33品目
「……間違って使うなよ」
「わ、わかっていますよ」
王都を出発した2人は野営や宿場町で休みながら煉獄鳥が出没するとメビウスが予想している場所まで進む。
移動の中、セフィーリアはラングラドから手渡された帰還の宝珠を眺めており、メビウスは何かの拍子で彼女が宝珠を使用してしまうのではないかと疑いの視線を向ける。
セフィーリアは間違って使用する事はないと頷いて見せるのだが、普段から慌てて失敗する事が多い彼女では説得力はない。
「そ、それでメビウスさん、目的地はまだ遠いんですか?」
「あからさまに話をそらそうとしたな」
自分がいくら否定しようとも変わらない彼の視線に話を変えようとする。
彼女の思惑など簡単に察しが付き、メビウスはため息を吐くとセフィーリアに向かい手を伸ばす。
伸ばされた手の意味がわからずにセフィーリアは小さく首を傾げるとメビウスの舌打ちが聞こえる。
「す、すいませんでした」
「とりあえずは次の村で宿をとるぞ。ヒュプノパイソンが出た場所や元々の煉獄鳥の生息地を考えるとこの辺に出てもおかしくないからな」
舌打ちが何を意味するか気が付いた彼女は彼の手に帰還の宝珠を載せた。
メビウスはこの先に村があると言うと帰還の宝珠を懐へとしまい込み、彼女にこの先に村があると伝える。
やはり、野営よりは宿場町で休める方が良いようで村があると聞いてセフィーリアの表情は明るくなるのだが煉獄鳥が出現するかも知れないと聞き、すぐに表情を引き締めた。
一先ずは彼女が緊張感を持っている事に安心したのかメビウスが小さく表情を緩ませた時、セフィーリアの視線の先に小さな村が映る。
「あまり大きな村じゃないからな。宿に部屋が空いていれば良いけどな」
「……あ、空いていなかったら、今日も野営ですね」
メビウスはこの村を訪れた事があるようで実際に部屋が借りられるかわからないと言う。
ベッドで眠れると喜んでいたセフィーリアはその言葉で野営も頭をよぎったようで大きく肩を落とす。
彼女の様子にメビウスは苦笑いを浮かべると馬車を走らせる。
「何か、賑わっていますね」
「そうだな……これは宿を取れないんじゃないか?」
村に入ったメビウスは馬車を宿屋へと向かわせるのだが小さな村にも関わらず、多くの人で溢れている。
人の多さに首を傾げるセフィーリアの隣でメビウスはイヤな予感がしたようで小さくため息を漏らした。
彼のため息に野営が現実的になって来たと思ったセフィーリアは肩を落とす。
「念のために聞いてみるか?」
「そうですね」
宿屋に到着しては見たものの、王都で暮らしていたセフィーリアから見ればその宿は小さい物に見えた。
そして、それだけではなく馬車置き場には多くの馬車が止められており、2人が乗ってきた馬車を置ける場所もなさそうである。
その様子からすでにメビウスは宿泊を諦めているようだがセフィーリアに諦めさせる意味もあるのか宿屋の状況を聞きに行くかと言う。
セフィーリアは諦めきれないようで大きく頷くとメビウスは馬車から降りると宿から少し離れた場所に馬車を止めて2人で宿屋へと向かう。
「こ、混んでいますね」
「そうだな……何やっているんだよ。さっさとしろ」
宿屋のドアを開けると酒場も兼業しているようでホールになっているのだがホールは多くの冒険者風の人達で溢れかえっている。
冒険者達は昼間から酒をあおって大声をあげており、セフィーリアは大きく肩を落とすがメビウスは気にする事はなく、ホールの中を進んで行く。
取り残されたセフィーリアを見て、冒険者達は彼女に声をかけ始めるとメビウスが戻ってきて彼女の手を引っ張る。
引かれる手にセフィーリアは顔を赤くするのだがその手を引くメビウスが気が付く事はない。
「女連れ? 珍しいね」
「いろいろと有ったんだよ」
2人が店の奥へと進むとこの宿屋の店主らしき中年の女性がメビウスとセフィーリアを見て下世話な笑みを浮かべた。
いつも、竜の焔亭でターニアや常連客にからかわれているため、メビウスはその笑みに反応する事無く大きく肩を落とす。
すでにからかわれる事になれているメビウスとは違ってセフィーリアの顔は真っ赤に染まっており、彼女の顔を見た女店主は楽しそうに口元を緩ませる。
「……それで、なんでこんなに混んでいるんだよ?」
「決まっているでしょ。一獲千金を狙ってよ。メビウスもそれ狙いでここに来たんじゃないの?」
話に付き合っていては時間の無駄と判断したメビウスはホールで酒を飲んでバカ騒ぎをしている冒険者達を指差して言う。
女店主は多くの人間が村に来た事に喜んでいるのだが、メビウスもその1人だと思っているようでわかっていると言いたいのか大きく頷いている。
ただ、メビウスは煉獄鳥と成り行きで月光草を取りに来ただけであり、この村に冒険者達が来た理由はわからない。
「俺はいつも通り、食材を取りに来たんだよ。こんなに人が集まる事なんか知らない」
「そうかい? なんかね。ヒュプノパイソンが大量に発生しているみたいでね。狩って肉や鱗に毒袋を売って大儲けしようって冒険者が溢れているのよ。あんただって、使うだろ?」
煉獄鳥や月光草の事には触れず、いつもの事だと言うメビウスに女店主はヒュプノパイソンが多く出没している事を伝える。
1匹でも大変だったヒュプノパイソンが何匹も出ていると聞き、セフィーリアの顔は真っ青になるのだがメビウスは気にする事はない。
「ヒュプノパイソンなら必要ない。この間、狩ったばかりだ。俺の目的は別だ」
「そうなのかい。それなら、何を狩りに来たんだよ。さっきも言った通り、ヒュプノパイソンが大量に発生しているんだ。早くしないと他の生き物は食い尽くされちまうよ」
ヒュプノパイソンなど眼中にないとため息を吐くメビウスの言葉に冒険者達の視線が彼に集まった。
この場所にいる冒険者達はメビウスの事を知らないようで若造が生意気な事を言うなと声が上がっているが女店主だけは彼の実力を熟知しているようで驚いたような表情をした後、儲け話になると判断したのか口元を緩ませてターゲットを聞く。