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婚約を破棄され、幽閉された公爵令嬢の最初の死

「逃げたらしいが……!」

マリアンはもう何も考えていなかった。

この地獄の光景の中で、死ぬほうがまだ救いに思えた。


マリアンの腕が、突然強く引かれた。

驚いて顔を上げると、息を切らしたエドワードと目が合った。


「どうしてここに?」


「今は話している場合じゃない」


「早く逃げるぞ」


エドワードはマリアンの手を掴み、そのまま外へ走り出した。

二人は手を繋いだまま走った。

それはまるで、幼い頃に王宮の庭園で駆け回っていた時のようだった。


「ああっ!」


突然エドワードが悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。

マリアンが振り向くと、そこにはジェソン国王が立っていた。


崩れた顔からは、血と肉片がまだ滴り落ちている。

彼の腹部からは一本の黒い触手が伸びていた。

その触手には深い緑色の毛がびっしりと生えている。

その触手はエドワードの胸を貫いていた。


地面に倒れたエドワードの顔は蒼白で、口からは絶えず血が溢れていた。

マリアンは必死に傷口を押さえて血を止めようとしたが、まったく止まらなかった。


「すべてお前のせいだ」


ジェソンは瀕死の息子を見下ろしながら言った。


「お前は弱く、醜く、そして役立たずだ」


「もしお前がもっと優秀だったなら、エリカも私をもっと愛しただろう」


「だが今はどうだ」


「彼女は南に留まっている」


「血の繋がりもない小さな奴隷、ティムの世話をするためにな」


「王宮に戻ろうともしない」



エドワードは最後の力を振り絞り、マリアンを突き飛ばした。

「マリアン、逃げろ!」


マリアンは一瞬だけ躊躇したが、そのまま走り出した。

逃げながら、彼女は目から何かが流れているのを感じた。


それは涙だったのだろうか。

だが、その液体には血の匂いが混ざっていた。


彼女は走り続けた。

王宮の門を抜けるまで。

そして城外の通りまで。

そこでようやく力尽き、地面に倒れ込んだ。


王宮の外の街では、赤子の顔を持つ怪物たちがあちこちを這い回っていた。

動くものを見つけると、すぐに飛びついていく。

人々は悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。


空の中央では、何かの色が歪みながら蠢いていた。

それは奇妙な光を放っていた。

マリアンはそれをぼんやりと見つめていた。


彼女の目と鼻からは、血と透明な液体が流れていた。

足は妙に軽く感じられた。

だが力が入らず、動くこともできない。

彼女はなんとか身体を動かし、自分の足元を見た。


自分の足が溶けていた。


そしてマリアンは意識を失った。


静かな闇の中へ沈んでいった。



どれほどの時間が経ったのか分からない。

やがて騒がしい声で目を覚ました。


マリアンは目を開いた。

通りを徘徊していた赤子の怪物たちは、すでに消えていた。

見慣れない深緑の鎧を着た兵士たちが、市民と共に動いていた。

壊れた建物や瓦礫を片付けている。

空は澄んだ青色に戻っていた。


まるで先ほどまでの異変など、存在しなかったかのように。

彼女の背後では、王宮がすでに廃墟となっていた。

だがその廃墟の上には、赤い蔓薔薇が咲き誇っていた。

鮮やかで、美しく。

まるで最初からそこにあったかのように。


豪華な衣装を着た貴族や官吏らしき人物たちが、兵士や市民に指示を出していた。

崩れた王宮の中から、書類の束や大きな箱を運び出している。

マリアンには、自分がどれほど気を失っていたのか分からなかった。


遠くから馬の蹄の音と、金属のぶつかる音が聞こえてきた。

人々は立ち上がった。

そしてその方向へ歩き出した。


歓声が上がった。


だがマリアンには分からなかった。


誰に向けた歓声なのか。


彼女はもう限界だった。


再び目を閉じる。


本当に疲れていた。


まるで身体そのものが溶けていくようだった。


そして最後に。


正午の陽光の中で。


マリアンは溶けて消えた。


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