森の葉っぱじゃお腹いっぱいにならないらしい
背の高い木々が生い茂る森。
月に照らされ、厳かで神秘的な空間が広がっている。
……さっきの悲鳴は、何だったんだろう。
「本当に、ここなの?」
「まあまあ。着いたら、わかるって~」
どこまで進んでも、緑の木々ばかり。
でも、ユイナは自信満々にスタスタと歩いていく。
僕らは、いったいどこを歩いてるんだろう。
……って、聞いても答えてくれなさそうだな。
そのとき――。
「腹減ったああああ!!」
茶色くて、大きな鬼みたいな生き物が、森の中で暴れているのが見えた。
バキバキ……ッ!
きれいな木々が、根っこからなぎ倒されていく。
うわ……ヤバそうなのが、出てきた。
ユイナが素早く木陰に隠れる。僕も後に続いた。
「あれが原因だね」
「何なの? あれ……」
「オーガだよ。まあ、いわゆる鬼だね」
オーガは森の草木を引っこ抜いては、むしゃむしゃと食べている。
町内会の草刈りなら、ヒーローになれる。
でも、ここはシルベスタ王国の森。残念。
「待って! 森を食べないで!」
オーガのそばを、人間らしき生き物が飛んでいる。
髪は緑色でボサボサ、よれよれの作業着。いわゆる「疲れた中年男性」だ。
「あ! 精霊グエルだ!」
「えっ!? あの人、精霊なの!?」
すごい生活感……。お風呂とか、ちゃんと入ってるのかな。ちょっと心配になる。
「食べても、食べても……お腹いっぱいにならない……!」
オーガが足踏みをして暴れだす。
震度5はありそうな揺れが、地面から伝わってきた。
こ、怖い……!
「そりゃあ、そうでしょ! だって葉っぱだもん!」
グエルが必死に説得している。
……森の葉っぱ、レタス扱いなんだな。
「肉が食いたい……! よこせ……!」
オーガの大きな手がグエルに伸びる。
グエルはひらりと身をかわした。
「待って! 待って! 俺は肉じゃないんだ! ほらよっと!」
次の瞬間、グエルはきらきらと光って、オーガサイズの木に変身!
――そして、流れる沈黙……。
「む~……」
オーガがグエルを探し始める。
木になったグエルは森の木々に紛れて、まったく目立たない。
これが……『平行線』ってやつか。
「ふむ。これは運命だな」
低く響く声とともに、1人の男が颯爽と現れた。
さらさらストレートの長い髪、整った顔立ち、長身に鍛え上げられた筋肉がちらり。しかもイケボだ。
「きゃ~!」
「魔王様、かっこいい~!」
どこからともなく、透明な羽をつけた女の子たちが顔を出し、黄色い声援を送る。
……魔王って、こんなに人気なの?
「おい! 魔王! 物騒なこと言うなよ!」
木の姿のまま、グエルが牽制する。
……この精霊、ダサいな。
「大丈夫だ。心配はいらない。皆で、私の城の麓に住めるようにしてやろう」
再び飛び交う黄色い声。
某アイドルグループ並みの人気だ。グッズ出したら儲かりそう。
「ちょっと! 俺の領民に変なこと吹き込まないでくれる!?」
グエルの抗議に、まさかの大ブーイング。
え、この国……大丈夫?
「あ~! もう! このままじゃ埒があかないよ~!」
ユイナが槍を手に、立ち上がった。
「え!? ちょ、ちょっと……!」
僕はまだ心の準備ができていない。
「私が時間を稼ぐから、そこで変身して来て! じゃ、またあとで!」
ユイナは颯爽と駆け出していった。
その時――。
ドオオオン!!
再び、震度5級の揺れが森を襲う。このままだと、土砂災害まっしぐらだ。
鞄からハート型のコンパクトを取り出し、ぎゅっと、握り締める。
今、ここにいる全員を笑顔にするためには……。
ミニスカ魔法少女姿を、晒すしかない――!




