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大好きな彼女  作者: 武村 華音
21/33

番外編:柴田 美奈子 4/4


柴田の目から見た彩はやっぱり普通の、特に目立った特長のない平凡な女でした。

でも…ちょっとだけ気が付きました。

何に?

こんな事に。

海が惚れた彩さんという女性。

空気に惚れたのだと海は言った。

その意味は何度か会ううちに何となく理解できるようになった。

海をリラックスさせる事の出来る不思議な空気。

言葉や態度は素っ気無いし甘やかしもしない、なのに何故かその場を和ませてしまう。

人見知りの海が視線も会話も交わさずに惚れた女性。

この2年間で彼女は海にとってなくてはならない存在になっている。

そして…彼女を何度か見ていてふと気が付いた。

私に似てるかも…。

彼女の抱いている不安や素直になれないところが…若い頃の私と似てる…。


私が達郎さんに初めて会ったのは21歳の時だった。

バイト先で偶然ロケが行われて、その出演者の中に彼が居た。

撮影の合間に電話番号を聞かれたのが始まりだった。

当時、携帯電話なんてものはなくて…家の電話番号を交換したのだった。

実家に住んでいたら今の私はいないだろう。

あの頃、1人暮らしをしていたから彼と電話番号の交換も出来たし連絡を取り合うことも出来たのだ。

しかし、その当時留守電なんて便利な機能が付いた電話もないのでなかなか繋がらなかった。

だから当然不安になるし、テレビでは他の女と絡んでるし…しょっちゅう泣いてたっけ。

達郎さんを信じたいのに信じられなくて、何度も別れ話して…。

それでも何とかやってこれたのは彼が大人だったからだと思う。

私を不安にさせた分だけ安心をくれた。

ただ、彼が当時籍を置いていたプロダクションは厳しかった。

「絶対に撮られるな、撮られたら別れてもらう」

当時はそんなところばかりだった。

他の事務所の人間とは話すなとか、こんな話はするなとか…色々と事務所側が煩かった。

達郎さんはそれが嫌で…“もっとビッグになって事務所を黙らせてやる!”なんて言ってたっけ。

私は当時の事を思い出しながら微笑んだ。

「何笑ってんのさ?」

海が私の顔を覗き込んで怪訝そうな顔をしていた。

「何でもないわ、ちょっと考え事よ」

「柴田さんが考え事しながら笑うって…何か企んでるの間違いなんじゃ…?」

「海、144時間ノンストップ労働させるわよ」

今日は確か彩さんの部屋に帰るって言ってたものね。

「ごめんなさい!お願い、やめて下さい〜もう言いません!だから彩さんに会わせてよ〜」

本当に…何でこうも若かりし頃の達郎さんに似てるのかしら。

扱いやすくて助かるけど…彩さんは大変ね。

こんなのに気に入られちゃって。

「柴田さぁん、許してよぉ…」

「そんな顔してるとスタッフが驚くわよ、望月 海の仮面はそう簡単に外しちゃ駄目なの!何回言えば分かるのよ」

「許してくれる?」

「はいはい、許すから」

私が鬱陶しそうに手で追い払う仕草をすると海が笑った。

「何よ?」

「彩さんと柴田さんって似てるよね」

「こんな性格じゃなきゃ芸能人の相手なんか出来ないわよ。彩さんは私よりもネガティブだから気をつけないと逃げるわよ」

あの頃の私みたいに…ね。

私は海の顔色が変わっていくのを見ながら微笑んだ。

遊び甲斐のある子だこと。

私が海と一緒に仕事をして既に8年。

この子はずっと変わらない。

あの頃のまま、子供のような所を持ったまま大人になった。

それだけはありがたい。

あの頃の少しだけ背伸びしていた海はもういない。

人を利用しようとしていた海は、実家を出た途端鳴りを潜めた。

それだけ早く実家から逃げたかったんだと思う。

そのためだけに無理をしていたのだと分かったのは海が実家を出てマンションに引越しした時だった。

あの時の海は今まで見せた事のない穏やかな顔をしていた。

何でも請けていた仕事も選ぶようになって、我が儘になったと社長は嘆いたけれど…私はそんな海を見て安心したのだ。

この世界に浸かりすぎていないのはこの子の人見知りのせいだと思うけど、このまま変わらないでいて欲しい。

まるで母親だわ…。

お金の管理も身の回りの世話もしてるし…母親ってこんな感じなのかしら?

