10品目
「……よりにもよって、お前かよ」
「どうして、そんなにイヤそうなんですか?」
「……ロイックに足手まといを押し付けられたな」
メビウスに同行する騎士は3人に決まり、その1人にはセフィーリアが含まれていた。
森を進む騎士隊の中では彼女と1番親交が深いものの、その分、彼女のダメなところも充分に知っている。
それは彼女と同じ隊の騎士達も同様であり、自分の身を守る事に精一杯のためか彼女の面倒は見ていられないようである。
そこまでわかっているのなら、同行するメンバーから彼女を外して置けば良いとは思いながらもターニアが騎士達にもいろいろとあると言っていた事を思い出し、メビウスは面倒だと頭をかく。
「何か言いましたか?」
「別に何も……この辺か?」
「いきなり、止まらないでください!?」
メビウスの言葉は彼女の耳には届いていなかったようでセフィーリアは不思議そうに首を傾げる。
彼女の様子に悪態が飛び出そうになるが落ち込まれてしまうと面倒なため、言葉を飲み込んだ後、足を止めた。
足を止めた彼の背中にセフィーリアはぶつかり、驚きの声を上げる。そんな彼女と騎士達にメビウスは静かにしろと言いたげに口元で指を立てて見せる。
彼の様子にセフィーリアは慌てて両手で口を押さえ、騎士2人は警戒するように剣を手に身構えてしまう。
「……あの、魔物って大きな蛇ですよね?」
「パイソンって魔物な。確かに蛇だけど、人1人なら簡単に丸のみするぞ。2度、敗走してよく1人も被害者を出さなかったな。その点だけは褒められるな」
セフィーリアは騎士2人に遅れて警戒するように周囲を見回す。
騎士3人の様子など気にする事無く、メビウスは気にする事はない。2度の騎士達の敗走に小さくため息を吐くが武器を手に持つ事はない。
自分達とメビウスとの温度差に騎士達は戸惑いの表情を見せるがメビウスは側に生えている木に近づくと荷物から鉈を取り出して何かを始め出す。
「メビウスさん? 何しているんですか?」
「下準備、一種の罠だな。ある程度、経験から巣の場所はわかるけど、エサを獲りに移動している事もあり得るし、どこから出てくるかわからないからな」
「あの、何かお手伝いした方が良いですか?」
不思議そうに首を傾げるセフィーリアに罠作りをしている事を話すがメビウスは手を止める事はない。
彼の様子から今の段階でいきなり魔物に襲われる事はないと判断したのか騎士達は警戒を解く。
セフィーリアはメビウスの手元を覗き込みながら罠作りに協力したいと手を上げるのだが騎士達は止めておいた方が良いと言いたげな表情をする。
「遠慮する」
「どうしてですか!?」
「細かい作業もあるからな。それにそんな鎧でガチャガチャされたら、余計な物にも気が付かれそうだからな」
顔を見る事無くメビウスが拒否すると彼女は驚きの声を上げるのだが大声を上げるのは良くない事を思い出して慌てて両手で口を塞ぐ。
メビウスは騎士達の鎧や剣を動きにくそうに思っているようでため息を吐く。
騎士達は身を守るために鎧は必要不可欠な物と考えているようで自分達より軽装なメビウスの事が信じられないような表情をする。
「金属を溶かす毒を吐く魔物も居れば、1撃で鎧くらい砕く魔物だっているんだ……まあ、今回はパイソンが相手だから締付けられたりするのはある程度は防げるかもな」
メビウスは振り返る事はないのだが背後から感じる雰囲気で騎士達の考えを察したようで鎧を身にまとえば良いわけではないと言う。
その言葉で騎士達の表情は少し青ざめるが彼は振り返る事も手を止める事はない。
「おかしいな。実際はこの時期にこの場所でパイソンが出ている時点でおかしいんだけど、まさか、亜種かよ。どこから流れてきたか、それとも変異したか? 今はそんな事を考えているヒマはないか」
鉈で枝を落とし、途中で足を止めて罠を作りながら進んでいたメビウスだが、何か気になる事を見つけたのか足を止めた。
木々の中には腐敗したような悪臭を放ち、不自然に朽ちている物が見え、メビウスの眉間には小さくしわが寄る。
森の中を歩きなれていない騎士達はすでに生きも絶え絶えであり、メビウスより歩くのが遅れてきているせいか彼の言葉に何も返す言葉はない。
少しだけ警戒するように周囲を見回した後、困ったと言いたげに頭をかくのだがそれほどの悲壮感はない。
「あ、あの。メビウスさん、少し休みませんか?」
「そんな重い物を着ているから無駄に疲れるんだよ」
「そうは言いましても……」
「……静かにしろ」
何とか彼に追いついたセフィーリアと騎士は限界なのに腰を下ろし、休憩を提案するのだがメビウスの口からは呆れたようなため息が漏れる。
セフィーリアの口から弱音が漏れた時、メビウスの表情が変わり、森の奥の1点へ鋭い視線を向けた。
その言葉で騎士達は慌てて立ち上がり、剣を構えるとメビウスの視線を追いかけるように森の奥へと視線を向ける。
森の奥の闇の中からは2つの大きな光が怪しく青白く光っているのを見つけ、騎士の1人が小さく息を飲み込んだ時、その2つの光はゆっくりとメビウス達に向かって近づいてくる。
「メ、メビウスさん、こんなに大きいんですか?」
「ずいぶんと大物みたいだな。良いエサでも食ったんだろう」
「お、落ち着き過ぎです。このままだと私達もエサですよ!?」
大きさを視認できるくらいに魔物が近づいてくるとメビウスが予想していたパイソンと言う魔物なのだろうか赤黒い色をした巨大な蛇が青紫の舌をチロチロと出し、こちらを睨み付けている。
初めて見る巨大蛇にセフィーリアと騎士達の腰は完全に引けているが彼女は目に映る魔物が嘘だと言いたいのか今にも泣きだしそうな声で言う。
メビウスから返ってくる言葉は酷く緩い物であり、自分達との温度差にセフィーリアは震える声でもう少し緊張感を持ってくださいと声を上げた。
その声が良くなかったのか青白かった光は真っ赤な光に代わるとパイソンは彼らを威嚇するように声を上げる。その声にセフィーリアと騎士達は威圧されてしまったのか膝から崩れ落ちる。




