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29品目

「クズ部隊ね……どっちがだよ」

「口だけの他の騎士隊より、第8隊の方がマシだと思うけどね。それも次期オーミット家のご当主様はそれくらいもわからないようね」


 ラングラドの第8騎士隊とセフィーリアの評価にメビウスはわざとらしいくらいに大袈裟にため息を吐いて見せた。

 その様子に不快感を示すラングラドだがターニアもメビウスの意見におおむね賛成のようで小さく頷くとセフィーリアに気にしすぎてはいけないと言いたいのか彼女の肩を叩く。


「……結果が全てだ。それ以上もそれ以下もない」

「そう言う考えね」


 2人から批判を受けようとラングラドは考えを変えるつもりはないと言い切るのだがターニアは彼の言葉に何か感じたようでそれ以上は何も言わずに酒瓶からカップに酒を注ぐ。

 ただ、メビウスは彼女と違って彼の言葉から何かを感じ取れるほどではなく、不快感を露わにしている。その様子にターニアはくすくすと笑うが何も言う気は無いようで注いだ酒を口に運んだ。


「メビウス=ハートレットにターニア=ハートレットだな」

「何か、文句でもあるのかよ?」


 ラングラドはゆっくりとメビウスとターニアの顔を見て、2人の名前を確認する。

 すでに彼に対して不快感しか持っていないメビウスは彼を睨み返すとセフィーリアはまた力づくの行動に出られても困るためか彼の服を引っ張った。


「……別に文句などはない。ただ、月光草と言う物を知っているか?」

「月光草?」


 2人の間にピリピリとした空気が伝わっているがラングラドは気にする事なく、1つの質問をする。

 その質問にメビウスは眉間にしわを寄せてしばらく考え込んでしまう。

 一先ず、殴り合いなどにならなかった事にセフィーリアはホッとしたのか胸をなで下ろした後、ターニアへと視線を向けた。

 彼女は気にする必要はないと言いたげにお酒を飲んでおり、セフィーリアはどうして良いのかわからないようで不安そうな表情で2人に視線を戻す。


「……知らないか。役に立たないな」

「別に知らないわけじゃない」


 メビウスの沈黙にラングラドは役立たずと吐き捨てる。

 彼の態度にメビウスはムッとした表情を隠す事無く言うのだが、ラングラドは信じてなどいないようで知っているのなら説明して見ろと挑発的な視線を向けた。

 2人の間の空気は一触即発のようにも見え、セフィーリアは困り顔であるが自分には止める力もないと思っているためか何も言えないでいる。


「月の魔力が満ちた夜にだけ咲くと言われている花。サラダにすると美味いらしいが咲く時は多くの魔物を引き寄せるから採取は面倒だな」

「……それだけか?」


 メビウスは魔物専門のためか特に興味なさそうに自分の知識を披露するのだが、ラングラドはその程度の知識にしかないのかと言いたげに舌打ちをする。

 舌打ちをされるとなど思っていなかったようでメビウスの額には小さく青筋が浮かび上がった。


「後は月光草には解呪の力があると聞くわね。後は愛する女性に送ると幸せになれるとかそう言う噂もあるわね。まあ、魔力が満ちた時に花を咲かせた物だけだけどね」

「……また、呪いとかわけのわからない事を言うなよ」


 ターニアはメビウスの言葉を補足するように月下草の事を話すとラングラドの眉が小さく動く。

 しかし、メビウスはその小さな変化に気が付く事なく、呪いについて全否定をするのだがセフィーリアは彼の料理の腕が呪いによるものだと聞かされているためか苦笑いを浮かべてしまう。


「手には入らないか? オーミット家から正式に依頼しよう。今回は騎士隊を通す事はしないから安心して欲しい」

「……今度、狩りに行く場所の近くに生息しているはずだから手に入らない事はないけどな。1人じゃ無理だな」


 ラングラドは月光草に興味があるようであり、オーミット家の次期当主としてメビウスに依頼を出すと言う。

 彼の目的が何かわからないメビウスは怪訝そうな表情をするが依頼だとしても難しいようで首を横に振った。

 ただ、その断り方は1人では無理と言う人数的な物であり、実力だけで見れば無理ではなさそうに聞こえ、ラングラドはしばし考え込む。


「あ、あの。1人じゃ無理と言うのはどういう事なんですか?」

「月光草が咲いている時間は本当にわずか何だよ。その間に採取しないといけない。さっきも言った通り、花が咲く時は魔物を引き寄せる。魔物を狩っている間に花が閉じちまう」


 話について行けないセフィーリアはメビウスの服を引っ張り、説明を求める。

 メビウスは頭をかきながら月光草を採取できるのはわずかな時間の間だと告げた。

 簡単な説明ではあるがセフィーリアは理解できたようで小さく頷いた時、ラングラドは考えがまとまったようで「ふむ」と小さく声を漏らす。


「セフィーリア、メビウス=ハートレットに同行しろ。騎士隊への休職届は私が出して置こう。依頼料はそちらの言い値で良い」

「は、はい!?」


 彼が出した答えは人手が足りないのなら、人手を用意すれば良いと思ったようで彼女に指示を出した。

 予想していなかった言葉にセフィーリアは驚いて声をあげてしまう。その声は了承を意味するものではないのだがラングラドは立ち上がり診察室を出て行こうとする。


「待てよ。こいつを連れて行っても役に立つわけがないだろ」

「……役に立つかどうかではない。月光草を採って来いと言っているんだ。移動や採取に必要な道具があればセフィーリアに伝えておけ。出発は明朝だ」


 メビウスは勝手に話を決めるなと声を上げるのだがラングラドは聞き入れるつもりはないようで言いたい事だけを話す。

 彼の態度にメビウスはかなりイラついているようで舌打ちをした時、ターニアが机を叩いた。その音に視線は彼女に集中するとターニアは小さく口元を緩ませる。

 彼女の表情にメビウスは何かイヤな予感がしたようで眉間に深いしわを寄せた。


「報酬がこっちの言い分で良いんなら、フィーちゃんを貰っても良い。あなたがオーミット家を継ぐなら問題ないでしょ」

「……おい。バカな事を言うな」


 報酬はセフィーリアだと笑うターニアにメビウスはすぐにおかしな事を言うなと大きなため息を吐く。

 メビウスはバカな事を言うなと言っているがセフィーリアの顔は真っ赤に染めて慌てている。


「それでも良いならそれで構わない……オーミット家の名前を利用しようとするものに嫁ぐよりは幸せだろう」

「そうね」


 ラングラドは彼女の表情を見て小さくため息を漏らした後、診察室を出て行ってしまう。

 彼が漏らした言葉はメビウスとセフィーリアには聞こえていないようだがターニアの耳にはしっかりと聞こえていたようで彼女は楽しそうに笑っている。


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