子供の居ない私にはよく分からないけど、赤ん坊の世話よりもラクでいい。

言えば自分で動くし、何でも話してくれるし、遊べるし。

「あ、また笑ってる」

海が不満たっぷりの顔で私を見ていた。

「海は海のままでいなさいね」

私の言葉に海は首を傾げたが、それが本音だ。

「意味分かんないんだけど?」

「等身大の海のままでいなさいって事よ。無理すればそこからバランスが崩れて今の関係も壊れちゃうって言ってんの」

海は理解できないらしく、う〜んと唸りながら考え込んでいる。

その時点で大丈夫だろうなんて思うんだけど。


彩さんとはあまり2人でゆっくりと話すことはないが、時々電話をしてあげる事にした。

彼女は8歳の年の差と、海の仕事を気にしている。

海が週刊誌に狙われている事は説明するまでもなく理解してくれているようだ。

だから彼女の部屋に行くのもいい顔をしない。

海にも「迷惑だ」と言ったらしい。

正直なんだか天邪鬼なんだか…。

それでもめげない海が可愛らしいと思う。

本当に必死で、真っ直ぐで…あの子の眼には彩さんしか映ってないのがよく分かる。

そしてそれは彩さんも分かってる筈なんだけど、素直に信じられないってのもよく分かる。

俳優だもの、疑っちゃうのも無理はない。

毎度テレビで他の女と絡んでたり、歯の浮くような台詞吐いてる奴を素直に信用できる人間がいるとすれば余程おめでたい人間に違いない。

本当…彩さんはあの頃の私とそっくりだ。

相手が俳優だとなかなか友達にも話せないし、会わせてあげられない。

どこからバレてしまうか分からないからだ。

彼女はしっかりしていると思う。

いや、しっかりし過ぎている。

それだけが心配だった…。


「彩さんの友達に会ったんだ」

海外ロケのため成田空港へ向かう車の中で海の言葉を聞いて私は驚くと共にちょっとだけ安心した。

あの彩さんが友達に海を会わせたという事は、海をそういう相手だと認めたという事だから。

何よりも彩さんに海の話をする相手ができた事が私には嬉しかった。

彼女は自分の中で溜め込み過ぎだと思っていた。

1人で溜め込みすぎてその想いが溢れてしまった時…最悪の場合、2人の心が壊れてしまう。

だから、何でも話せる友人が出来たという事が嬉しかった。

しかし…海の話を聞いているといつも片想いなんだってニュアンスに聞こえるのよね…。

気のせいかしら?

「海って今までどんな女の子と付き合ってきたの?」

素朴な疑問。

「え?付き合ったことなんてないよ」

…ない?

あのカメラマンとかタレントは何?

ただの性欲処理?

「付き合うって身体だけじゃないでしょ?心の繋がりがなきゃ無意味じゃん。俺は彩さんとこれからもずっと一緒に居たいって思ってるんだ。でもさ…彩さんって何言っても信じてくれないし、こんなんじゃ付き合ってるなんて言えないでしょ?どうしたらいいんだろうね」

