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大好きな彼女  作者: 武村 華音
19/33

番外編:柴田 美奈子 2/4


本編内に出てこない海と柴田の様子を書こうと思って手が暴走。

2話なら「前編」「後編」

3話なら「上」「中」「下」

と書けるのだが…4話って厳しいですね。


「海…本当に玖珂 さやかの誘いを受ける気?」

控え室でメイクを落とす海を見つめながら鏡越しに尋ねた。

「うん」

感情などその無表情からは全く読み取れない。

「何で?苦手な人なんでしょ?」

「言ったでしょ?あの目で見られると逆らえないって」

だからって…。

「今ここには居ないじゃない」

「いいんだよ。彼女、有名な人なんでしょ?」

その言葉で、私は海の子供らしくない考えを理解した。

「利用する気?」

「そうだよ。柴田さん、僕は早くあの家を出たいんだ。そのためなら何だってやるし、使えるものは何だって使うよ」

海は振り返ると私に微笑んだ。

「僕が早くあの家から出られるように協力してよ、柴田さん」

この子は普通の中学生とは少し違う気がした。

「あの家に居るとさ…気が狂いそうになるんだ。僕は早く一人前になりたいんだ。早く大人になりたい」

「そんな事したって大人になれる訳じゃないわ」

「…分かってるよ。でも、僕はモデルでしょ?彼女を捕まえておけば色々と仕事をくれそうな気がしたんだ。そうすれば早く家を出て行ける」

私は返す言葉を失った。

この子がどうしても家から出たいのは分かった。

そのためだけにこの仕事を始めた事も分かった。

でも…この子がどうして家を出たいのか、それだけは今も分からないままだ。

「海…何で家を出たいの?」

家に居れば何も困る事ないのに…。

「うちの父さん見たでしょ?あの人はさ、しょっちゅう女の人を連れて来るんだ。その女達は父さんの金目当て。父さんはその女達を抱いて金を渡す。たまに勘違いする女も居てさ、母親面する奴も居るし、僕や僕の兄弟を襲おうとする奴までいる。正直そういうのうんざりなんだよね。毎日ビクビクして過ごすなんて嫌なんだ。独身の兄弟と一緒にあの家を出たいんだよ」

節操のない父親を持つと子供達も大変ね…。

「仕事内容に文句付けないって言うなら協力するわ。勿論、仕事に対してのみの協力よ」

海は私の言葉に顔を綻ばせた。

他の人間の前では決して見せない顔。

それだけ私に心を許してくれているのだ。

「言っておくけど、私は周囲の人みたいにあんたの事甘やかさないわよ」

「ありがと、やっぱ柴田さんをマネージャーに選んでよかった」

その時の海の顔は会ってから今日までで最高の笑顔だったと思う。


海と玖珂 さやかはやはりそういう関係になったらしい。

撮影時の会話からもそれを窺う事が出来る。

決定的なのは撮影後。

「柴田さん、今週の土曜日の海の予定教えて」

玖珂 さやかが私に訊いてきたのだ。

「何故かしら?」

「やぁね、野暮な事訊かないでよ。私月末から海外行かなきゃいけないの、海とゆっくりさせてよ」

海に視線を移すと海は黙って頷いた。

私はシステム手帳を鞄から取り出して予定を確認する。

「土曜日は初のCM撮影よ。どれだけの時間が掛かるのかは海次第じゃないかしら」

初めてなのでそれ以外の予定は入れていない。

時間が読めないからだ。

「じゃあ撮影が終わったらここに連れて来て。当然仕事でお礼はさせてもらうから」

玖珂 さやかが1枚の紙を私に差し出した。

その紙にはご丁寧に家までの地図が書かれている。

この女…慣れてる。

そんな気がした。


玖珂 さやかと付き合うようになって海は少し変わった。

見えるところでは身長も伸びたし、醸し出す空気に色気が出た。

でも、そんな事じゃない。

「今度ショーモデル出来るかもしれない」

仕事の幅も広がってきたけどそんな事でもない。

「有名デザイナーのショーではやし 多恵たえのエスコート出来るかもしれないってさやかサンが言ってた」

後部座席で海は嬉しそうに語った。

「…そう」

まだ、そんな話は事務所に来ていないが、あの女がそう言ったならほぼ決定だろう。

確かに海の知名度は随分と高くなったし、色々なオファーも来るようになった。

社長と一緒に仕事内容の確認と、スケジュールに無理がないかの確認をして最終的に海に決断させた。

事務所側の唯一のNGワードは“笑顔”だった。

海は決して人前で笑おうとしない。

今までのモデルの仕事でも笑った写真は1枚もない。

社長の前でもほとんど笑わなかった。

でも、私の前では別人のようによく笑う。

海にとって私が特別である事は事務所でも有名になっていた。

「柴田さん、何でそんなつまんない顔すんのさ?俺の仕事が増えるの嫌な訳?」

そう、大きな変化は“俺”だ。

「ねぇ、海。何で急に“僕”から“俺”に変わったの?」

「だって、さやかサンが言ったんだ。“僕”って子供みたいだって」

あの女…勝手な事を言いやがって!

