31品目
「あ、あの。こんなにどうするんですか?」
「気にするな。お前の家の金だ」
診療所を出た2人はその足でブロムの武器屋へと向かった。
自分は騎士隊の装備を持っていたため、首を傾げるセフィーリアをしり目にメビウスはブロムに大雑把に欲しい装備を説明する。
大口の取引にブロムは嬉々として彼女に使えそうな武器や防具を引っ張り出してくるのだが積み重ねられているその多さにセフィーリアは顔を引きつらせている。
ただ、メビウスはラングラドが経費をオーミット家で持つと言っていた事もあり、嫌がらせの意味も込めているようで気にする事はない。
「あ、あの。ブロムさん、私、剣も鎧も持っていますよ」
「持っていると言ったって、形だけのガラクタだろ。だいたい、煉獄鳥に炎なんて吐かれたら、鎧も剣も溶けちまう。メビウスに作った矢のような炎を防げるような物がないと簡単に焼け死ぬぞ」
セフィーリアはこのままではいけないとブロムに声をかけるのだが、武器屋のブロムから見れば騎士が装備している武具はただの飾りだと言い切る。
騎士としての象徴である騎士鎧と騎士剣をバカにされて複雑な表情をするセフィーリアだがメビウスとブロムが気にする事はない。
「しかし、煉獄鳥を狩りに行くって言っていたのに月光草か? ずいぶんな方向転換だな」
「それに関して言えば何も言えないな。ただ、煉獄鳥より危険なヤツは出てこないだろ」
魔物の知識が少ないセフィーリアを無視し、おかしな展開になっている事にブロムは肩を落とす。
メビウスも流されている感じしかしないようでため息を吐きはする物の月光草に近づく魔物には特に危険を感じていないようで面倒だと言いたげである。
魔物相手にもいつも通りのメビウスにブロムは頼りになると言いたいのか苦笑いを浮かべているが何か見つけたのか不意に手を止めた。
「これなんてどうだ? 炎すら斬り伏せると言われた剣星が使っていた聖剣のレプリカ……と死んだ親父が言っていた」
「……偽物じゃねえかよ」
ブロムが引っ張り出した剣は赤い刀身をしており、かなり業物のように見えるが説明は胡散臭い。
バカな事を言っていないで働けと言いたいのか、メビウスはカウンターを指で叩く。
彼の様子にブロムは苦笑いを浮かべるのだが、メビウスが言うような武具は取り扱っていないようで首を傾げて黙り込んでしまう。
「今更だけど、お嬢ちゃんが使う武器っているのか?」
「今までのやり取り、全部否定かよ」
時間をかけた上ででてきた言葉は今までのやり取りを否定する言葉であり、眉間にしわを寄せたメビウスは大きく肩を落とす。
メビウスの言葉にブロムは苦笑いを浮かべながら、積み重ねていた武具を片付け始める。
その様子にメビウスは時間の無駄だったと頭をかくとここに居ても無駄だと思ったようでセフィーリアの肩を叩くのだが彼女からの反応は鈍い。
何かあったのかと思い、メビウスが彼女の視線の先を追いかけるとセフィーリアは先ほどブロムがレプリカと言っていた剣に目を奪われているように見える。
「お嬢ちゃん、気に入ったのか?」
「は、はい。ど、どうしてかわからないのですけど、不思議な感じがして」
2人の様子に片付けの手を止めて、ブロムがセフィーリアに声をかける。
声をかけられたセフィーリアは慌てて返事をすると不思議な感じがするのだと自信なさそうに頷いた。
彼女の言葉にメビウスは不思議そうに剣を覗き込むが彼にはセフィーリアが言っているおかしな感覚などわからないようである。
「不思議な感じ? ……全然、そんな感じがしないんだけど、気のせいじゃないのか?」
「メビウスは腕力で乗り切るって感じだからな。レプリカと言っても不思議な力が宿る時もあるっているし、わかる人間にはわかるんだな」
手に取り、様々な角度から剣を見てみるメビウスだがさっぱりわからないようで怪訝そうな表情をする。
ブロムはそんな彼をからかうように大袈裟に頷いて見せるとバカにされているとわかったようでメビウスは不機嫌そうに顔をしかめた。
「い、いえ、きっと、私の勘違いですよね。ブロムさん、ご迷惑をおかけしてすいませんでした。メビウスさん、行きましょう」
「そうだな……そんなに気になるか?」
2人の様子にここで揉めても困る事や自分より、実力がかなり上のメビウスがわからないと言っているのだがから気のせいだろうとセフィーリアは決めて話を終わらせようとする。
しかし、やはり何かが引っかかっているようでメビウスの手にある剣を視線が追いかけてしまい、メビウスと目が合ってしまうのである。
彼女の反応にメビウスは不思議そうに首を傾げると彼女は気まずそうに苦笑いを浮かべながら遠慮がちに頷いた。
「いや、気になるなら、お嬢ちゃんが持っていたらどうだ? たまに持ち主と武器が引かれあうって事があるらしい。売れ残りだし、安くしとくぞ」
「……売れ残りなら、ただでくれよ」
彼女の様子にブロムは武器屋の勘なのか、その剣はセフィーリアが持っているべきなのではないかと言うが、ただで渡す気は無いようである。
メビウスはケチだとため息を吐くのだが彼も客商売のためか、それは出来ないと首を振っている隣でセフィーリアは考え込むと購入する事を決意したようで大きく頷いた。
「か、買います。買わせてください」
「毎度あり。お嬢ちゃんだし、サービスしておくぞ」
購入を決めたセフィーリアにブロムは笑顔で代金を請求するのだが売れ残りと言っていた割に高価だったようで彼女の顔は引きつってしまう。
それでも購入すると決めたようで彼女は懐から財布を取り出してお金を数え始めた。
「経費は兄貴が出すって言っていただろ。なんで、自分の財布を出しているんだ?」
「わ、私の使う武器なので自分で買いたいと思います」
彼女の様子にメビウスは不思議そうに首を傾げるのだがセフィーリアは自分で払わなければいけないと考えているようである。
それは自分が引かれてしまったと言うだけの理由でラングラドに代金を払わせるわけには行かないと彼女なりにラングラドに気を使っているようであり、メビウスは理解出来ないと言いたいのか大袈裟にため息を吐く。




