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俺の妹が、最近おむつを履き始めたんだが。  作者: 冬野原もがめ
俺と妹のくだらない日々。
9/29

ライブ

 俺の妹、叶宮蓮子かのみやれんこは成績優秀、眉目秀麗にも関わらず全く誇らしくないという不可思議きわまる存在だ。

 こいつをトイレットペーパーと交換できるなら、俺は喜んで差し出すだろう。

 これはそんな妹と俺にまつわる、限りなくくだらなくて熱狂的なエピソードのひとつである。



 ◇



 俺でも名前ぐらいは知っている人気アイドル、さくらいろクローバーZのライブが開催される。場所は家から電車で数駅越えたところにあるドームだ。

 へー、ふーん。それで?

 いつもの俺であれば、蓮子からそんな話を聞かされたところでそっけない反応をしていただろう。



 だが、蓮子がそのチケットを2枚持っていたことで話が違ってきた。

 具体的に言えば、俺は今蓮子と共に電車に揺られている。

 言うまでもない、件のアイドルのライブに参加するためである。



 俺は実は、無類のアイドル好きなのだ。

 特にさくらいろクローバーZに関しては目がない。

 テレビに出ているだけで、もう俺の股間は怒髪天だぜ。

 一生に一度、死ぬ前には行ってみたかったライブに本当に行けるなんて、妹さまさまだな。全く「なんて可愛い妹なんだ。俺の勃×チン×で思いっきり膜という膜をぶちやぶってやりたいぜ……」

「捏造モノローグが漏れてるぞ、蓮子」

「はっ! あ、あれ? ドルヲタクソデブメガネチンパンジーリュックサックアンドヘアバンドのお兄ちゃんはどこに?」

「よく実の兄をそんな悪し様に言えるなオイ」


 俺は呆れた目線を妹に投げる。

 念のために言っておくが、俺はアイドル好きでもなければ好きこのんでライブに行きたいとも思っていない。

 あと標準体型だし今だって普通の服装だからな。

 詳しく言わないのはセンスに自信がないからじゃない、決して。



「つーか、なんでお前がそんなチケットもってんだよ。そういうのって、ファンクラブとかに入ってないと無理なんじゃねーの?」

「クラスの友達にもらったんだよ。本当はうちとその子で行く予定だったんだけど、その子が体調崩しちゃって」

「そりゃ災難だな。でも、だからって俺を連れてく必要あるのか……?」


 いや、一人で行くのもそれはそれで悲しいものがあるが。

 俺なんて、グループの名前とか有名な曲とかは知ってるけどメンバーの顔も名前も全然わからないニワカ以下だ。

 好きなやつだったら、他にもいるだろうに。


「えー。どーせお兄ちゃん、暇でしょ?」

「ぬぐっ……。まあ、確かにそうなんだけどよ」

「だからほら! うちがお兄ちゃんに、普段迷惑かけてるお詫びにたまには兄孝行しようと思って!」

「本当は?」

「アイドルって言われてる奴も生で見ればぶっちゃけうちと同じぐらいの顔面偏差値しかないことを確認するためと、普段クールぶってるお兄ちゃんがアイドルのライブで興奮しまくってるところを動画に収めるため」

「んなこったろうと思ったよ」


 相変わらず邪悪なやつだ。

 こんなやつがクラスでは普通の女の子として認知されてると思うと吐き気と眩暈めまいがする。



 待てよ?

