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女王と大魔導士の夜話

エリカが真夜中に目を覚ますと、自分がダグの逞しい身体に寄りかかって眠っていたことに気づいた。


王位を得たあとも、エリカは王宮に大きな改築や新設を命じてはいない。


もともと王妃のために用意されていた部屋を、名目の上で女王の部屋へと改めただけだった。

かつてジェソン王が使っていた王の私室は封鎖され、今では倉庫として使われている。


王と王妃の部屋に繋がる一角には、やや小ぶりながらも精巧に整えられた部屋が二つあり、本来は側妃や寵愛を受けた相手のために用意されたものだった。

エリカが即位してからは、その二部屋にそれぞれダグとアンジェラが住んでいる。

その夜、誰を傍に置くかを決めるのはエリカだ。

選ばれた者の部屋へ通じる扉だけが開かれる。


王妃時代から使われていた寝台は十分に広く、二人で眠るには何の不足もない。

それでもエリカは、自分がどういう眠り方をしたのか思い出せなかった。

今の彼女は、ほとんど全身の重みを背後の男に預けるような格好になっていたからだ。


エリカが身じろぎすると、ダグが視線を落とし、静かに彼女を見つめた。

長い戦いの年月のせいで、彼の顔にも身体にも無数の傷痕が残っている。

古いものは若い頃に戦場で受けた武器の傷。


新しいものは数年前、黒塔で奴隷のように扱われていた頃に、魔法実験や攻撃によって刻まれた痕だった。

とりわけ顔に走る大きな傷は、かつて彼が別宮から引きずり出され、国外との戦場へ送られる前に、ジェソンに命じられて刻まれたものだった。


けれど、そうした傷痕の向こうに、エリカは今でも昔の少年の面影を見ることができる。

別宮にいた頃、己の力の限りを尽くして、少しでも清潔な食事と水を彼女に用意し、彼女が泣いている時には高い枝の先まで登って花を摘んできてくれた、あの少年を。


「大丈夫?」

エリカがそう尋ねると、ダグは首を横に振った。


「平気だ。昔、『眠らぬ者』だった頃の名残で、長く眠らなくてもそれほど困らない」


「少し話す?」

エリカは身を起こし、肩にかかっていた毛布を持ち上げると、二人を包み直した。


ダグはすぐには答えなかった。

アンジェラが甘えるように感情をそのまま口にするのに対して、ダグはいつも本心を胸の奥深くへ押し込めてしまう。

彼が何を考えているのかを聞き出すには、エリカの側にも少しの時間と労力が必要だった。


「ティムのことを心配しているの?」

「至黒の夜」の前夜、ティムとレイは漆黒の山脈から帰還し、その翌晩に起きた事件の中で重要な役割を果たした。


ダグは小さく頷いた。

「……あいつの未来を、どうしてやるべきか考えていた」


「あなたへの約束は変えないわ。私の玉座は、いずれあの子の娘に渡すつもりよ。エドワードのことは別に考えてある。だから、そこは心配しなくていい」


ダグはすぐに首を振った。

「心配しているのはティムじゃない。レイのほうだ。あの日、お前も見ただろう。あいつが『システム』を喰らった時の様子を。俺はただ、ティムがあいつの傍にいて本当に安全なのか、それを確かめたいだけだ」


「……そうね。そこだけは、私にも絶対の保証はできないわ。でも、私はあの子を信じている」

ダグは低い声で言った。


「俺たちとは違う生き物だ。本当に信じていいのか。あいつがティムに向けるものを、俺たちと同じ意味の真心だと思っていいのか。人間が犬や猫みたいな愛玩動物に向ける情と、どれほど違う?」


エリカは少し考え、それから静かに答えた。

「あなたが不安に思う理由は分かるわ。でも、それでもレイはティムにとって最もふさわしいパートナーなの。王家の図書館にある記録はすべて調べたし、空から集めてもらった古い文書も読んだ。ティムとレイが出会えたことは、本当に幸運だったのよ。以前、あれに近い組み合わせだった二人は、いろいろな事情で周囲にも害を及ぼしたうえ、最後には二人とも悲惨な死に方をしたのだから」


ダグはしばらく黙っていた。

やがて、諦めるように息を吐く。

「……本当に、それしかないのか」


「受け入れてあげて、ダグ。ティムが幸せであることが、一番大切でしょう」


「分かっている。ただ……考えるたびに、自分が許せなくなるんだ。あの男がお前たちに手を伸ばそうとしていた時、俺はあまりにも遠くで、洗脳されていて、何一つできなかった」


ティムの「魔霊眼」が彼の人生をどれほど変えてしまったのか。

そして、その眼をそうした黒幕が誰だったのか。

それを思うたびに、ダグの胸には激しい怒りが込み上げる。


それでも、数日前の「至黒の夜」と、ジェソンの人生の最後の有様を思い返すと、ようやく少しだけ気が晴れるのだった。



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