やっぱりあの女は好きになれない。

「海には“僕”の方が似合ってたと思うわ」

「子供って事?」

「違うわよ、あんたの雰囲気が“俺”って感じじゃないもの」

「何さ、それ?」

「分からないならいいわ」

私は細かい説明をする事もなく車をスタジオの駐車場に停めた。


玖珂 さやかとの関係は4年も続いた。

完全にあの女のセフレ状態だった。

欲求不満になった頃に海を呼んで満足するまで求め続ける。

まるで盛りの猫や猿…。

海の身体に痕を残して怒った事もあれば、背中の引っ掻き傷で怒った事もある。

あんなもの付けてたらメイクで隠すとはいえ、スタッフの印象はかなり悪くなる。

あの女だってカメラマンなんだし、分かってやっているとしか思えなかった。

私に喧嘩を売っているとしか思えない行動は、もしかして海に本気なんじゃ…なんて思わせたりもして私を困惑させた。

しかし、海の知名度はあるCMをきっかけに急上昇。

とうとう海のスケジュールが彼女に合わせられなくなった。

海は恋愛感情など抱いては居なかったので文句も言わなかった。

それどころか開放されてほっとしたように思える。

お互いに別れの言葉を告げるでもなく2人の関係は終わりを迎えた。

その後、数人の女性と関係を持ったが、恋愛感情はなかったらしい。

この子に恋愛など出来ないのかもしれない…。

そうならば原因は父親だろう。

恋愛の出来ない海が不憫に思えた。


「ねぇ、柴田さん。そこのモデルルーム寄ってくれない?」

仕事が順調に増えてきた頃、運転する私に海が言った。

私は言われるまま、すぐに見えてきたモデルルームの駐車場に車を停めた。

実は…ここに先日私も来ていた。

達郎さんが、新たにマンションを購入したいと言い出したのだ。

確かに今住んでるマンションはセキュリティに問題があるので、私も賛成したのだが…。

「海…まさか?」

「うん、ここ目を付けてたんだよね。芸能人が結構契約してるって話も聞いてるし、安全かなって思ってさ…柴田さん?」

海と同じマンションに住む事になるのか?

私は背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

「いらっしゃいませ…あ、先日はどうも」

やって来た営業の男が私を見て微笑んだ。

先日の担当者だった。

「柴田さん、知り合い?」

海は不思議そうに私を見た。

「柴田様は先日こちらにいらっしゃって、ご契約下さったんですよ」

馬鹿〜!!!!

私は心の中で怒鳴った。

「なんだ、そうなんだ。じゃあ決まりだね」

何が…?!

「俺もここ買う」

嘘だと言って…。

「ありがとうございます。それでは先ず空き状況の確認させていただきますね」

営業の男はにこやかに奥に行ってしまった。

本当にこの坊やが買うと思ってるのだろうか?

「柴田さん、何で内緒にしてたのさ?」

「別に言う事でもないでしょ?マンション買ったとかあんたに関係ないもの」

数分後、戻って来た営業は空き状況の書かれた図面を広げて説明を始めた。

「へぇ、L字なんだ…」

海は何か悩みながらその図面と睨めっこしている。

そして徐に携帯を取り出して誰かに電話を掛けた。

「もしもし、今大丈夫?…あのさ、マンション買おうと思ってモデルハウスに来てるんだけど…うん、そう…分かってるよ。でさ、L字型なんだよね。並び全部いい?話し付けて欲しいんだけど」

おい…もしかしてその相手って…。

営業の男も驚きを隠せないでいる。

未成年が並びの部屋を買い占めるなんてふざけた事をほざいているんだから当然だ。

「うん、そう。望月建設って書いてあるから大丈夫だよね?え?…あ、そうそうその物件」

海はそう言って携帯を切ると、1点を指差して告げた。

「ここの3部屋頂戴」

まるでお菓子を3つ買うような言い方だった。

「は?」

営業が固まった。

「だから〜ここの3部屋ちょうだい」

この営業は悪い冗談だと思ったに違いない。

当然だ。

3部屋でいくらになると思う?

床暖房を入れたり、ちょっとしたオプションを加えるとしたら3億じゃ足りないのだ。

それを簡単に頂戴と言える海も凄いけど…。

さすが社長子息。

金の使い方がハンパじゃない。

表情を変える事無く海は営業の顔を眺めていた。

営業の男は完全にフリーズしている。

「望月様いらっしゃいますか?」

奥から中年の男が出て来た。

おそらく海の事だろう。

「何?」

海の声に中年男は飛んで来た。

「今…お父様からご連絡を頂きました。この度はありがとうございます。どちらの部屋をご希望でしょうか?」

親子ほど違う子供にペコペコと頭を下げる中年男の姿が何だかおもしろい。

「10階のココの3部屋頂戴」

「はい、畏まりました。契約はお父様の方がお手続き下さいますのでご安心下さい」

まるでファーストフードの注文のようだ。

そのくらい軽い。

「じゃあよろしくね。柴田さん帰ろ」

海はそう言うと立ち上がった。

「ありがとうございました!」

中年男は深々と頭を下げて海を送り出した。

「さっき電話したのお父様?」

「うん。未成年が契約できるか分からなかったから、父さんに頼んだ方がいいかなって思ってさ。勿論お金は俺が払うけどね」

そしてようやく海は自分の城を手に入れたのだ。

完成するまであと少し。

私達は同じ建物で生活する事になる。

海に達郎さんの事がバレるのは時間の問題かもしれない…。



ご覧頂きありがとうございます。


マンションを買う事になりました。

それも柴田さんと海は同じマンションを購入。

偶然なのか何なのか。

柴田が買ったと分かった途端、買うのは当然になってしまうあたり海の懐きっぷりは呆れるものがあります。


☆明日は3/4です☆

お楽しみに〜♪

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