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番外編

あの刺殺事件には、いくつもの隠された秘密があった。

表向きに襲撃された人物は、真の標的ではなかった。刺客が信じていた依頼人も、途中で別の人物へとすり替えられていた。

黒い霧の中から刺客が突如現れたとき、エドワード王子の傍らで護衛を務めていたティムは即座に動いた。王子を庇い、そのまま刺客と激しく斬り結ぶ。

戦闘の最中、刺客は片腕を失う危険を承知のうえで、不吉な色を帯びた魔法の炎を放ち、ティムの両目を焼いた。


炎は眼球から内へと侵入し、脳内の特定領域を灼いた。人間は目から受け取った光を脳で解析し、像として認識する。その機能が、呪詛魔法によって破壊されたのだ。

それ以降、ティムが目を開いて見る世界は、以前とはまったく異なるものとなった。

歪み、狂気に満ちた世界へと。


エーリカはすぐさま、長年の友人である空の使徒・野口空に助言を求めた。

空は豊穣の女神から啓示を受ける。

女神は告げた。

それは「魔霊眼」と呼ばれる、古代の呪詛魔法の結果であると。


かつて神々の戦争の時代、この魔法は大量に用いられた。神でさえ容易に逆転できないため、神の眷属を攻撃するための手段として重宝されたのだ。

もし眷属が、尊ぶべき神を腐肉の塊のように見てしまえば――

神と人との繋がりは断たれ、授けられた加護は霧散する。


歴代の為政者たちは幾度もこの魔法を禁じようとした。だが残酷な刑罰と同様、人間の猟奇と加虐への欲望ゆえに、この呪詛は密やかに伝承され続けてきた。


魔霊眼の持ち主が見ているものは何なのか。

現在、最も有力な説はこうだ。彼らは“魔力と魂”を基準に世界を視ている。

人間の魂も魔力も、極めて複雑な存在である。


たとえば、外見は立派でも裏では家族を虐げ、弱き者を焼き尽くす男がいるとする。魔霊眼の持ち主がその男を見れば、他者を貪る炎と醜悪な怪物の姿が映るだろう。

これは極端な例だ。

より一般的なのは、魂と魔力が複雑に絡み合い、歪んだ形体として映ること。家族や友人に囲まれていても、野獣の群れの中に立っているように感じてしまう。

魔霊眼の発症者の約九十九パーセントは、発症から一か月以内に自ら命を絶つ。


空は二人の使徒騎士を派遣し、生存例の記録を探らせた。

同時に、ティムの目を覆う黒布へ保護の魔法陣を編み込むことを提案する。少しでも時間を稼ぐために。


「目を閉じていればいいのでは」と人は言う。


だが視力を持つ者にとって、永遠に目を閉ざすことは不可能に近い。

魔霊眼の持ち主は視覚の変質とともに、他の感覚も変容していく。聴覚、嗅覚、触覚が異様に鋭敏になる。

そして、どうしても“見てしまう”。

たとえ自らの目を潰したとしても無意味だ。変質したのは脳であり、異常な像は感覚へと投影され続ける。


四か月後。

騎士たちは東海の真珠諸島の小島から戻り、貴重な図版と記録を持ち帰った。

驚くべきことに、その頃までティムは生き延びていた。それどころか、新たな視界に順応しているように見えた。

依然として黒布で目を覆っている。だが人目を避けると、布の隙間から周囲を観察している。

さらに、聴覚、嗅覚、触覚を巧みに使い、目の前の存在が生物か物体かを判別し、さらには人物の識別までも可能にしていた。


空は収集した資料を密かにエーリカへ渡した。

「すべて読んでから、実行するかどうか決めてほしい」


エーリカは資料を開いた瞬間、空の意図を理解した。

その生存者は五年間生き延びた。だがそれは、常人の生活とは呼べないものだった。

本人にとっては日常でも、他者の目には狂気としか映らない行動の連続。


「空の言うとおりね。これは再現できないわ」

エーリカはそう告げた。


アンジェラは深く落胆した。幼少から我が子のように育ててきたティムに、不可逆の傷が残ったことが耐え難かった。かつて“王国の花”と称えられたその美貌さえ、翳りを帯びるほどに。


それから数年後。


ティムはレイを伴って彼女たちの前に現れる。


誰も気づかぬまま――

唯一の生存例と同じ解決策を、再びこの世に再現していたのだった。

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