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大好きな彼女  作者: 武村 華音
20/33

番外編:柴田 美奈子 3/4


春になってマンションが完成。

海も柴田も新しいマンションに引っ越してきました。

春になってマンションが完成した。

達郎さんは私と隣同士という事にはなっているが、実際は2部屋をぶち抜いて1つにしてしまっている。

それは以前のマンションも同じだった。

考える事が常識の範囲を超えているのは分かっているが、私も10年以上彼と過ごしているうちに非常識な事が当然となっていた。

だからかもしれないけど海の世話もあまり大変だとは思わない。

人見知りで我が儘で気分屋でオコサマで…でも憎めない子なのだ。

「柴田さん」

マンションの駐車場で声を掛けられた。

部屋の中で聞いている人物の声のように思えた。

私は黙って振り返って声の主を確認した。

「お疲れ様、今帰り?」

やっぱり達郎さんだった。

「た…猪俣さんこそ今お帰りなんですか?」

ヤバイヤバイ…思わず名前を口走りそうになって私は慌てて訂正した。

そんな私を見て達郎さんは楽しそうに微笑んだ。

「海、起きて。寝るなら部屋で寝て頂戴」

私は後部座席で眠る海を起こして車から引き摺り出した。

「もう少し寝かせてくれたっていいじゃん…」

「だから!寝るなら自分の部屋に帰ってベッドで寝なさいって言ってんの、車の中よりも全然いいと思うんだけど?」

海は子供のように目を擦りながら顔を上げた。

そして私の隣に居る達郎さんに気付いて目を丸くしていた。

「猪俣 達郎…さん?何でここに?」

「僕もここの住人なんだ。よろしく、望月 海君」

達郎さんは笑顔で海の頭を撫でた。

寝起きだからなのか、たまたまなのか…海はその手を振り払う事はなかった。

通常だったら触られた瞬間に払い除けるのに…。

「もし良かったらうちに来ないか?夕飯をご馳走するよ」

作るのは私じゃない…っていうか今とんでもない事言わなかった?!

「あっ…あの猪俣さん?」

達郎さんは海の腕を掴んで強制連行。

私は二人の背中を追い掛けながら大きな溜め息を漏らした。

何考えてんのよ…?!

