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俺の妹が、最近おむつを履き始めたんだが。  作者: 冬野原もがめ
俺と妹のくだらない日々。
15/29

部活

 俺の妹、叶宮蓮子かのみやれんこは現役厨二病の15歳だ。

 今年で16歳になる彼女は、現在順調にニートへの道を全力疾走している。

 これはそんな妹と俺にまつわる、限りなくくだらなくてろくでもないエピソードのひとつである。



 ◇



 夜の11時、部活の疲れもあってか既に眠気が押し寄せてきていた。

 つけていたパソコンの電源を落とし、あくびをしてはベッドに入る。

 明日は土曜日だが友人と遊びに行く約束があったので、早いうちに寝るのもいいだろう。


「磯野ー! 野球やろうぜー!」


 俺は目を閉じる。

 今日は妹が変なことを言ってくることもなかったし、平和な一日だったなぁ。

 部活でも我ながら身体がキレてたし、ぐっすり眠れそうだ。


「二番、セコンドぉ、叶宮ぁー」


 ボクシングなのか野球なのか、はっきりしろ。

 いや、ここで突っ込んでは負けだ。多分ルールをよく知らなくて、二塁手がそのまま打順でも二番だと思っている可能性も高いが、とにかく徹底的に無視だ。

 俺が一切反応せずに寝たということにしておけば、蓮子もつまらなくて出て行くだろう。


 心を無にするんだ。

 この部屋には俺以外誰もいない。

 俺はもう寝てるんだ。

 そう思えば、不思議と心の中を静寂が満たしていった。


「かっとばせー、かっとばせー、かっのっみやぁ。第一球……打ちましたっ!」


 あー、うるせぇ。

 というか、なんか身体に当たったな。

 目を閉じているから正体がわからないが、別段痛くはなかった。

 いや、むしろふんわりとした感触だったような。

 蓮子のことだから普通に軟球でもぶち当ててくるかと思ったら、意外とそんなことはなかった。

 どうやらあいつにもまだ理性というものが残っていたようだな。



 ……待てよ。

 この場合、逆に柔らかいというのが罠のような。

 というか、何が当たったのかが逆に気になってきた。


 仕方ない。

 敗北感が凄いが、俺は目を開け確認した。


 なんかよくわからない、白いふわふわとしたものがベッドの下に転がっていた。

 なんだ、これ?



「うちの使用済みおむつです」

「お前が兄貴を侮辱してるってことはわかったわ」

「いだいっ! 流れるようにバットにしてた新聞紙を奪って叩くのやめてっ! おしっこもうんこもしてないからセーフでしょっ!?」

「野球しようぜ、お前ボールな」

「ぐぁぁあああっ! 中村紀広並のフルスイングぅぅっ!?」


 どうやらいいところに当たったらしく、蓮子はその一撃で沈黙した。

 ケツを突き出した体勢で、床にへたりこんでいる。

 パンツが丸見えだった。

 というか、パンツもずり落ちて半ケツになっていた。

 ちょうどいい、この役目を終えた新聞紙をケツ穴に挿しておこう。


「うむ」


 前衛的芸術の完成を目にした俺は、今度こそ安らかな眠りに落ちた。



「『うむ』じゃないよお兄ちゃん」

「あ、生きてた」

「妹のケツに丸めた新聞ぶっ挿していい顔しないでもらえませんかね?」

「そこに穴があったから仕方なく」

「仕方なくないよ! うちのお尻が開発されちゃうよ!」

「でも結構すんなり入ったぞ」

「ふふふ。何を隠そう、この間アナニーに挑戦したからね」

「ひゃーっ」


 知りたくなかった。

 隠しておけよ。

 蓮子よ、お前は一体どこに行くつもりなんだ。



「そんなこんなで、うち部活に入ろうと思うの」

「どんなこんなだって? おかしいな、俺の日本語が間違ってるのかな。脈絡とか文脈どこいった?」

「最近うちが、その、ちょっと肥えてしまったのはひとえに引きこもり生活の弊害であると思うわけです」

「素直に太ったって言おうな」

「そこ、うるさい。とにかくええと、引きこもりは良くないので、これからは適度に節度を考えて引きこもろうかなって。家にいると、とにかく口を動かすことしか考えなくなるからね!」


 それでも引きこもることはやめないのか……。

 まあ、世の中にはネットにハマりすぎて不登校とかも良くある話だし、学校に行っている分こいつはまだマシなのかもしれない。

 休みの日とかはほとんど、俺の部屋か自分の部屋かのどっちかにしか行かないけどな。生活範囲が20m以下の女である。


 あれ、なんだろう。

 たった数ヶ月前の妹とのギャップに、目から汁が流れそうになってるぜ。

 夜な夜な男と一緒にどこか出かけてたのにな……。

 だが考えてみれば、それはそれでどうなのという気もする。ビッチじゃん。

 やることがいちいち極端なんだよ、こいつは。



「なるほど、それで野球か。でも残念だが、うちにソフトボール部はないぞ?」

「やだよ運動部なんて面倒くさい」

「えっ、それだとダイエットにならなくね?」

「家にいさえしなければ、多分大丈夫!」


 蓮子は無い胸と最近出てきた腹を張る。

 その根拠のない自信はどこからくるのか。

 ついでにどうして野球の真似事をしたのか。

 なぜ俺はほかほかのおむつをぶつけられたのか。


「ほら、四コマ原作でよくあるじゃん。なんとか部に入ってる女子高生のほのぼのとした日常、みたいな。萌え豚御用達の山なし谷なし落ちなしアニメ的な」

「俺だったらその登場人物がペットボトルとかおまるに排泄してたらドン引きするわ」

「そこはほら、キャラ付けということでひとつなんとか」

「ならねーよ。どの層をターゲットにしたキャラなんだよ」

「むぅ。まあ、実際けいりん! みたいな部活あるわけないよねー」


 ファンタジーな思考から回帰した蓮子は、少し溜めてから言った。



「実は、入る部活はもう決めてあるのです」

「ほう」

「視覚文化研究部っていうのがうちの学校にあったんだよね。そこに入ろうかなと思って」

「……それはいわゆる、オタクサークルというやつなのでは?」

「うち、小さいころから夢だったんだよねー。オタサーの姫になるのが」


 蓮子は弾けるような笑顔で、ゲスな夢を語った。

 その瞳は希望と、そして野望と欲望に塗れている。


 まあ、何も言うまい。

 こいつだったらうまくやっていけそうだしな、案外向いてるかも。

 というかぶっちゃけ心底どうでもいいな。

 視覚文化研究部の皆さんの冥福を祈りつつ、俺は今度こそ眠りに落ちた。








 一週間後。

 蓮子がプチ男性恐怖症になっていた。


 話を聞くと複数人の男から告白を受け、それを全て断ったところ毎日愛を語るメッセージが何十通と届くようになったらしい。

 オタサーの姫も大変なんだなと、他人事のようにして思った。 

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