私から見れば充分に伝わってると思うし、あんた達は付き合ってると思うんだけど…。

私は海の意外なくらいの自信のなさを楽しみながら海外ロケへと向かった。


6月22日。

海の誕生日だ。

どうにか海外ロケを終わらせて私達は日本の地に降り立った。

アメリカで玖珂さやかとの再会なんてハプニングもあったけれど、海は自分できちんと彼女との関係を清算させた。

誕生日が近いからと、ロケをしている時にサプライズでお祝いをしてもらったのに、海は笑顔1つ見せる事はなかった。

理由は簡単だ。

そんな事よりも早く日本に帰って彼女に会いたいから。

海は飛行機を降りた瞬間に携帯電話の電源を入れて彩さんにメールをしていた。

「海、何してんのよ?」

遅れながら歩く海に振り返って尋ねた。

「彩さんにメールしただけだよ」

海は小さく微笑みながら答えた。

預けた荷物を受け取りに向かう途中、海の携帯が鳴った。

海は何故か溜め息を吐きながら携帯を開く。

しかし、携帯を開いてすぐにその顔は笑顔に変わった。

「まったく…なんて顔してんのよ」

もう呆れるしかない。

「彼女からメールが来るなんて思わなかったから嬉しくてさ。それも断りのメールじゃないんだよ?これを喜ばない男が居る訳ないでしょ?」

「百面相も面白いけど、今のあんたを見てるとこっちが恥ずかしくなるわ」

「柴田さんだって今日会えるんでしょ?」

海の言葉に迂闊にも赤面してしまった。

「な・・・何で知ってんのよ…?!」

「昨日電話してるの聞こえたからさ」

海はうろたえる私を見て苦笑した。

まさか海に聞かれているとは思わなかったわ…。


彩さんのマンションに車を停めると彼女の部屋の電気が点いている事に気が付いた。

今日は金曜日。

彼女は飲みに出掛けている日の筈なんだけど…。

彼女も早く海に会いたかったのかもしれない。

そう思うと笑みが漏れる。

この2人はお似合いだ。

見ていて微笑ましい。

特に特徴もない平凡な彼女とモデルで俳優の海。

端から見たら不釣り合いかもしれない。

でも、他の誰も彼女の代わりは出来はしない。

社長にも彼女の事は報告しているし、最近の海の話は色々な方向から耳にしている筈だ。

何も言ってこないという事は社長自身も交際を認めてくれているのだと思う。

海は我が儘だけど決して周囲に嫌われない子だ。

社長も何だかんだ言いながらも海贔屓だし。

私は2人の幸せを願いながら愛する旦那様の待っているマンションに車を走らせた。


2日後、海を迎えに行った私は玄関の前で顔を引き攣らせた。

海の締まりのない顔に、だ。

ご機嫌な海は足取り軽く車に乗り込んで鼻歌を歌っている。

「海…何かいい事でもあったの?」

訊いてくれと言わんばかりの顔に私は溜め息を吐きながら仕方なく尋ねた。

「あのねっ、今まで頼んでも呼んでくれなかったのに、彩さんが俺の事海って呼んでくれたんだ」

待ってました!というような感じで海が話し出した。

撮影前に聞いておかないと撮影所でもこんな締まりのない顔されたら堪らない。

私は我慢して海の話を聞く事にした。

「でね、彩さんが俺の事好きって言ってくれたんだよ!これって両想いってやつでしょ?もう嬉しくってさ♪」

そういえば今日は彩さんのお見送りがなかったわね…。

「彩さんの姿見えなかったけどどうしたの?お出掛け?」

「ううん、ベッドの中」

…それって?

「あんた…盛った?」

「そりゃ両想いだもん今日仕事がなかったらもっと抱いてたかったなぁ」

可哀想に…。

これだけは達郎さんと大きく違う所ね。

起き上がれないほど盛られた事はないもの。

「あんた、どんだけ盛ってんのよ…」

まったく…

「ん〜1箱くらい?」

何が1箱なのかは愚問だ。

っていうか呆れただけで、決して回数を尋ねた訳じゃない。

私は彩さんに同情しながら撮影所に向かった。

その間もずっと海は彩さんの話を語り続けた。

そこまで話さなくても…と思うような事まで、とにかくよく喋った。

それほど嬉しかったのだとは思うんだけど…さすがに彩さんが可哀想だ。

でも、これで撮影は順調な筈…。

今後は耳栓でも常備しておいた方がいいかしら…?

私はそんな事を考えながら海のえっち報告を聞き流した。


その日、海の締まりのない顔のせいでNGを連発したのは言うまでもないだろう。

私が我慢して聞いていた時間は無駄でしかなかったのだ…。

目の前では締まりのない顔でNGを連発する海が苦笑している。

そんな海を見て怒りが呆れに変わって…気が付くと微笑んでいる自分がいる。

本当に海は不思議な子だ。

我が儘で気分屋でオコサマで…なのに憎めない。

付き合いが長くなれば長くなるほど好きになる。

私の場合、達郎さんに似てると思うから余計なんだと思う。

彩さんを想う海を見てると羨ましくなると同時に、考える事がある。

達郎さんもあの頃、海のような気持ちでいてくれたのかしら?

…そうだと嬉しいんだけどね。

今度会ったら訊いてみようかしら?

海の姿を見ながら、同じくらい締まりのない顔をしていたに違いない。

撮影スタッフが私達の顔を見ながら怪訝そうな顔をしていた。

















                                    ――――― Fin ―――――


ご覧頂きありがとうございます♪


本日、番外編:柴田 最終日です。


海の過去をよく知っている柴田さんは書き始めると止まりませんでした(^^;)

本当はもっともっと暴走させたかったのですが、そうするとタイトルつけて別連載になっちゃいそうだったので泣く泣く端折りました。

柴田さんリクエストが異様に多いのでまたどこかで書こうと思います。


4日間お付き合い下さいましてありがとうございました!!


また続編でお会いしましょう!

勢いで執筆開始しました。

2月にはお披露目できるかと…。

今しばらく時間下さいm(__)m

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