後ろから持っているバッグで頭をぶん殴りたい衝動に駆られながら私は何とかそれを我慢して自分の部屋の前に辿り着いた。

「じゃあ。私の部屋ここなので失礼します」

私の言葉に海が動揺した。

「柴田さん!俺を見捨てないでよ!」

私は海の顔を見て噴き出した。

「大丈夫よ、すぐに会えるから」

私の言葉に海は首を傾げた。

「じゃあね」

私は海に微笑んで玄関の扉を開けて部屋に入った。

「まったく、勝手なんだから…!」

リビングのソファに鞄を投げて腰を下ろすと海を連れた達郎さんが自分の玄関から入って来た。

「おかえり」

海は私の姿を見て唖然としていた。

「ただいま、美奈子」

達郎さんは私にニッコリと微笑む。

「え?柴田さんが何でここに居んのさ?さっき自分の部屋に…え?」

達郎さんは海のパニくってる姿を見てクスクスと笑った。

「僕の妻、柴田 美奈子だよ」

「え…?!だって猪俣さんって独身じゃないの?!」

海の素直な反応が可愛い。

「私の部屋と彼の部屋は繋がってるのよ」

「でも…え?本当なの?!」

「あぁ、本当だよ。僕と美奈子は結婚して10年以上だけど運よくマスコミにはバレてないんだ」

同じ事務所に所属しててもほとんど接点はないからバレる事もなかった。

「まったく…どういうつもりよ?こっちはいつかバレるんじゃないかって冷や冷やしてたのにあっさりバラすなんて…」

私はキッチンに向かってビールを2本と海の好きな缶コーヒーを持って2人の傍に腰を下ろした。

「美奈子が世話してる子が気になるのは夫として当然だろ。それに先に知らせておけば何かとラクなんじゃないかと思ってね」

何がラクよ…自分が海に会いたかっただけのくせに。

「なんてな…本当は海君とこうしてゆっくり話してみたかったんだよ」

達郎さんが海に向かって微笑みながら缶コーヒーを手渡した。

「柴田さんの話でもしたかったの?」

「そうだね…美奈子の話を出来る人は少ないからね。君は美奈子をマネージャーから外す気はないんだろう?」

「うん、ないよ。俺みたいな奴の相手できるのは柴田さんくらいだからね」

「あら、分かってるじゃない。じゃあもうちょっと感謝してもらわなきゃ」

「してるよ、いっつもね」

私と海が微笑み合うと達郎さんがあからさまに面白くないという顔をしていた。

そういえば似てる気がする…。

私は夕飯を作るため、立ち上がってキッチンに戻った。

私が傍を離れても2人は何だか盛り上がっていた。

結構気が合うらしい。

通常そんなに飲まない達郎さんがこの日は酔っ払ってリビングで眠ってしまうほど飲んだ。

「まったく…こんな所で寝ると風邪ひくわよ。達郎さん!ほら起きてっ」

私が彼の背中や頭を叩きながら起こしてると、それを見ながら海が微笑んだ。

「猪俣さんの奥さんって本当なんだ?」

「嘘言ってどうすんのよ?」

「だよね。何か羨ましいな…」

海の顔が少しだけ寂しそうに見えた。

「達郎さんが居る時だったらいつでも遊びに来なさい。あんたの事気に入ったみたいだし相手してくれるわよ」

似た者同士だし気も合うんじゃないかしら、なんて思ったのは敢えて言葉には出さなかった。


海は成人はたちになった頃から何だか様子がおかしかった。

何だかいつも1人で悩んでいるように思えた。

「海、どうしたの?何か変よ?」

そう言っても帰ってくる言葉はいつも決まっていた。

「何でもない、気にしないでいいよ」

気になるから訊いてるのに…。

私は海を眺めながら溜め息を吐いた。

「ねぇ柴田さん、新橋駅で降ろしてくれない?」

新橋駅?

「何、東京タワーでも見に行くの?」

「違うよ、友達が飲み屋をオープンさせたんだ。久しぶりに会いたいなぁって思っただけだよ。柴田さんも一緒に行く?」

飲み屋か…。

あの雰囲気好きになれないのよね…。

「私、あぁいう雰囲気苦手なのよ。悪いけど遠慮するわ。でも、そんな目立つ所行ってバレないように気を付けなさいよ?」

「うん、大丈夫。祥平呼ぶから」

祥平…どこかで聞いた名前ね。

「大久保 祥平って覚えてない?モデルの先輩」

あぁ…あの子か。

海の面倒をよく見てくれていた優しい青年だ。

「お店始めたの?」

「うん、2月でモデル辞めて3月に店をオープンさせたんだよ。両立なんか出来ないってあっさり辞めて…カッコいいよね」

海は大久保君に凄く懐いてるし、大久保君も凄く可愛がっていた。

海のような人見知りがあれだけ懐くのは珍しくて何だか微笑ましかったのを覚えている。

最近は海の仕事がかなりハードで会う時間もなかったと思う。

私はたまに代わって貰って休みを取れるけど、海は1人しかいない。

代わりなんて誰にも出来ないのだ。

人気のある時に使わなきゃ、という事務所の気持ちも分かる。

海が倒れないように、私は時々空き時間を長めに作ってあげている。

それが私なりのささやかな思いやりだ。


海は余程大久保君の店が気に入ったのか、時々行きたいと言うようになった。

最近様子がおかしい事が気になっていた私は、何とかして海をあの店に行かせてやろうとスケジュールの調整をしていた。

「あぁ…彩さんに会いたいなぁ…」

え?

そんな共演者いなかったわよね?

私は海の顔をじっと見つめた。

本人は今自分が言葉を発した事に気付いていないようだった。

彩さん…誰だろ?

