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マリアン公爵令嬢、二度目の人生を始める

「マリアン様! マリアン様! お目覚めください!」


ぼんやりとした意識の奥で、マリアンはアンナの声を聞いた。


おかしい、と彼女は思う。

アンナは王宮で死んだはずだ。

議事堂へ続く廊下を必死に走っていたとき、彼女はアンナとジェシカの、引き裂かれた遺体を確かに見たのだから。

おかしい、と彼女は思う。


「マリアン様、このまま起きなければ公爵夫人に叱られてしまいますよ!」


それもまた妙だった。


母はとっくに亡くなっているはずだ。

どうして自分を叱ることができるのだろう。


けれど――

彼女はもう長い間、母に会っていない。


もし会えるのなら。

それが夢でも幻でも構わない。


それだけで、どれほど幸せなことだろう。


マリアンはゆっくりと目を開いた。


そして、目の前の光景に息を呑んだ。


そこはブラウンティ公爵領の大邸宅にある、彼女の部屋だった。


幼い頃に一番好きだった、淡い桃色と黄色で飾られた部屋。


柔らかなベッドの枕やシーツは最高級の絹で縁取られ、周囲には繊細なレースが丁寧に縫い込まれている。

その上には、春の草原を駆け回る愛らしい兎の刺繍が施されていた。


部屋のあちこちには、マリアンの好きな兎の置物や可愛らしい人形が並んでいる。

さらに部屋の隅には、豪華なドールハウスが飾られていた。


中の人形や家具は驚くほど精巧で、まるで本物の貴族の館のようだ。


――全部、幼い頃の自分の部屋そのままだ。


ベッドの傍らにはアンナが座っていた。

心配そうにこちらを見つめている。


しかし――

若い。

あまりにも若い。

まだ十代の少女にしか見えなかった。


マリアンは自分の手を見下ろした。

短く、小さい。まるで五歳の子供の手だった。


「アンナ……ここはどこ?」


「もちろんマリアン様のお部屋ですよ。お忘れになりましたか?」


アンナは少し首をかしげながら答える。


「昨日、公爵夫人がディマン王国の大使と長くお話しされていたでしょう? マリアン様は応接室のソファで眠ってしまわれたんです。ですから公爵様と奥様のご命令で、私がここまでお運びしたのですよ」