 昔から外面が良かったから気にも留めなかったが、こいつの学校での姿をほとんど見てないな。

 学年も違うし、当然か。

 とりあえず、見た目だけは普通にしていってると思ってたが。

 実際のところはどうなんだろう。


「ふと思ったんだけどよ」

「んー? 今からムラムラしてきた? アイドルに会うまで待ちきれない? しょうがないにゃあ」

「服をはだけさせるな顔を赤らめるなブラの紐を見せるな気持ち悪い! お前ブラなんてしなくてもいいだろうが!」

「あっそれ言っちゃう? それを言っちゃあ戦争だよ? お兄ちゃん、うちと戦争がしたいのかな?」


 懐から主に俺の部屋をピッキングするための針金をちらつかせ、妹の獰猛な目線が光る。

 くっ、わからねぇ。

 おまるに小便撒き散らしたりおむつ履いたりするのに、貧乳にだけ異様に反応するこいつの気持ちがわからねぇ。

 やはり俺は乙女心を理解できないのか。

 だからモテないのか。


 ……いやいや、こいつがおかしいだけだよな、普通に。

 いつものように結論付けて、とりあえず俺は謝ることにした。



「すまん、つい口が滑った」

「悪い口だなー。じゃあ復唱『蓮子ちゃんはおっぱいが大きい自慢の妹です』、はい! 大きな声で!」

「ここ電車の中なんですけどね蓮子さん」


 あと俺は、自分の心にだけは嘘をつけない。

 悪いな、蓮子。


「てへっ、うちったらつい忘れてたぁ」

「痴呆かな?」

「ファックユー」

「んだとコラ」

「間違えた、ファックミー」

「それだと自分をファックしてくださいになるぞ」

「ふぁっくみぃ、おにいちゃん! 初潮も来てる実妹だヨ!」

「平仮名にしてもお前は萌えキャラにはなれないからな」

「しかもおむつを履いてるロリっ娘だヨ!」

「適正年齢外でのおむつの着用は当方、NGとなっております」

「今日はパンツなんだけどねー」


 言って蓮子は履いているフレアスカートをめくり上げる。

 おお、確かにパンツだ。白じゃなくて水色だ。

 いや待て騙されるな俺、それが普通なんだよ。


 パンツであることに安堵せざるを得ない妹か……。

 というか、電車の中でパンツをおもむろに公開する妹か……。



「とりあえず恥ずかしいからしまえ」

「お兄ちゃんがやれって言ったんじゃーん。今日は公開露出プレイなんだよね? うち、いつもより興奮してる……」


 俺は無言で蓮子の薄い胸に激しい突っ込みをかました。


「ぐぉぉおお……! 人間風情がァァ……!」


 どっかのラスボスみたいなことを言って、蓮子は胸を押さえて蹲った。

 よし、ようやく静かになったな。

 残りは二駅だ、このまま何事もなく着くことを祈ろう。



 あれ。

 何か忘れてるような気がする。

 なんだったっけ。

 ――あ、そういえば聞きたいことがあったんだった。


「蓮子、お前学校ではどんな感じなんだよ? 最近どうだ? 悩みとか、なんかあったら言えよ?」

「妹に情け容赦ない水平チョップをかました後で普通の兄貴っぽいことを言うお兄ちゃん、うちは好きだよ」

「ははは、そう褒めるなよ」

「蓮子ちゃんの学校での姿は、次回を待て! ポロリもあるゾ☆」

「誰に対して言ってるんだお前は」


 そうこうしている内に、ドームにほど近い駅へと着いた。

 俺と蓮子は電車を降りるが、その時点でもう人の波へと飲みこまれてしまった。

 夏が近いということもあり、やたらと暑い。

 心なしか、周りに肥満の方が多くいらっしゃるような気もする。


「暑いね、お兄ちゃん」

「おう、暑いな」

「うちたちの熱い夏が、今始まる」

「そうだな……」


 反応することも面倒くさくなって、俺は何も考えずにつぶやいた。











「うぉおおおおおおお! よっしゃいくぞぉおおおおおお! ファイヤー! 超!絶!かわいい! いぇえ゛え゛え゛え゛え゛ぁあ゛あ゛! さくクロさいこおぉおおおおおお!」


 翌日の朝。

 妹が持つスマホの画面の中で、俺が顔を真っ赤にしながら絶叫していた。

 よく自殺しなかったものだと、我ながら自分のメンタルの強さを褒めたい。







 でも、言えねぇ。

 アルバムをネットで注文して、ファンクラブにも入っただなんて。

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