血の池地獄に堕ちたジェソン王
「そうだろう?攻略システム?」
ジェソン国王の声だった。狂気と、信仰のような確信が混ざっていた。
「願いを叶えると言ったじゃないか!」
「私はやったんだ!ジェの願いを叶えた!」
「生殖能力を戻し、偉大な王にする!王の役目は後継を生むことだろう!」
「見ろ!この繁殖力!公爵家と王家の血が混ざった、素晴らしい子孫だ!」
やがて彼は影から姿を現した。
それは、まだ人間の形をしていた。
少なくとも――
最初の一瞬は。
王の礼装が、その身体にまとわりついていた。
かつては威厳を象徴していた衣装は、今や血と泥にまみれ、湿った肉の臭いを放っている。
ジェソンは顔を両手で覆っていた。
その指の隙間から、何かが滴っている。
血。
あるいは――
もっと粘り気のある、何か。
彼はゆっくりと首を傾け、空間のどこかを見つめていた。
「早くしろ、システム。」
「お前はジェから離れた。」
「そして今は私の中にいる。」
「ならば願いを叶えろ。」
マリアンは、理解できなかった。
そこにあったものが、顔だったのかどうか。
皮膚はほとんど残っていなかった。
頬は剥がれ落ち、
脂肪の黄色い粒が露出している。
赤い筋肉がむき出しのまま、歯の間から呼吸が漏れていた。
しかし。
それは自分で剥いだものだった。
彼の指には皮膚が残っていた。
まだ湿っている。
彼はそれを引きちぎり、床に投げ捨てた。
肉片が床に落ちる音が、やけに大きく響いた。
「この顔だ。」
「この顔がいけない。」
「この顔だからエリカは私を捨てた。」
彼は笑った。
歯が露出したまま、頬の筋肉が歪に動く。
「戦士奴隷。」
「赤毛の娼婦。」
「どちらも、顔が良い。」
「だからだ。」
「だから私は選ばれなかった。」
彼は突然、何かを思いついたように声を上げた。
「そうだ。」
「顔を変えればいい。」
「新しい顔だ。」
「私にふさわしい顔。」
彼の視線が、どこか遠くを見た。そこには誰もいない。
それでも彼は、確信したように頷いた。
「野口空。」
「そうだ。」
「野口空の顔だ。」
「エリカはあの男と逃げようとした。」
「だから私は父上に頼んだ。」
「捕まえさせた。」
「別宮に閉じ込めた。」
「それでも足りなかった。」
彼は笑った。
喉の奥から、泡の混じった笑い声が漏れる。
「ディマンの神殿に送った。」
「神殿はああいう人間が好きだからな。」
「面白い実験をしてくれる。」
「逃げたらしいが――」
そこで彼は言葉を止めた。
ゆっくりと首を傾ける。
耳を澄ますように。
「聞こえるだろう?」
「システム。」
「私は全部やった。」
「お前の指示通りだ。」
「ジェを王にする。」
「子を産ませる。」
「王国を繁栄させる。」
彼の声が震えた。喜びとも、怒りともつかない震え。
「見ろ。」
「これが王の血だ。」
「これが繁殖だ。」
「これが王国の未来だ。」
彼は腕を広げた。
その背後で、肉塊がうねる。
歪んだ赤子たちが、床を這っている。
骨が砕ける音。
肉が裂ける音。
湿った呼吸。
それらすべてが、議事堂の空間を満たしていた。
「完璧だ。」
「完璧だろう?」
「なあ、システム。」
「そうだ。」
「分かっている。」
「次は私の番だ。」
「王になるのは、私だ。」
その瞬間、マリアンは理解した。
彼はもう、人間と話していない。