「何さ?俺の顔に何か付いてる?」

「彩さんって誰?」

「え…?俺何か言った?」

「彩さんに会いたいってしっかり聞こえたけど?」

海は珍しく顔を赤らめて俯いた。

「知らない人だよ、何でもない」

何でもない顔じゃないじゃない。

恋人を想う様な顔しちゃって…恋人?!

私は再度海の顔を眺めた。

「何でそんなに見るのさ?何でもないんだからいいでしょ!」

海のスケジュールでは女に会う暇なんてない。

ないけど…どこかで会ってるのよね…?

会いたい、か…。

私は海の言う“彩さん”という女性の存在が気になって仕方がなかった。

海が私と出会って初めて1人の人間に興味を示しているからだ。

それも相手は女だしハンパじゃない想い方。

海は“彩さん”に惚れたのだと直感していた。


2年だ。

海の口から“彩さん”という名前を聞いて2年が経つ。

そして相変わらずその女性に夢中だ。

言葉を交わしたこともなく視線も会わせた事もない、ちょっとだけ年上らしい女性。

何で海がそんなに惚れ込んだのかはイマイチ疑問だけど、彼女を“見れた”後の海はとてもご機嫌だし仕事も快調だ。

1度は会ってみたいなんて思ったりするんだけど、なかなかそんな機会はない。

しかし、チャンスは突然やってきたのだ。

私はいつものように海を新橋駅で降ろした。

携帯の充電が切れてしまったらしい海はコンビニで買ってから大久保君の店に行くと言っていた。

確かに海の話では“彩さん”は9時頃には帰ってしまうと言うから、この時間じゃいない可能性が大きい。

それでも大久保君から話だけでも聞きたいって言うんだからそのベタ惚れっぷりには呆れるしかない。

その日は私も達郎さんが帰って来るから早く帰りたかったし、特に変わった様子もなかったので気にする事なく帰ってしまった。

しかし翌朝、海の部屋に起こしに行くと帰って来た形跡がない。

仕事だって言ってんのに、あの子どこに居るのよ?!

私は海の携帯を鳴らした。

1度目は暫く鳴ってから留守電に切り替わった。

私は再び携帯を鳴らした。

何度か鳴ったコール音が止まった。

「海?!あんた今どこに居るの?!マンションに帰ってないじゃない!」

海の携帯だし当然海が出たと思って入る私は声を聞く前に怒鳴った。

『か…海っ!』

しかし、聞こえてきたのは女の声だった。

ちょっと…海、あんた何してんのよ?!

『彩さん、今呼んだ?海って呼んだ?』

『ボ…ボタン押しちゃった…!』

『はぁ〜?』

相手はかなり慌てている。

っていうか…今、彩さんって言わなかった…?

気のせい?

『おはよう柴田さん』

「昨日マンションに帰らなかったわね?!あんた今どこに居るのよ?!」

『ん?今?大好きな人の部屋にいる』

「はい?大好きな人って…あの、彩さんって人?どうやって…って今はそんな話してる時間ないの!何で連絡しなかったのよ?!」

『ごめんねぇ、昨日携帯の電源切れちゃって…』

「昨日買うって言ってたじゃない、そんな物1つ買えなかったの?」

『…うん』

子供だってそれくらい自分で買えるわよ?!

海は2年間も片想いしていた“彩さん”の部屋に居たのだ。

そして迎えに行った私は初めて海の大好きな“彩さん”に会うことが出来た。

…が、期待に反して彼女は普通の子だった。

特別美人でもないし、コレと言った特徴のない普通の子。

海はどうして彼女に惚れたのだろう?

私にはその時理解出来なかった。



ご覧頂きありがとうございます。


マンション完成時

海…19歳

柴田…38歳

猪俣…53歳

なんですけど…猪俣ってガキですね(笑)


私の「チチ」も脳みそ幼いです。

こんな歯の浮くような事は言いませんが「ハハ」に甘えまくってます。

靴下も自分で履かないし、時報のように時間通りにご飯をせびりに「ハハ」の所にやって来ます。

その様子はもはや人間ではなく「飼い犬」です。


☆そして明日は4/4☆

最終日です。

明日までお付き合い下さい♪

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