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妖精めいた美貌の王子

そのとき。

庭の奥から、一人の青年が姿を現した。

アンナともう一人の侍女が即座に立ち上がり、マリアンの前に立つ。


「警戒しないでください。怪しい者ではありません」


青年は柔らかく微笑んだ。長身で、ほっそりとした体躯。銀の髪が陽光を反射し、紫の瞳は水晶のように澄んでいる。

花々の中に立つ姿は、妖精が人の世を覗いているかのようだった。

装飾のない白い衣服。だが上質な布地だと一目で分かる。


アンナはわずかに頬を染めたが、警戒は解かない。

青年が二人に何かを囁くと、侍女たちは無表情のまま左右に退いた。花架のそばで静かに立ち、空間を開ける。


「あなたは誰?」


マリアンは疑いを隠さない。侍女たちを即座に従わせる身分。ただ者ではない。


「……もう、覚えていないのですか?」


「申し訳ありません。記憶にありません。父は議事堂で重要な話し合いをしています。これ以上の接触は問題になります」


青年は微笑んだまま、静かに言った。

「この庭で、あなたに出会いました。あのとき、いちばん美しい黄色の薔薇を」


マリアンの瞳が見開かれる。

あの少年。


「私はあの日、こっそり抜け出していたのです。幼いころから同年代の友人もなく、大人たちも私に話しかけようとはしなかった。あなたは、はじめて私を普通の子供のように扱ってくれた」


紫の瞳が、まっすぐに彼女を見つめる。


「こうして再び会えたことが、どれほど嬉しいか。たとえ覚えていなくても構いません。ただ、また話せるだけで私は幸せです」


甘い。

あまりにも甘い。

マリアンの胸の奥が、溶けるように温かくなる。

婚約破棄でひび割れた心が、ゆっくりと繋がっていくようだった。

視界がわずかに霞む。淡い桃色の霧に包まれるような感覚。

香りがする。甘く、柔らかく、身体が軽くなる。


――おかしい、とどこかで思った気がした。

だが、その違和感はすぐに溶け、言葉にならないまま消えていった。


「今の私は何も持たない身ですが……あなたに相応しい存在になるため、父の前で必ず力を示します。いつか、あなたと並び立てるように」


別れ際、青年は言った。

「私はジェイソン国王の第一子です。平民の女性との間に生まれました。父は私の血を嫌い、東塔に幽閉していました」


マリアンは息を呑む。


「最近になって、父子の情けで週に一度だけ外に出ることを許されたのです」

紫の瞳が、静かに笑う。


「私の名は――ジェイです」


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