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俺の妹が、最近おむつを履き始めたんだが。  作者: 冬野原もがめ
俺と妹のくだらない日々。
6/29

属性

 俺の妹、叶宮蓮子かのみやれんこは頭にプリンが詰まった女子高生だ。

 その黄色い脳細胞の半分以上は、アニメやゲームのことで埋め尽くされている。

 これはそんな妹と俺にまつわる、限りなくくだらなくて無意味なエピソードのひとつである。



 ◇



「おんどりゃ死ねやぁああああ!」


 蓮子の超必殺技・真空波状拳が発動した。

 しかしそのコンボは繋がらない。

 フレーム数を把握していた俺は、これならギリギリ防御できることを知っている。


「なんですとぉ!?」


 渾身の一撃を防がれた蓮子は、動揺を隠し切れない。

 俺の弱パンチから繋がるコンボをもらい、あえなくノックダウンした。



「よし、これで俺の5勝3敗。明日の風呂掃除お前な」

「ぐぬぬ」


 俺と蓮子は休日、2人で格ゲーに勤しんでいた。

 勝者となった俺だが、胸には途方もない虚しさが押し寄せていた。


 折角の休みに、妹とゲームをプレイするぐらいしかやることがないというのも悲しい。

 部活はあったが、午前中で終わりだし。

 やっぱりバイトでもするか、さもなくば――彼女とか、できたりしないか。駄目か。



「どうする? まだやんのか?」


 俺の問いにも、蓮子は答えない。

 あれ、どうしたんだ。

 そんなにショックな負け方でもないだろ、今の。


 そういえば、どうして大してゲーマーでもない俺がネトゲ廃人級のこいつに勝てるかといえば、それには理由がある。

 実のところ、こいつにこのゲームを勧めたのは俺なのだ。

 あれはまだ俺が中学生の頃だった。

 当時オタでもなんでもなかったこいつに、格ゲーをやらないかと持ちかけてみた。

 蓮子は俺にボコられまくって、悔しかったのか随分とハマったものだ。

 俺もこいつに負けるのは癪なので、練習をしては今まで何千回もの対戦を繰り返している。


 蓮子は難しいコンボをやろうとして失敗しがちなのが、玉に瑕だ。

 基礎コンボを確実に決めたほうがいい、少なくとも俺はそう思っている。



 なにやら画面を黙って見つめていた蓮子は、俺のほうを向いて言った。


「お兄ちゃんってさ、つまんないよね」

「は?」

「だってぇー。コンボも同じやつばっかじゃーん。使うキャラもリョウとかだしー」


 リョウというのは俺のメインキャラだ。

 ストレートファイターシリーズの主人公で、安定した強さを誇る。


「使いやすいし、強いんだからいいだろ。俺、勝ってるし」

「はん、下種げすめ。努力もせずに勝利を得て嬉しいか? 恥を知れ、俗物ぞくぶつ! お前を産んだアバズレもあの世で嘆いているだろうよ!」

「いや、母さん死んでないから。あと親同じだからな? 生き別れの兄妹とかじゃないからな?」

「派手さも楽しさもない、そんな戦い方で勝って貴様の魂は満足するのか!?」

「めっちゃ満足」

「全く、見下げ果てた男だな。ウォール街の乞食のほうがまだプライドが高いぞ!」

「蓮子」

「はい」

「悔しいのか?」

「悔しいですっ!」


 素直だった。

 最初からそう言えよ。

 確かに、最近は俺のほうが勝ってるな。

 こいつ、ネトゲとかやってるし。

 俺はゲームなんてスマホでのやつと、これぐらいしかやらないからな。



「ブレイズルーやろうよブレイズルー。あれなら勝てる」

「やだよ。俺やったことないし」

「ぶーぶー」


 蓮子は拗ねたような調子で、コントローラーを投げ捨ててはその場に寝転がる。

 絶対床に髪の毛散らばるだろ。

