表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/56

ハッピーエンドじゃないよね

魔王の顔がどんどん近づいてくる。受け止めてあげなきゃいけない。だって、僕らは、似た者同士だもの……うん……そうなんだけど……。


……これは、ハッピーエンドじゃないよね。


「待ってください」


「案ずるな。ここは、楽園だ」


「確かに、ここは、楽園です。でも、だからこそ、ここには、いられないんです」


「なっ……!」


強い風が吹き、湖畔の木々の葉がひらひらと水面に落ちていく。

魔王がよろめき、小舟が揺れる。魔王のショックが、ひしひしと伝わってきた。でも、僕は、このまま終われないんだ。


「僕の本当の姿は、霧生颯真。14歳の男子中学生です」


「なんだと……?」


戸惑う魔王の前で、コンパクトを出し、変身を解く。湖の水面に映るのは、黒い短髪で、同じ年頃の男の子たちより、少し華奢で色白な少年だった。


そう……これが、僕……霧生颯真だ。


「それが、真の姿……なのか……」


僕は、静かに頷いた。相変わらず、華やかさの欠片もない。でも、今はこの姿を気に入ってる。


「僕は、ある時、シルベスタ王国の女王・ユイナ・バレッタに異世界から召喚され、魔法少女に変身する力を手に入れました」


「なんと……」


「僕は、もとの世界で本当の自分を見失っていました。でも、この世界で、女王や精霊たちに出会い、あなたと行く先々で色々なことをさせてもらいました」


ユイナと精霊たち、そして、魔王と過ごしてきた日々が鮮やかに蘇る。色々なことはあったけど、楽しくて、笑顔あふれる旅だった。


「僕は、この旅で、心の赴くままに、生きる喜びを知ったんです」


誰にも、何にも、縛られず、やりたいことをやりたいようにやる。ただ、それだけのことが、元の世界では難しかった。でも、今なら、きっと……。


「そうであったか……」


魔王ががっくりと肩を落とす。期待に添えなくて、申し訳ない。


「僕は、これからも、そんな生き方をしていきたい。彼らにも、あなたにも、自分にも、正直でありたいんです」


ここは、楽園だ。これからも、きっと、魔王と2人きりの穏やかな時間が流れていく。でも、ここに残ることを選択してしまったら、穏やか以外の感情を心赴くままに感じることはできない。だから、行かなくちゃいけないんだ。


「そうか……ならば、私とは、ここで、お別れだな」


魔王が深いため息をつき、再び、オールを漕ぎ出そうとする。その手をぎゅっと握り締める。


「あなたも、ここを出るんですよ。魔王」


「私には無理だ……お前のように、強くない……」


僕の手を振りほどこうとする魔王にしがみつく。魔王だけ、こんな場所に残ってほしくない。だって……魔王なら……。


「大丈夫です。あなたなら、絶対にできます」


ともに戦ってきた僕には、わかる。

あなたは、強いだけじゃなくて、痛みや弱さを知っている……と……。


「ふっ……はははははは」


すごくいいことを言ったはずなのに、なぜか魔王は腹を抱えて笑い始めた。


「僕、何かおかしいこと言いましたか?」


むっとして、口を尖らせる。魔王は、自信満々に、長い黒髪を、さらっとなびかせた。


「いいや。色々と吹っ切れただけだ」


「はあ……」


魔王としては、失恋して、立ち直ったみたいな感じなのかな。まあ、何はともあれ、いつもの魔王に戻って、よかった。


「また会おう。ラブリーピース……いや……」


魔王が、とびっきりのスマイルを見せる。


「霧生……颯真……」


その瞬間――。


僕と魔王を、それぞれ温かい光が包んでいく。

今度こそ、お別れだ。

でも、なぜか悲しくない。これで、よかったんだとさえ思う。


ああ……そうか……。

魔王を笑顔にすることが、できたからだ……。


「また会いましょう。魔王」


今度は、友達になれたらいいな……。


そんなことを考えながら、僕は、光の中で、静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