19品目
「煉獄鳥の羽根か? ……初めて見たな」
「とりあえず、出来る処理はしておいたからすぐに使えると思うけど、後はこの辺なんだけど使えないか?」
「……お前、こんな物をため込んでいたのか?」
食堂の仕事をやりながらターニアの指示により、煉獄鳥の羽根を矢羽に使いやすいように加工してブロムの店にメビウスは運び込んだ。
ブロムは武器屋を営んで長いが煉獄鳥の羽根など見た事ないと物珍しそうに羽根を眺めている。
メビウスはターニアから聞いて料理して残った魔物の骨や皮などを持ち込んできており、ブロムはその量に眉間にしわを寄せた。
「料理した後に残った物だからな。きちんと処理しないと厄介なゴミだからな。それで使うのか?」
「……俺は今からゴミを引き渡されようとしているのか?」
「やっぱり使えないか?」
知らなかったとは言え、料理の際に出てきたゴミだと思っていた物を引き取って貰えそうなメビウスは引き取って貰えるだけでも充分なようだ。
彼の態度には納得が出来ないようではあるが魔物の身体の1部を使った武器や防具も確かにあり、メビウスにとってはゴミでもブロムにとっては宝の山である。
納得が出来ずに眉間にしわを寄せているブロムの様子にターニアに騙されたとメビウスは思ったようで運んできた荷物を片付けようと手を伸ばす。
「いや、慌てるな。要る。買い取る」
「そうか」
「買い取りだけど……こんな物か?」
ブロムはメビウスの手をつかんで止めるとメビウスが持ってきた魔物の骨や皮に値段を付けて行く。
その値段はメビウスが想像していた物よりもかなり高い。
それなのにメビウスの表情は優れない。彼の様子にブロムは大きく肩を落とすとさらに値を上げる。
「……これ以上は無理だぞ。うちが潰れる」
「いや、こんなに要らない。俺は引き取ってくれるだけで充分だ。後、出来れば矢をただにしてくれ」
「それは俺としてはありがたいが……お前、それは商売人としてどうなんだ?」
これ以上は限界だと言うブロムに対して、メビウスは自分にとってのゴミを引き取ってくれれば充分だと笑った。
ブロムは一瞬、ラッキーと頬を緩ませるのだがすぐにメビウスの事が心配になったようで眉間に深いしわを寄せる。
「えーと、その件に関して言えば、メビウスさんのお店は根本的に間違っていると言うしか」
「……どこから湧いて出た?」
「ふ、普通に入り口から入ってきましたよ」
竜の焔亭は現在の料理の味に目をつぶれば父親の時代から高価な魔物を食材としているにも関わらず、安価で提供している異質の店である。
ブロムの言いたい事が理解できないのかメビウスが小さく首を傾げた時、彼の背後からロイックの声が聞こえた。
メビウスが振り返った先にはロイックとセフィーリアが立っており、2人の顔を見て相手をしたくないと言いたげに大きく肩を落とす。
「ん? メビウスの事は遊びだったのか?」
「何を言っているんですか!?」
「冗談だ。それで騎士様達は何か探しているのか? うちの店は騎士様達が求めるような由緒正しい物はないぞ」
昨日の様子でブロムはセフィーリアがメビウスに好意を寄せていると考えていたため、彼女が他の男を連れてきた事に首を傾げた。
セフィーリアは顔を真っ赤にしておかしな事を言わないで欲しいと声を上げるとブロムは苦笑いを浮かべた後、彼もあまり騎士には良い印象はないようで嫌味を言う。
ブロムからの嫌味にロイックは顔をしかめるがセフィーリアは嫌味に気づく余裕はないようで顔を真っ赤にしたままうつむいている。
「……それで、引き取ってくれるのか?」
「ああ。ただ、それなりに時間はかかるぞ」
「仕方ないさ。さすがに用意も何もしないで死にたくはないからな」
ロイックが自分に用がある事はメビウスには容易に想像が付いているため、相手をしたくないようで早く用件を終わらせたいようである。
メビウスの考えをブロムは理解しているようで2人を無視して話を進めて行くのだが矢もすぐには出来ないと言う。
その言葉にメビウスは頷くとロイックとセフィーリアの間を通り抜けて店を出て行こうとする。
メビウスに聞きたい事があるロイックは慌てて手を伸ばすのだが、メビウスはその手を簡単に交わし、店を出て行ってしまう。
「セフィーリア、行きますよ」
「は、はい。メビウスさん、待ってください!?」
「ただ同然で貰ったから、少しはサービスしてやらないとな……しかし、あいつ、こんなにいろいろな物をため込んでいるとはな」
2人は慌ててメビウスを追いかけて店を出て行き、3人の背中を見送ったブロムは壁にかけてあった弓を手に取るとメビウスが持ってきた魔物の1部から仕えそうな物を探す。
「メビウスさん、待ってください。話を聞いてください!!」
「断る。話を聞いたってろくな事が無いからな」
「お願いします。メビウスさん、お話を聞いてください」
武器店をでたロイックは前を歩くメビウスに話を聞いて欲しいと言う。
しかし、騎士が彼との契約破棄をしたのはつい先日の事であり、メビウスが話を聞く理由はない。
それでも話を聞いて貰わなければいけない2人はメビウスに何度も頭を下げながら、竜の焔亭の前に付いてきてしまう。
「……何なんだよ」
「煉獄鳥のような強力な魔物が近づいてきていると聞いて、黙っていられるわけがありません。何が起きているのかを教えてください。お願いします」
「そんな事を言っても他の奴らは俺が妄言を吐いていると思っているんだろ」
すでに店の前には常連客が待ち構えており、彼らはセフィーリアがメビウスと一緒にいる事に歓喜の声を上げる。
メビウスは2人を追い払いたいのだが常連客達はセフィーリアを騎士として分類していないようで基本的に彼女の味方であり、店主であるはずのメビウスの考えは却下されてしまう。
店に入るとすぐに常連客の手により、セフィーリアはカウンター内に入れられて料理を強要され、カウンター内に入れてすら貰えなかったメビウスは不機嫌そうにロイックの前にお冷を置く。




