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俺の妹が、最近おむつを履き始めたんだが。  作者: 冬野原もがめ
俺と妹のくだらない日々。
10/29

バスケット

 俺の妹、叶宮蓮子かのみやれんこは頭のネジが数十本ほどぶっ飛んでる女だ。

 パッと見だけはいいものの、口を開いた瞬間にその悪辣ぶりがこれでもかというぐらいに飛び出てくる。

 これはそんな妹と俺にまつわる、限りなくくだらなくて汗臭いエピソードのひとつである。



 ◇



 体育祭、種目バスケット。

 その準決勝で、俺が所属する2年C組は蓮子率いる1年B組と激突することになった。

 俺の高校では珍しいことに、各種目全て、男女どちらを選出してもいいことになっている。ただし個人が種目に重複して出るのは二つまで。

 そのため男子女子を配置するバランスが難しく、クラスに亀裂が入る原因にもなってるのだとか。


 まあ、それはいいとして。

 その部活動に所属している人間は、チームにつき一人までという縛りがある。

 つまり、俺が唯一のバスケ部員としてこの2年C組を勝たせなければならないということだ。

 今までは相手に女子が多かったり、バスケ部のやつがいなかったりで楽に勝ち進めてきたが――今回は、そうもいかないだろう。



 まず注意すべきは、1年のバスケ部レギュラーだ。

 あいつは俺が徹底的にマークしなければ。


 そしてもう一人。

 チームのキャプテンを務めているらしい、不肖の妹である。

 なにやら審判と話した後で、俺に寄ってきた。



「お兄ちゃん、ついにこの時が来たんだね」

「ああ、思えば長かったな……」


 それは2年前、中学の時に行われた男女混合リレーでの出来事。

 俺たちはお互いにアンカーを務めていて、最後にはデッドヒートを繰り広げ僅差で俺が勝利したのだ。



 と、そういう話ならまだ格好もつくんだろう。

 実際はバトンを渡す時に勢いあまってフラついた蓮子が、隣のコースでスタンバっていた俺にぶつかってきてどっちのチームも負けたというクッソ情けない話があるだけである。


 戦犯叶宮。

 それを訴えてくるクラスメイトの眼差しが、今も記憶に残っている。

 そしてそれは、おそらくこいつもだろう。

 俺たちは試合前の挨拶を終えてからも、バチバチと火花を散らす。

 今回は、Lose-Loseではない。

 どちらかが勝ち、どちらかが負ける。

 妹だからって、容赦はできない。


「お兄ちゃん」

「なんだよ、蓮子」

「今だから言うけど、うちあの時生理3日目だからフラついたんだよね」

「うわぁ」


 知りたくなかった。

 俺と蓮子は、月経を巡って2年間も思いを戦わせてきたのか……。


「実録・俺と妹の女体の神秘を巡る2年間」

「そんなドキュメントは嫌だ」

「お兄ちゃんとうちは、おりものによって繋がれた熱き血潮の兄妹……」

「あ、やばい。今俺すっげぇ萎えてる。吐き気と頭痛してきたもん」

「だがその長き戦いに――今、終止符が!」

「全然盛り上がらねぇ……」



 なんて言っているうちに、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

 俺と蓮子を含めた10人は、それぞれコートに散っていく。

 ジャンプボールをバスケット部がやるのは反則なので、俺はできなかった。


 結果、相手チームへと最初のボールが行く。

 くそっ。

 俺が跳べてればな。

 しかもボールをとったのは蓮子だった。

 あいつはポジションでいえば司令塔なので、まずは様子見がてらボールを回してくるはずだ。



 と思ったら、蓮子は突然凄い速度で走り出し、こちらの陣地へと切り込んできた!

 仕方ない、相手してやろう。

 俺は妹の前に、両手を挙げて立ちふさがる。


「やる気満々だな、蓮子?」

「ふっ……」


 俺の挑発を鼻で笑い、そして蓮子は告げる。


「このボール、消えるよ」


 俺が言葉の意味を理解する前に、蓮子はなんとシュートのモーションに入っていた!

