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25品目

「うちの店は見世物じゃないぞ」

「その辺は親父さんの頃から変わらないだろ。それだけ、この店が愛されているって事なんだ。諦めろ」

「諦めろってのはおかしいと思うけどな。しかし……愛されているねえ」


 呆れ顔のメビウスにブロムは光栄な事なんだぞと言うのだが彼は疑いの眼差しでバカ騒ぎを始めている常連客へと視線を向けた。

 常連客達は勝手に酒を出してバカ騒ぎに発展しており、その様子にメビウスは信じられないと言いたげに肩を落とす。


「……少しは信じてやってくれ」

「そうは言ってもな。それであいつを探していたみたいだけど、どうかしたのか? さっきも言ったけど、何か用があるなら騎士の詰め所に行けよ」

「詰め所は遠慮したいな。お嬢ちゃん以外にはバカな騎士の相手はしたくないからな。実はな。お前が持ってきた物から、1つ面白い物を作ったから、お嬢ちゃんにプレゼントしようと思ったんだ」


 彼の視線を追いかけたブロムもどこか不安になったようで眉間にしわを寄せるのだが自分の言葉を否定するのは情けなかったようで希望的な言葉を言う。

 メビウスは常連客達に何か言うのもバカバカしく思えたようでため息を吐いた後、ブロムがセフィーリアを探していた理由を聞く。

 ブロムは懐から1つの首飾りを取り出して見せる。首飾りには透明な水晶のような物が輝いているのだが自分が渡した魔物の1部には水晶のような物はなく、メビウスは不思議そうに首飾りを覗き込む。


「……こんな物、有ったか? 全然、見覚えがないんだけど」

「一応は使えるように加工したからな。お前が魔物を食材に加工するように武器屋は武器屋で魔物の部位を加工するんだから、さっきの弓も矢もそれなりにいろいろしているんだ。ありがたく思えよ」

「いろいろね……それで本音は頼んだ矢はまだしも弓まで持ってきたんだ。何かあったんだろ?」


 じっくりと首飾りを見てもまったく心当たりのないメビウスは不思議そうに首を傾げる。

 ブロムは武器屋としての当然の仕事をしたと胸を張って見せるのがメビウスから貰った魔物の1部であり、元手がただ同然のためか裏があると思ったメビウスは疑いの視線を向けた。

 その視線にブロムはバツが悪そうに視線をそらしてしまい、明らかに裏があるように見える。


「できれば、また、余った魔物の部位をただ同然でいただけないかと」

「……ずいぶんと情けない発言だな。言っていて恥ずかしくないのか?」

「良いだろ。普通に鉄を加工して鋼にするよりも多少時間はかかるけど軽くて強力な武器ができるんだ。お前だって、ゴミになる物を引き取って貰えるんだ。ありがたいだろ」


 追及にブロムはすぐに観念するのだがあまりの情けない答えにメビウスの眉間には深いしわが寄った。

 隠す必要がなくなったブロムは胸を張ってむしろ強気に自分に魔物の部位を譲渡しろと言う始末である。

 その様子に頭が痛くなってきたのかメビウスは頭を押さえるのだが実際、先日まで料理に使えなかった部位はただのゴミ同然だったため、引き取って貰えるのはメビウスにとっても利点のある事である。


「……わかったよ。だからと言っても何が出てくるかわからないからな」

「それでもかまわない。使えなさそうな物は他に必要なヤツに渡すからな」

「そうか」


 承諾はするがメビウスはブロムがどのような物が欲しいかはわからない事や若干の嫌がらせなのか不要な物をすべて渡すと言う。

 それにも関わらず、ブロムはすぐに頷くだけではなく、彼より後にも魔物の部位を欲しがる人間はいるようでむしろ余り物で商売する気だと言う事が容易に想像できる。

 彼の様子にどこか納得が行かないのだが、自分では有効的に使用する方法も考え付かないためかそれ以上は何も言えないようで眉間にしわを寄せてしまう。


「これで用件は終わりか?」

「そうだな。それじゃあ、それ、頼んだぞ」

「あ? なんで俺が……何だよ?」


 ブロムは自分の用件は終わったと席から立つと水晶の首飾りをセフィーリアに渡して置いて欲しいと言うが頼まれてもメビウスには頷く理由がない。

 首飾りを叩き返そうとするとブロムは何かあるのか小さく口元を緩ませながら、運んできた荷物の中に腕を突っ込んだ。

 何を採り出そうとしているのかわからないため、怪訝そうな表情をしたメビウスだが荷物から出てきた物を見て目を奪われてしまう。

 メビウスの変化に2人の話に聞き耳を立てていた客達がカウンター席を覗き込むとそこには鍋やフライパン、砥石と言ったたくさんの料理器具が並べられていた。

 多くの調理器具に客達は意味がわからずに顔を見合わせた後、首を捻るのだがメビウスは1つ1つ手に取ってその出来を確かめると満足の行く物のようで感嘆の声を上げている。


「お前がそれをお嬢ちゃんに持って行ってくれるなら、これをやろう」

「……これはどうしたんだ?」

「決まっているだろ。お前から貰った魔物の部位を使って、俺の武器屋としての鍛冶の能力やその他もろもろを使って作った品々だ。自分で言うのも何だが傑作だ。どうだ? 欲しいだろ」

「もちろんだ!!」


 彼の反応にブロムは当然だと言いたげに勝ち誇った表情をして笑う。

 鍋を片手に聞き返すメビウスにブロムは自分で作り上げたと胸を張って高笑いを上げた。

 その様子にメビウスはブロムを尊敬のまなざしで見つめ、彼のまなざしに答えるようにブロムは任せろと言いたげに右手を上げている。

 しかし、常連客達は武器屋のブロムがどうして調理器具を作っているんだよと言う微妙な空気を醸し出しており、2人との温度差は激しい。


「お、おい。メビウス、戻ってこい。良くわからないけど、お前、だまされているぞ」

「……ブロム、お前、何になる気だよ」

「これはダメだな。お前ら、撤収の準備をしろ。今日は解散だ」


 2人の盛り上がりように耐え切れなくなった常連客が声をかけるのだがこのおかしな空気は収拾がつきそうにもない。

 その様子に常連客達は自分達が使っていた食器を戻し、飲み食いした分の代金をまとめ始める。


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