウスの反応は鈍い。
「……あんた達、ずいぶんと仲が良いね」
「そ、そんな事はありません!?」
2人の様子に女店主は呆れ顔で声をかける。
その言葉にセフィーリアは顔を真っ赤にして否定するが否定するほど女店主の頬は小さく緩む。
「はいはい。それでメビウス、ヒュプノパイソンが目的じゃないならあんた達は何しにこんなところに来たんだい? とうとう、料理の不味さに店が潰れたかい?」
「……潰れていない」
いちゃつくのはそこまでと言いたいのか、女店主はぱんぱんと手を叩くと改めて、2人がこの村に立ち寄った理由を聞く。
ただ、その言葉はメビウスの料理の腕をバカにするものであり、彼の額には青筋が浮かび上がる。
青筋が動くとともに彼の背後からは怒気が漏れて行き、その気配に気が付いた1部の冒険者達は声を上げるのを止めてしまう。
「だいたい、なんで俺が狩りにきた獲物を教えないといけないんだよ。他の人間に取られたらわざわざ足を運んだ意味がないだろ」
「それはそうだけどね……部屋は埋まっているよ。まあ、店を手伝うなら、あたしの家の空き部屋に泊めてやっても良いけど」
女店主の物言いに機嫌の悪くなってしまったメビウスは言う必要がないと吐き捨てるように言い、そんな彼の様子に女店主は苦笑いを浮かべるとセフィーリアへと視線を向けた。
その視線が何を意味するかわからないセフィーリアは小さく首を傾げてしまう。
首を傾げている彼女の様子に女店主はくすりと笑うと今日の宿を提供する条件を提示する。
「……馬車を動かしてくる」
「へ? あ、あの、メビウスさん?」
メビウスは不機嫌そうな表情のまま、ホールを出て行ってしまうのだがその行動から女亭主の条件を飲んだようである。
彼の背中に女店主はニヤニヤと笑っているのだが、セフィーリアは何が起きたかわからないようでメビウスの事を追いかけようとする。
「勝手に行かれちゃ困るよ。これはあっち、こっちはあそこ」
「は、はい」
女店主は彼女の腕をつかみ、引き留めるとセフィーリアの前に料理を置き、指示を出す。
状況が整理できていないセフィーリアではあるが竜の焔亭でお手伝いしている事もあり、身体が自然に動いてしまったようで指示通りに料理を運んで行ってしまう。
「良い子を見つけたわ。これでメビウスが戻ってきたら、この人数もさばけるわ」
メビウスに手を引かれて店に入ってきた時と違い、セフィーリアは料理を運ぶ時は店内が混雑していても普通に歩いている。
その様子に女店主は表情を緩ませると料理の続きを行う。
「おかしな客を相手にするな」
「は、はい!?」
馬車を移動してきたメビウスが店に戻ってくるとセフィーリアが同年代の冒険者の男性に声をかけられている。
彼女は男性の様子に困り顔ではあるがどう断って良いかわからないようであり、それを見つけたメビウスは眉間にしわを寄せて彼女の首根っこをつかむと女店主がいるカウンターまで彼女を引っ張って行く。
2人の様子にセフィーリアに声をかけた男性は肩を落とすが男性の仲間は彼の肩をつかむと席に座らせて無理やり、酒を飲ませ始める。
「……何やっているんだよ?」
「す、すいません」
カウンター前に戻ってきたメビウスはセフィーリアを見て、呆れたように言う。
セフィーリアは助けて貰った事にほっと胸をなで下ろした後、申し訳ないと頭を下げるのだがその頬はほのかに赤い。
女店主はその様子をニヤニヤと笑うと出来上がった料理をカウンターに置く。
「俺がこっちをやるから、お前は中の手伝いをしろよ。良いな」
「はいはい。それで良いけど、お客さんと揉めないでよ。えーと、料理できる? 皿洗いだけでも充分だけど」
セフィーリアが料理を運ぼうとするがメビウスは彼女より先に料理を手に取って行ってしまう。料理を運ぶのがセフィーリアからメビウスに変わった事に男性客からは文句が出始めるが彼は一睨みでその声を黙らせていく。
若い冒険者にナンパされたり、酔っぱらいに絡まれたりしているセフィーリアを見ていれば彼の言い分に納得できるようで彼女の顔を見ると小さく首を傾げる。
「だ、大丈夫です。料理はできます。メビウスさんのお店で手伝っていますから」
「……最近、聞くメビウスのお店の料理の上手な女の子ね」
セフィーリアは料理の腕には自信があると頷くとカウンター内に入って行く。
王都から遠い村ではあるが竜の焔亭の噂は届いているようでセフィーリアの様子にすべて納得したようでうんうんと頷いた。
「……何、1人で納得したような顔しているんだよ。こっちだって長旅してきているんだからな。長い時間は手伝えないぞ」
「わかっているわよ。メビウスはまだしも女の子に長い間、働かせないわよ」
料理を置いて戻ってきたメビウスは女店主の様子に舌打ちをするのだが、女店主は彼のその言葉をセフィーリアを気づかっていると判断したようで優し気な笑みを浮かべて返すと出来上がった料理を置く。
彼女の笑みに何か意味があるような気がする物のメビウスは相手をしていられないと思ったようで料理を運ぶ。




