17品目
「メビウスさん、こんなところでどうしたんですか?」
セフィーリアを含めた第8騎士隊が騎士の仕事である街の見回りをしていると武器店に入ろうとしているメビウスを見つける。
先日、魔物討伐をしていた彼は小さなナイフと鉈を振り回している事や食堂の店主と言う事もあり、メビウスには場違いのように感じた彼女は彼に近づき、声をかけた。
第8騎士隊の者達は気を使ったようでメビウスとセフィーリアを置いて見回りへと戻ってしまう。
「別に関係ないだろ。それより、置いて行かれたぞ」
「え? ど、どうしてですか!?」
「俺に聞くな。遊んでないでさっさと追いかけろよ」
セフィーリアの顔を見た彼は小さくため息を吐くと騎士達を指差した。
彼女は首を傾げた後、ゆっくりと振り返るのだが彼が指摘した通り、騎士達の姿はない。
置いて行かれた事に驚きの声を上げる彼女の様子にメビウスは興味などなく、武器店のドアを開ける。
「メビウスさんって、武器を使うんですか? この間は鉈を使っていましたけど」
「何で、付いてくるんだよ?」
「あの、先日のお話が気になって……」
なぜか、後に続いて店に入ってくる彼女にメビウスは鬱陶しいと言いたげにため息を吐いて見せた。
セフィーリアは彼が武器を選びに来た理由が狩りに行く準備だと思ったようでメビウスの動向が気になっているようである。
彼女が気になっていようとメビウスには関係ない事であり、付き合っていられないと店の奥へと向かう。
「お。女連れとは珍しいな。その子が噂のフィーちゃんか?」
「……くだらない事を言うんじゃねえよ」
「悪かったよ。それで何が欲しいんだ」
セフィーリアが慌てて追いかけるのだが、店はさほど広い店ではないため、すぐに店の奥に付いてしまう。
カウンターの中には店主である『ブロム=グラッセ』がおり、2人の顔を見て何か勘違いをしたのかニヤニヤと笑った。
メビウスはバカな事を言うなとため息を吐いて見せるとブロムは謝罪をするがメビウスとセフィーリアの関係を恋愛関係にあると考えているようで彼女を見てニヤニヤとしている。
ここで否定をすると逆に立場が悪くなってしまうと考えてセフィーリアは口を紡ぐのだがその顔は真っ赤に染まっており、ブロムは笑いをかみ殺し、肩を震わせている。
「……何、やっているんだよ?」
「いや、それで何を買いに来たんだ? うちには伝説の魔獣、神獣を殺すような武器はないぞ」
「そんな物は要らねえよ、そう言う物は騎士様だ。勇者様だが持っているもんだろ。なんで、食堂の店主が持っているんだよ」
「……メビウスさんは持っていてもおかしくないですよ。魔物を倒したらお腹の中から出てきたとか普通にありそうです」
ブロムは肩を震わせたまま、メビウスに何を買うかと聞く。ただ、彼も魔物を簡単に狩って回るメビウスが武器を求めるなら、伝説級の聖剣や魔剣だと思っている。
バカな事を言うなと呆れ顔のメビウスではあるがセフィーリアは彼の実力からして持っていてもおかしくないと思っているようで顔を引きつらせてしまう。
ただ、メビウスは魔物の中から伝説級の武器が出てくる事など夢物語だと思っており、バカな事を言うなとため息を吐く。
「それより、矢を見せてくれないか? 俺もいつまでも遊んでられないんだ」
「矢か? なんだ。飛竜でも撃ち落とすのか?」
「ひ、飛竜!?」
いつまでも遊んでいられないメビウスは話が進まない事に少しイライラしてきたようである。
それに気が付いたブロムは苦笑いを浮かべながら棚から矢を何種類か取り出す。セフィーリアは飛竜と聞き、驚きの声を上げるのだが彼女を見るメビウスの視線は冷たい。
メビウスの視線にセフィーリアは口を紡ぐが納得はいないかようで視線で説明を求めている。
「……お前、何度もうちの店で料理しているだろ」
「そ、それはそうですけど、本当に狩れる物なのかと思って」
「お、まさかの食料偽装問題か?」
「おかしな事を言うな。確かに冒険者から食材を買い入れる事はあるけど、偽物なんか買うわけがないだろ」
矢を手に取ったメビウスはため息を吐く。まるで飛竜程度でぎゃあぎゃあ騒ぐなと切り捨ててしまう。
確かに飛竜の肉が竜の焔亭に並んでいる事は多く、セフィーリアは小さく頷きはするがそれでも彼女は飛竜など簡単に倒せるものではないと考えている。
彼女の言葉でブロムはメビウスをからかうように笑うのだが、食材を偽装したとあっては店の信用問題にかかわるため、ふざけた事を言うなとメビウスはブロムを睨み付けた。
「冗談だ。それでどうするんだ?」
「なあ。炎や火に強い矢って無いか?」
「ないな。基本的に矢は使い捨てだからな。そんなに金のかかる物を必要とする奴はうちには来ない……と言うより、何を狩る気なんだよ? それによっては相談にのるぞ」
睨まれたブロムは苦笑いを浮かべると目に留まった物はあるかと聞く。
メビウスは少し考え込むが欲しい物はなかったようで他にないかと聞き返す。
ただ、彼の求める物はこの店にはなく、ブロムはため息を吐いた後、小さく口元を緩ませた。
その表情には金額しだいで対応しても良いと言う物であり、メビウスは吹っ掛けられると思ったようで大きく肩を落とす。
「……煉獄鳥」
「煉獄鳥? ずいぶんと大物だな。と言うか、お前、どこまで行くつもりだよ。この辺にはいないだろ。まあ、確かにお前がバカみたいに強くてもこんがり焼かれると死んじまうからな」
「それで出来るのかよ」
「出来る事は出来るが、値は張るし、材料も取ってきて貰う事になるぞ。それでも良いか?」
メビウスの口からでたターゲットにブロムは驚きの声を上げるが彼が特殊な矢を求める理由には納得が出来たようで小さく頷いた。
そろそろ店に戻りたいメビウスは苛立った様子で聞き返す。ブロムは苦笑いを浮かべるが条件次第だと答える。
条件があると聞き、メビウスの眉間には深いしわが寄る。その様子からはあまり出費を大きくしたくないのが見て取れるが必要な物のようでしぶしぶ頷いた。




