表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/67

20品目

「お願いします」

「しつこい。相手をしているほどヒマじゃないんだ」


 メビウスはセフィーリアにカウンター内を占拠されているため、不機嫌そうな表情で接客を行っている。

 接客業としては疑問を抱く態度ではあるがこの店のドアを開く客達にはいつもの事であり、誰も気にする事はない。

 セフィーリアが厨房に入っているせいか、店のドアを開く客達は後を絶つ事はない。それでもロイックはスキを見つけて煉獄鳥の事を教えて欲しいと頭を下げるのだがメビウスは聞き入れる気などさらさらなく、彼が頭を下げる横を通り抜けて行く。

 その様子にセフィーリアは何か言いたげではあるが2人で頭を下げて追い出されては何もわからないため、調理に集中しようとしている。ただ、元々、不器用な彼女は2人が気になるためか食器を落とし、メビウスに睨まれてしまい、身体を縮めている。


「おい」

「す、すいません」


 何度目かの食器を落とす音が店内に響き渡った時、怒りが限界に達したのか、彼女の失敗に目を閉じていたメビウスが彼女へと鋭い視線を向けた。

 その視線にセフィーリアが慌てて頭を下げると基本的に常連客は彼女の味方であり、メビウスを非難する声が上がり始める。

 自分の店にも関わらず、味方がいない事に額に浮かび上がっている青筋がぴくぴくと動く。彼の表情に気が付き始めた常連客の1部は被害には遭わないようにとそそくさと会計を済ませたり、店の端の席に移動したりしているのだが多くの客達はわざと彼を怒らせようとしているのかメビウスをあおる事を止めない。

 その行為は完全にセフィーリアの首を絞める行為なのだがすでに多くの客達が同調しているせいか一向になり止みそうにはなく、メビウスはキレる寸前なのか青筋をぴくぴくと引きつらせながら彼の表情は笑顔に変わって行く。


「メ、メビウスさん、落ち着きませんか?」

「あ?」

「相変わらず、汚い店に最底辺の客どもだな」


 メビウスがキレる寸前なのは目の前に立っていたセフィーリアが1番、理解している。

 先ほどまで自分への怒りが店内の常連客達に向かったのがわかった。顔を引きつらせて彼に落ち着くように声をかけるとメビウスはゆっくりと彼女に背を向けた。

 その時、店のドアが開き、先日、魔物討伐依頼の話をしに来た騎士達が店のドアを開けて店に入ってくる。彼らはメビウス達の事を人とも思っていないような態度で店に入ってくるなり、竜の焔亭をバカにする。

 そして、キレる寸前まで来ていた彼の怒りの矛先が彼らに向けられるのが当然だった。

 客達に向けられるはずだった彼の放つ殺気にも似た気配は一気に騎士達に向けられるのだが、彼らは自分達が討伐する事ができなかった魔物討伐を行ったメビウスの実力を測れないくらいに実力がないようで最初にこの店をバカにした騎士に同調するように高笑いを浮かべた。


「……あのバカ達、命知らずだな」

「メビウスから向けられる殺気にも気づかない何てな。フィーちゃんやロイックの方が実力は上なんじゃないか?」


 メビウスの背後から駄々漏れしている殺気にも似た気配にあおっていた常連客達も自分達がやっていた過ちに気が付いたようで、彼の放つそれを一身に受けながらも何も理解していない騎士達の無事を祈るように手を合わせた。

 それでも騎士達は自分達に起きる身の危険にまったくと言っていいほど気が付いていない。


「おい。そこの平民!?」

「……店の中に入って来たゴミ虫は片付けないといけないよな?」


 騎士の1人が高圧的な態度でメビウスに声をかけようとするがその瞬間に蹴り上げられて天井にぶつかった後、床に落ちてくる。

 目の前で自分と同程度の質量の物体が天井まで蹴り上げられた事に騎士達の高笑いは止まり、目の前で起きた事が信じられないようで顔を見合わせた。

 その瞬間に自分達に近づいている死の気配に気が付いたようで顔を真っ青にするとこの店の中に知っている顔がある事にそのうちの1人が気づく。


「ロ、ロイック=フォートロン、セフィーリア=オーミット、何をしている。この平民を斬り捨てろ!!」

「セフィーリア、貴様のような役立たずを貰ってやるのだ。侯爵家に名を連ねる者になるのだ。主人の命を聞け!!」

「これだから、出来損ないの第8隊は使えない。私達の命令は絶対だ!! 貴様達の家がどうなっても良いと言うのか!! この平民を斬り捨てた後、貴様達も斬り捨ててやる」


 気づいた1人がセフィーリアとロイックにメビウスを殺すように大声で命令を下すと先頭で店に入って騎士が彼女を名指しで命令をする。

 言葉から彼はセフィーリアの婚約者のようにも聞こえるがその言葉は婚約者に話をするよりは飼い主が飼い犬に命令をしているようにも聞こえた。

 セフィーリアは騎士の自分への命令に表情を強張らせるが当然、剣を手に取ってメビウスに斬りかかるような事が出来るわけがない。それはロイックも同様であり、その命令は聞けないと首を小さく横に振った。

 2人の態度は自分達の自尊心を傷つけるものだったようで声を張り上げる騎士達だが、その言葉は自分達の力ではなく家名に頼り切った物である。


「……バカだな。フィーちゃんにあんな事を言う前に逃げれば命だけは助かったかも知れないのに」

「そうだな。それに頭にきているのはメビウスだけじゃねえ」


 がなり立てる騎士達の様子に嫌悪感を示しているのはメビウスだけではなく、常連客達はゆっくりと移動して彼らが逃げ出さないようにドアの前を固めてしまう。

 それに気が付かない騎士達は腰に差していた剣の柄を握ろうとするがすでに彼らの目の前には怒りの限界を超えて満面の笑顔を浮かべたメビウスが立っているのだ。

 目の前にある恐怖に威圧されて騎士達は身体をこう着させてしまった。ただ、相手が動けようと動けなかろうとメビウスにはまったく関係などなく、笑顔のまま彼らの腹を殴り、下がった頭をちゅうちょする事無く拳で打ち抜いて行き、流れるようなメビウスの攻撃に騎士達はすぐに意識を刈り取られてしまう。それで騎士達への制裁は終わるかに見えたがなぜか常連客達は手つきで騎士達を縛り付けて行く。


「あ、あの」

「気にするな。親父さんの代からの日常の風景だ」


 目の前で起きる惨劇の様子にセフィーリアとロイックは顔を引きつらせているが常連客は誰も気にする事はない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