音のない世界
天井を突き破った先は、岩でごつごつした、何もない空間だった。空は、どんよりした厚いくもに覆われている。物音は何もしない。時折、風らしき生ぬるいものが通りすぎるだけだ。
不気味な空間だな……。
思わず、辺りを見渡し、足を止めた。
「おお!最終決戦って感じの舞台だねっ!」
「うん……」
ユイナは、槍を持って、スタスタ歩いていく。
この人、どこにいても、テンション変わらないなあ。
「私の真の姿、真の想いを打ち破るとは……さすがは、ラブリーピースだな」
低くて、落ち着いた声が響き渡る。
そこには、黒いタキシードでかっこよく決めた魔王が立っていた。
「魔王……!」
キラキラ輝く堂々としたオーラをまとっている。僕が、いつも見てきた魔王だ。一歩、また一歩と僕に近づいてくる。
「ちょっと! 離れなさ……!」
魔王が、手から黒い波動を出して、ユイナに当てる。ユイナはふらふらとその場に倒れ込んだ。
「ユイナ……!」
ユイナに駆け寄ろうとする僕を、魔王が止める。
「少し眠ってもらっただけだ。2人きりで話がしたかったのでな」
「……そうですか」
それなら、いい。だって、僕も、魔王と、まっすぐに向き合って、きちんと話をしたいと思っていたから。
僕は、覚悟を決めて、拳を握り締めた。
「なぜ、真の姿を見せてくれたのですか?」
さっきまで、見てきたのは、弱々しく、悩みに悩んで、今にも消えてしまいそうな魔王ばかりだった。僕に……ラブリーピースに、求愛するなら、そんな姿、わざわざ見せる必要なんか、ないはずなのに。
「お前なら、きっとわかってくれると思ったのだ。ラブリーピース」
「え?」
「私は、人間も、モンスターも、そのカリスマ性で圧倒してきた。しかし、その裏では、いつも怯えていたのだ」
「はい……それは、よくわかりました……」
「……だが、ラブリーピースと出会い、私は、旅をしながら、弱い自分を克服しようと考えた。しかし、お前はいつも私を超えてくる……」
魔王が僕の手を取り、熱い視線を注いでくる。今までなら、全力で逃げていた。でも、今日は、逃げちゃダメだと思った。だから、僕は、魔王を、1人の人間として、じっと見つめた。
「魔王……」
「その強さと優しさに、私は惚れたのだ」
見つめれば、見つめるほどに吸い込まれそうになる。黒くて大きな瞳……でも、どこか寂しげだ。このブラックホールの奥には、何が隠されているのだろう。胸騒ぎがしたけど、何も言い返せない。
これって、魔王の想いを受け止めてることになるのかな……。
「それでは、案内しよう。楽園へ……!」
魔王がパチンと指を鳴らす。その瞬間に、辺りが歪み始めた。
「あっ……!」
暗闇だったこの場所に、少しずつ緑が生い茂り、光が差していく。
僕らは、どこに向かうんだろう……。
音のない世界で、心臓だけがドクンドクンと脈打っていた。




