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大通りの国道線からちょっとだけ脇に入る
さっきまでの交通量が嘘のように 田舎道になった。
車どころか人もほぼ居ない
昼間はともかく夜間になると心もとない外灯だけが頼りの一車線しかない道路
緑の門を通るとそこは5年振りの懐かしい生家・・・・。
・・・・懐かしい?
ん?え、あれ・・?
「色々あったけどやっぱり実家はいいよね」
みたいな感想が出てくるんじゃないかな?なんて考えてたんだよ
東側の庭は母の趣味で和風庭園 西側の庭は父の趣味の英国風ガーデニング
その真ん中に家が建っていて 車庫と納戸 小さな家庭菜園の畑
土地は有り余ってたから両親は庭を好き勝手に使っていたみたい
他界してしまった後もその庭は兄や私が手入れをして健在だった…はず
私自身は5年で色々変わった気でいた。
でも 家は 5年くらいじゃ何も変わったりしない
って心のどこかで思っていたのかもしれない
生家と車庫は見慣れたものがある
その2つで 私の実家はここ 間違っていない自信がある
でも 和風庭園も英国風ガーデニングも家庭菜園もなくなっていた
そのかわり・・・ そのかわりか?あれが?
3階建ての建物 小さなコーポでいうなら3つ分か4つ分くらい?
目測だからなんとも言えないけれど
なんていうか・・・でかい。
元々あった家は小さくはないはずなんだけれど
その3階建ての建物を見ると 小さく古く・・みすぼらしくさえ感じる
「日名子!」「お帰り」
車を降り その建物を呆然と見ていた私に声を掛けてきたのは2人の兄だった。
「あ、かず兄、謙兄 ただいま」
「待ってたよ。疲れていないか?」
「運転大変じゃなかった?迎えに行ったのにな。もっと甘えていいんだぞ?」
「かず兄も謙兄も・・・相変わらずだねえ。こんなんじゃ疲れないよ」
「日名子はもっと俺達を頼ればいいんだよ。」
「そうさ。いくつになったっていつだって俺達の可愛い妹なんだからな」
この2人はいつだってこうだ。私を小さな子供のように扱い甘やかす
まるで・・・自分1人じゃ何も出来やしない子供のように・・・・・
「ねえ、兄さん あれ・・・何?」
兄達からの言葉をさえぎるように思っていた疑問を口にしてみた
「ん?あの建物か?」
「うん。なにあのでっかいの」
「あれ 俺の仕事場だよ」
「…謙兄の?」
「そうそう。会社自体はかず兄のだけど その中の仕事の分野の一つさ」
「かず兄の会社?」
「ああ、日名子が結婚してこの家を出てってから さびしくてな」
・・・・さびしいと会社って起業するものですか?
「無駄に運用資金もあったしな」
「俺が前の事務所を独立したせーもあんだけどな」
「え・・謙兄 事務所辞めてたの?」
「ああ、色々あってな」
ほら、いつもこうだ。
2人して私を甘やかすくせに
大事なことは何一つ教えてくれやしない。
相談されても 私じゃ答えてあげられないけれど
会社を起業するとか 仕事辞めるだとか
そういう重要な事は 後から聞かされてばかりだ。
「あんなでっかい建物で何の仕事してんの?」
「それは後で話すよ。とにかく家に入ろうぜ」
兄達のエスコートされるまま家に入る
そこは外で見た景色が嘘のように 5年前のままだった
あっ 懐かしい・・・・・。
18年前の家族写真が飾られている木製の写真立て
ずっと前から使っている壁掛け時計
外国製のブラウンの大きなソファ
さすがに電化製品はちょこちょこ変わっているみたいだけれど
基本家具とか変わっていない
「紅茶でいいか?」
「ココアもあるよ?」
2人とも私の好みを覚えていてくれる
「紅茶がいいな。その前の仏間行ってお線香あげてくるよ」
「ああ、わかった」
「報告してこい」
「うん」
兄達は私がここに帰省してきた理由を知っているのだろう
私はまだ自分の口から「離婚」のことは言っていない
元旦那から報告があったのかもしれないけど
電話とかではなく ちゃんと会って口頭で報告したかった
「頑張ったつもりだったんだけれど・・・別れちゃったよ。えへへ バツついちゃった戸籍汚しちゃった。ずっと顔出さなかったのに 久々なのがこんな報告とか・・ごめんなさい。お父さんお母さん」
静かな部屋 仏壇にお線香をあげながら 私は謝った