26品目
「……なんで、俺がこんな事を自分で行けよな。めんどくさい」
常連客達が店内を片付けるだけではなく、店を出た後に本日の営業は終了と触れ回ったようで客1人来なくなってしまった。
この状況はメビウスが暴走した時にごくまれに起きる現象であり、こうなってしまうとその日はターニアが酒を取りにくるだけなのである。
そう考えると店を空けているのはメビウス的には赤字でしかなく、彼はしぶしぶブロムから預かった首飾りを手に騎士の詰め所へと向かうのだが不満たらたらであり、不機嫌そうな表情をして歩いている。
そのため、彼を知っている者達は彼を避けるように道を開けているのだがメビウスは気が付く事はない。
「第8隊の奴らが居れば良いけど……」
「メビウスさん、どうかしたんですか? ……あの、場所を移動しませんか?」
用がない時はセフィーリアとは彼女が街の見回りを行っている時に出くわすのだが用件がある時に限って街中では彼女には出会えない。
騎士の詰め所の前に着いたメビウスは騎士達には1部例外を除きあまり良い印象がないため、知り合いの多い第8騎士達がいる事を祈って詰め所の中を覗き込む。
メビウスの顔を見つけて先日、竜の焔亭のドアを開けて返り討ちになった騎士達が身体を震わせるがメビウスには彼らを叩き潰した自覚など皆無のため、気にする事無くセフィーリアを探す。
彼女はすぐに見つかるのだが彼女は隅の方で暗い表情をしている。その様子にメビウスは何かあった事を察して声をかける事をためらってしまう。
彼がためらっている間にセフィーリアは視線に気が付いたのか顔をあげた。彼女はメビウスの顔を見て、暗い表情を隠すと何か用事があると思ったようですぐに駆け寄ってくるのだがこの場で話をするのは居心地が悪かったようでメビウスを外へと誘う。
特に反対する理由もないメビウスは先ほどの彼女の表情に違和感を覚えながらも構わないと頷き、2人で詰め所を後にする。
「ブロムからの預かり物だ」
「ブロムさんからですか? ……水晶の首飾り? キレイですね」
「……魔物の部位を加工した物らしいけどな」
「そ、そうなんですか? あ、あの、ブロムさんはどうしてこれを私に?」
中央広場に移動するとメビウスは時間を無駄に使う気は無いようで懐から預かった首飾りを取り出して見せる。
なぜ、ブロムからの贈り物に不思議そうに首を傾げる彼女の手にメビウスは首飾りを載せた。
セフィーリアは首飾りに付いている水晶に目を輝かせるとメビウスは少し面白くなかったのか材料を告げる。
その言葉にセフィーリアは小さく頬を引きつらせるが魔物が様々の物の材料に使われている事を知っているようで気にしない素振りをするとブロムが自分に首飾りをくれた理由を聞く。
しかし、メビウスは首飾りを預かっただけであり、彼女の質問に答える事は出来ない。
「……知るか。俺は預かっただけだ」
「そうなんですか? でも、魔物の1部を加工した物なら高価な物ですよね。受け取っても良いんでしょうか?」
「作った本人が良いって言っているんだから、良いんだろ。それに元手はほとんどかかってない。うちの店から出た廃棄物だからな」
素気なく答えるメビウスにセフィーリアは小さく表情を緩ませた後、高価な物のため、本当に貰って良いのかと言う。
ブロムから任されたため、受け取って貰わなければ調理器具を取り上げられるかも知れないと考えたメビウスは彼女が受け取りやすいように高価な物では無いと答える。
それでセフィーリアは受け取って良い物だと判断したようで首飾りを両手で包み込むように握って笑顔を見せた。
彼女の笑顔にメビウスは直視できなかったのか視線を不意にそらしてしまう。
「どうかしましたか?」
「何でもない。俺の用件は終わったから、店に帰るぞ」
「は、はい。あ、あの、お店に戻ると言っても今日は定休日じゃないんですか? 違うんですか? すいません!?」
彼の反応にセフィーリアは不思議そうに首を傾げるがメビウスは彼女の顔を見るのが気恥ずかしかったなど言えるわけもない。
逃げるように竜の焔亭に戻ろうとするメビウスだがなぜか店が定休日のような状態だと言う事は騎士の詰め所にまで伝わっているようである。
彼女まで知れ渡っている事にメビウスは眉間にしわを寄せるとセフィーリアはおかしな事を言ってしまったと思ったようで慌てて頭を下げた。
「いや、別にお前が謝る事じゃない」
「……セフィーリア、こんなところで何をしている?」
「お、お兄様、こ、これはその」
悪い事をしていない彼女が謝罪する姿にメビウスがため息を吐いた時、彼の背後からセフィーリアの名前を呼ぶ声が聞こえる。
その声にセフィーリアはゆっくりと頭を上げると自分の名前を呼んだ人間の顔を見て、表情を強張らせた。
メビウスは声のした方を振り返ると切れ長でどこか冷たい目をした男性が3名の護衛らしき男達を連れて立っている。
男性達の顔に心当たりのないメビウスだが、自分が口を出す事でもないと思ったようで彼女の反応を待つと彼女は表情を強張らせたまま男性を兄と呼ぶ。
ただ、その声は震えており、彼女が男性と上手く行っていないのは明らかである。
「どもっていないで、質問に答えろ。セフィーリア、こんなところで何をしている? 私もお前のような出来損ないの相手をしているほどヒマではないのだ。簡潔に答えろ」
「俺が頼みたい事があって呼び出したんだよ」
「……貴様には聞いていない。誰が貴様に話す事を許可した?」
震えるセフィーリアに向かい、男性は更なる追求をするが彼女の顔は青ざめており、まともに返事など出来そうにも見えない。
このままでは収集が付かないと判断したメビウスは自分が矢面に立とうと声をかけるが男性はメビウスへと一瞬、鋭い視線を向けるが興味などないと切り捨てるだけではなく、完全に彼の事を見下している。
その反応にメビウスの額には青筋が浮かび上がった。護衛達はメビウスの様子に男性を守るためにならば彼を斬り捨てても良いと思っているようで剣に手をかける。




