27品目
「人が話をしているなかに入ってきて好き勝手言っているんじゃねえよ。何様のつもりだ?」
「……何度も言わせるな。誰が貴様に発言の許可を出した?」
護衛達から向けられる殺気など物ともせず、メビウスはセフィーリアと男性の間に割って入る。
男性はメビウスの相手をする事が時間の無駄だと判断したようで小さく首を動かして護衛達に彼を斬り捨ててしまえと指示を出した。
「どうして、俺がお前の許可を得ないといけないんだ? わかりやすく説明してくれるか?」
「……役に立たない護衛だ」
指示と同時に護衛達は剣を抜いてメビウスへと剣を振り下ろすが彼は表情1つ変える事無く、その剣をかわす。
護衛達は初撃が交わされる事は想定外だったようだがすぐに切り替えて、斬り返そうとするのだが彼らの目にはほぼ同時に拳が映った。
その拳を視認した瞬間には顔面を殴り飛ばされて護衛達は地面に転がってしまう。突然の事に戸惑う護衛達の1人の腹をメビウスは踏みつけながら聞く。
たった1人を斬り捨てる事も出来ない護衛を見て、男性は吐き捨てるように言うと自分達の価値を示そうと護衛達はすぐに立ち上がろうとするのだがメビウスが睨みを聞かせると威圧されてしまったのか身体を硬直させてしまう。
「メ、メビウスさん、何をしているんですか!? お、お兄様、申し訳ありません」
「メビウス? ……貴様がメビウス=ハートレットか!?」
護衛達を黙らせ終えたメビウスの視線はゆっくりと男性へと向けられようとするのだが目の前で起きた事件でセフィーリアは正気に戻ったのか顔を青くしながらも深々と頭を下げてメビウスの非礼を詫びようとする。
セフィーリアの口から出たメビウスの名に男性が感嘆の声をあげた瞬間、彼の頬には衝撃が走った、
「おい。これは何だ?」
「メ、メビウスさん、何をしているんですか!? お、お兄様、大丈夫ですか?」
男性はメビウスの1撃に耐え切る事が出来ず、キレイに地面を転がって行く。
メビウスは転がって行った男性の元まで歩くと彼の胸ぐらをつかみ、セフィーリアに男性の正体について聞くのだが彼は白目を剥いて気絶している。
その様子にセフィーリアは顔を真っ青にしたまま、男性の状態を確認するのだが彼女の耳が彼に届く事はない。
「……メ、メビウスさん、どうするんですか?」
「あ? 知るかよ。俺に難癖付けて来たのはこいつらだろ」
顔を引きつらせるセフィーリアだがメビウスから言わせればケンカを売ってきたのかこの男性であり、自分に悪いところなど何もない。
実際、威圧され未だに動く事の出来ない護衛達が先に剣を抜いた事により、メビウスの攻撃が始まったため、このやり取りを見ていたやじ馬達は彼の言葉に頷いている。
「で、ですけど、やり方が」
「話にならないな……おい」
男性とのやり取りからさすがにメビウスもこの男性が彼女の身内だと言う事は理解できているがセフィーリアの様子では話にならないため、護衛の1人に声をかける。
声をかけられた護衛はびくっと身体を震わせてしまい、反応に困ったメビウスは大きく肩を落とした。
それと同時に彼が放っていた威圧感は霧散してしまったようで護衛達は解放された事にほっと胸をなで下ろした後、このままでは自分達が殺されてしまうとでも思ったのか守るべき主を置いて逃げ出してしまう。
「……せめて、持って帰れよな。おい、これはどうしたら良いんだ?」
「わ、私に聞かないでください……この状態で屋敷に運ぶわけにもいきませんよ。だからと言ってお兄様を置いて行くわけにもいきませんし」
小さくなって行く護衛達の背中にメビウスは呆気に取られたようで、追いかけるタイミングを逃してしまった。
最初は捨てて帰ろうかとも考えたようだが一応はセフィーリアの身内であるため、彼女に意見を求める。
しかし、そんな事を言われても彼女には答える事が出来ず、顔を青くしたまま混乱し始める。
「……仕方ない。おい、行くぞ」
「は、はい!? ま、待ってください!? メビウスさん、せめて、背負ってください!? ひ、引きずっています」
彼女の慌てる姿に少しくらいは自分が悪いのかもと考えたメビウスは男性を小脇に抱えて歩き出して行く。
セフィーリアは返事をした後に先を歩き出したメビウスを見て、驚きの声を上げた。彼女の言葉にメビウスは1度、面倒だと言いたげ舌打ちをした後、男性を背負い直して歩き出す。
彼の様子にセフィーリアはホッと胸をなで下ろしながらもメビウスが男性をどこに運ぶつもりかわからないため、不安そうな表情をして後を追う。
「あ、あの。ここは?」
「診療所だ」
前を歩いていたメビウスが立ち止まるのを見て、セフィーリアは首を傾げる。
彼が立ち止まった場所は竜の焔亭の裏側にある建物であり、メビウスは診療所だと言うのだが建物の周りには病人やけが人だけではなく、自分達以外の人の姿が見つからない。
そんな様子から診療所と言われても不安しか感じないセフィーリアの心配を余所にメビウスはドアを開けるとずかずかと進んで行ってしまい、彼女は慌てて彼の後ろに続く。
「あれ? メビウスにフィーちゃん、いらっしゃい」
「ターニアさん?」
診療所には人の姿はないのだが診療室と思われる奥のドアをメビウスが開けると酒瓶を抱えたターニアが出迎えてくれる。
セフィーリアはなぜ彼女がこんなところにいるのかと不思議そうに首を傾げるのだがメビウスは彼女の疑問に答える事無く、男性を診療台の上に投げ捨てるように置く。
「患者だ。たまには働け。うちの店にツケだってたまっているんだからな」
「えー。兄さん、聞いて。メビウスが私の事、無職のごくつぶしだって言うの。酷いと思わない? フィーちゃんも酷いと思うわよね?」
男性を指差しながら、ターニアに向かい診察をするように言うメビウスだが今は亡き、兄に泣き言を行ったターニアはセフィーリアに不平不満をぶつける。
ただ、彼女は自分の置かれている状況が理解できないようで彼女の頭はパニックを起こしているようで言葉を返す事は出来ない。