マリアンはさらに尋ねた。


「アンナ……私は今年、何歳?」


アンナは少し困ったように笑った。


「今日は本当に変ですよ、マリアン様。まだ眠いんですか?」


そして当然のように言った。


「先週、五歳のお誕生日を迎えられたばかりですよ」


マリアンはその後もいくつも質問を重ねた。


そして――


信じがたい現実を理解する。


自分は、五歳の頃に戻っている。


もう一度やり直す機会を与えられたのだ。


きっとこれは、神様が与えてくれた機会なのだろう。


今度こそ――

すべてをやり直すための。


アンナとジェシカに身支度を整えてもらったあと、マリアンはブラウンティ公爵夫人のもとへ向かった。


久しぶりに見る母の姿を目にした瞬間、彼女は思わず抱きつき、声を上げて泣き出した。


どうしても離れようとしない娘に、公爵夫人はすっかり驚いてしまった。


きっと昨日、ディマン王国の大使との会話が怖かったのだろう。

そう思いながら、彼女は決める。


あとで部屋に戻ったら、すぐに手紙を書こう。

今やディマン王国の王となっている兄に、もうマリアンとエドワード王子の婚約の話を持ち出さないよう伝えなくては。


娘がこんなにも怯えてしまったのだから。


ブラウンティ公爵とその息子は、現在港でディマン大使を見送っている。

邸宅にいるのは、マリアンと母、それから使用人たちだけだった。


母と別れた後、マリアンは理由をつけてアンナとジェシカを部屋の外へ出した。


一人きりになった部屋で、彼女は誕生日にもらったばかりの美しい手帳とガラスペンを取り出した。


そして、未来の記憶を書き留め始める。



十歳のとき、王都で大きな疫病が流行する。

母と妹はその病で亡くなる。

平民から王族まで、多くの人々が感染し、数え切れない命が失われる。


マリアンは思った。

すべては、あの疫病から始まったのだ。


母が死ななければ、父は仕事に没頭しない。

父が宰相にならなければ、私はエドワードと婚約しない。


婚約しなければ――

王立学院の舞踏会であんな屈辱的な形で婚約を破棄されることもなかった。


あんな屈辱も、ジェとの出会いもなかった。

つまり。


もしジェと出会わなければ、

父があんな惨めな姿になることも、

王都の人々があの恐ろしい姿の死体になることもなかったはずだ。


さらにジェソン国王。

疫病がなければ、エリカ王妃も南へ行かなかった。

病み上がりで体の弱ったアンジェラを連れて、遠く南の領地へ移る必要もなかった。

もし王妃が王の側を離れなければ、ジェソン国王があの狂気の姿になることもなかったかもしれない。


マリアンは覚えている。

狂気に堕ちたあの姿になってもなお、ジェソン国王はエリカの名前を何度も呼んでいた。


一度でも自分を振り向いてほしいと。

王子妃教育を受けていた頃、王宮の教師や侍女たちはよく語っていた。

エリカとジェソンはかつて深く愛し合っていたのだと。

エリカは長い間、惑わされていたジェソンを信じて待ち続けた。

そしてジェソンも改心してからは、妻を深く愛していたのだと。


エリカ王妃は何度か彼女に手紙を送ろうとし、面会も求めていた。

しかし当時のマリアンは父の影響を強く受けていた。

未来の王太子妃である自分こそ王宮の中心であるべきだと思い込んでいたのだ。


だからエリカには、南に留まり続けてもらった方が都合がよかった。


彼女はすべて断った。


だが今なら分かる。


もしあの時、王妃の招きに応じていたら。

エリカとジェソンの関係を取り持つことができたかもしれない。


そうすれば国王と父の関係も、もっと良くなっていたかもしれないのだ。


ジェと公爵の最後の姿を思い出すと、マリアンは吐き気を覚えた。


もう二度と王宮には行きたくない。

もし機会があれば、父にも領地に留まるよう説得しよう。


あの疫病さえ止めれば、

未来はすべて変えられる。


母も、妹も、父も守れる。


そしてきっと――

王国も。


彼女の記憶には、エリカ王妃が開発した疫病の治療法も残っていた。


父と母を守るためにも、

まずはその解薬を作り出さなければならない。

疫病さえ防げば、きっとすべては良くなる。


そう信じていた。


ただ一つ、理解できないことがある。

ジェやジェソン国王、そして父が最後にあんな姿になった理由だ。


彼らは何度も「攻略システム」という言葉を口にしていた。


だが、その意味は分からない。


きっとジェのような狡猾な人間が、女性を騙すために使っていた何かの魔法なのだろう。

もし自分が関わらなければ、

ジェは一生塔に閉じ込められていたはずだ。

せいぜい庭園で、次の愚かな貴族令嬢を探すくらいだろう。


だから――


家族全員で領地にいればいい。


王都で何が起きても、きっと関係ない。


もしジェソン国王が今世では自分たちを狙わないのなら、ひとつだけ忠告してもいいかもしれない。

ジェを絶対に塔から出さないこと。


できれば――

最初から殺してしまうこと。


エドワードは、ある人物の名前も口にしていた。


エリカ王妃の被後見人、ティム。


奴隷出身だったが、後に自由民となり、さらに貴族へと取り立てられた青年だ。

最後にエドワードが逃げようとしたとき、ティムの領地が最後の防衛線だと言っていた。


つまり、その領地には王族と対抗できるほどの力があるのかもしれない。


ジェソン国王も言っていた。

エリカはエドワードよりティムを可愛がっている、と。


それならば――あり得る話だ。


エドワードは言っていた。


もしティムが高貴な女性――

たとえば公爵令嬢のような女性と結婚すれば、

エリカは彼を王にするかもしれない、と。


マリアンは思い出す。


前世で一度だけ、ティムを遠くから見たことがあった。


若く、整った顔立ちの青年だった。

気品があり、とても奴隷出身には見えなかった。


――高貴な公爵令嬢。


その言葉を思い浮かべた瞬間。


マリアンの頬が、ふっと赤くなった。


もしかしたら――


それは、私なのかもしれない。


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