 ここ俺の部屋だぞ。

 後でコロコロかけよう。



「でもさ、お兄ちゃんって個性がないよね」

「なんだよ、藪から棒に」

「これからの時代、そんなんじゃやっていけないよ? 無気力系主人公口癖は『どうでもいい』が流行ったのは過去の栄光なんだよ? もっと現実を見なきゃ!」

「お前が現実に帰ってこい」

「ちょっと目つきが悪くて髪がショートの黒で自称平凡な男子高校生とか、もう見飽きたんだよねー」


 妹に見飽きたとまで言われてしまった。

 というか、目つき悪いとか言うなよ。

 気にしてんだから。


「で、お前は何が言いたいんだ?」

「つまり、お兄ちゃんが休みの日に妹とゲームをするしかないような黒ずんだ青春を送っているのは、ずばり個性の欠如に問題があるとうちは思うわけです」

「それ、ブーメランじゃね?」

「お兄ちゃんとたまには遊んであげないと、可哀想だと思ってさー」


 起き上がって、得意気な顔をする蓮子。

 くそうぜぇ。


 おかしいな。

 なんで俺、勝ったのに馬鹿にされてんの?



 とはいえ、実際俺は自分でもなんの特徴もないことは自覚している。

 少しぐらいははっちゃけないと、満足いく高校生活を送れないというのはわからなくもない。


「属性って重要だよね、お兄ちゃん」

「属性? メイドとか、ツインテールとか、そういうのか?」

「そうそう。ほら、うちはいっぱい属性持ってるから!」


 こいつの場合、闇属性って感じだけどな。

 いや、腐属性か。

 どっちみち、ロクなものではない。



「妹。黒髪ロング。……あと、なんかあるのか?」

「ネトゲ中毒とかニロ生配信者とかおまラーとか姫プレイヤーとか」

「…………」


 全然羨ましくなかった。

 こいつは果たして社会に出て行けるのだろうか。

 数年後の蓮子が今のこいつを見たら、ショックで死ぬんじゃないか?


「えっ、何その轢かれて死んでるヒキガエルを見るような目は」

「いや、別に……」

「まあとにかく、お兄ちゃんも属性をつけてみるべきだよ!」

「例えば?」

「遥か太古に滅びたドラゴンの血を色濃く受け継ぐ、七色の魔法を操る剣士でありながら実はホモ」

「最後の二文字要らなくね?」


 あと、剣士なのか魔法使いなのかドラゴンなのかはっきりしてほしい。



「現実的な範囲で頼むわ」

「ワガママだなー。じゃあ、語尾に『めちょ』をつけるってのはどう?」

「なるほどめちょ。てっとり早く個性をつけられるめちょ」

「お兄ちゃん、自己紹介よろしく」

「俺は遥か太古に滅びたドラゴンの血を受け継いでるめちょ。七色の魔法を使えるめちょ。でも剣士でもあるめちょ。あとホモめちょ」

「恥ずかしくないの?」

「てめぇがやらせてんだろうがぁぁぁあああ!」

「あっぶな! コントローラー投げないでよ! それうちのなんだから!」

「本体もコントローラー二つも俺のだよ!」


 どさくさに紛れて事実が捻じ曲げられていた。

 だから言ったんだ、クリスマスにYbox360なんか頼むのやめとけって。

 結局俺が頼んだPSS3しかやってないじゃねぇか。


「うち、普通とか常識とかそういう概念に縛られるの、嫌なんだよね」

「もうちょっと縛られてくれ、お願いだから」


 俺は力ない声で、負の属性に塗れた我が妹に突っ込みをいれるのだった……めちょ。







 それから2日して、俺はふと挙げていなかった蓮子の属性を思い出した。


 貧乳。


 何物にも代えがたいその属性を口に出したところ、ぶん殴られた。


 まあ、うん。

 これに関しては、俺が悪かったと素直に認めなくもない。




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