 馬鹿な。

 ここはまだ、コートの真ん中を少し過ぎたぐらいだぞ。

 いくらなんでも、入るわけが「絶対射撃アブソリュートシューティング


 その一声で、会場が静まり返る。

 時が一瞬、止まったのかと思った。

 蓮子は俺をあざ笑うかのようにして、掌から本当にボールを打ち出しやがった。

 そのまま薄い笑みを浮かべ、ボールの行方すら見ずに振り返り、自陣へと戻っていく。

 見るまでもない、そういうことか。

 一流のシューターだけが感じることができる、打った瞬間に入ることがわかるという感覚。


「そんな……」


 思わず俺は呟く。

 そんなことが、あってはならない。

 頼む、入らないでくれ。

 俺は振り返り、そのありえないシュートの行方を見つめる。






 ボールが二階の観客席にいた俺のクラスメイトの頭を直撃した。

 …………。





「待てやコラ」

「痛い! こらー! 試合中ですよお兄ちゃん! 妹の髪引っ張るの禁止!」

「今のはなんだ?」

絶対射撃アブソリュートシューティング

「いや、そういうのいいから。なんでお前はあんな場所からおもむろにシュートを打ったのかって聞いてんだよ俺は」

「てへへ、挿入はいるかなと思って」

「字が違うからな、字が」

「お兄ちゃんの太すぎて、うちの膣内なか挿入はいらなかったよぅ……」

「入らなかったのはてめぇがめちゃくちゃなシュートしたからだぁぁぁあああ!」

「うち、常識とか普通っていう言葉に縛られたくないタイプなんだよね」

「あれ、この会話デジャヴ?」


 いつかどこかでこんなやりとりがあったような。



 何はともあれ、俺らのボールでゲーム再開。

 俺はクラスメイトからのパスを受け取り、ドリブルで相手チームを交わしていく。

 一人、二人交わしたところで蓮子が俺の前に立ちふさがった。


「またお前か」

「蓮子は滅びぬ、何度でも蘇るさ! そう、うちを倒したとしても第二第三のうちが」

「プラナリアか何か?」


 軽口を叩きながらも、蓮子の動きは隙がない。

 左か、右か。

 どちらにフェイントをかけて、どちらで本物のアクセルを踏みきるか。

 俺と蓮子はしばし視線を戦わせる。


 よし。

 右だ。

 俺は一瞬左に動いた後で、右足を大きく踏み出す!


「ていっ」

「ぐぉぉおおおおおッ!?」

「ボールげとー」


 信じられねぇ。

 あいつ、みぞおちに地獄突きかましてきやがった。

 バスケットとは一体なんだったのか。


「おい、審判! 今あいつ、明らかにボールじゃなくて俺を狙ってたぞ!」


 抗議を唱えるが、バスケ部の後輩でもある審判はなんと両目を手で覆っていた。

 何それ。

 見てませんでしたってことか?




 ……はっ。

 そこでふと、試合前の光景が思い浮かぶ。

 そういえば、蓮子があいつになんか言ってたな。


 もしかして。

 もしかして、あの野郎。

 買収か?

 なんらかの手段で、審判を味方につけたってのか?


 疑惑の視線を、既に遥か遠くにいた蓮子に送る。

 華麗にシュートを決めた後で、俺の妹は邪悪な笑みを向けてくるのだった。


「くっ……」


 どうやらこの勝負、かなり厳しい戦いになりそうだぜ。









 なんというか、有り体に言えば俺のチームが勝った。


 明らかにおかしい審判の態度に、途中で2年C組全体からの文句が殺到したのだ。

 その結果、俺たちの不戦勝になったというわけである。



 まあ、えーっと。要するに。

 ズルは良くないと、そういう話だ。

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