シープドッグ、貸して!
僕を除く誰もが、テンションMAX。
冷たい空気は、一瞬にして熱気に変わった。
そんな僕らを、アナスタシアが鼻で笑う。
「ふん。甘いね。甘すぎる」
ぴ、ピキ……!
これはスライムの声じゃない。一同が固まった音だ。
まだ話の続きがあったの!?
「これは真剣勝負だよ。魔王と魔法少女、どっちのチームがスライム5匹と上手に踊れるか――っていうね」
スライムは全部で10匹。
よく見ると、青いスライムと赤いスライムが、それぞれ5匹ずついる。
「さっすが元プロスケーター! ガチ度合いが違うね~」
「そうだったの……!?」
現役時代も、あの玉ねぎヘッドで踊ってたのかな。ちょっと気になる。
「審査するのは私と、一流スケーター計5名だ。きっちり審査してやろう」
「えっ!?」
そこまでガチなの!?
こっちはアイスダンス初心者+スライムだよ!?
「ふむ……では、エキシビションは、ラブリーピースと一緒に踊れるということか……」
魔王、ノーテンキ!
まだ競技も始まってないのに、エキシビションの算段しないで!
「アンタが勝って、魔法の靴を手に入れりゃ、踊れるよ」
「そうか……では、完璧に仕上げてみせよう」
黒いロングコートの下に隠した余裕と自信。
……地味な服のくせに、オーラだけはスポットライト級だ。
これは――やばいかもしれない。
「さあ! 練習しなああ! 私の前で失敗したら、ぶっ飛ばすからねえええ!」
アナスタシアが叫び、氷の上をギラッと反射させながら去っていく。
服はキラキラ、本人はギラギラ。
残されたのは、恐怖とプレッシャーと……若干の静電気。
これは、負けたら、いろんな意味であとがない!
よし……と僕がスライムたちの方を見た時。
魔王が赤いスライムたちを手招きした。
「……来い」
「……はい!」
赤いスライムたちは、青いスライムよりずっとキビキビ動く。
え、これ、もう詰んでるのでは……?
なんて僕の気も知らず、青いスライムたちが近づいてきた。
「わあああい! よろしくね~!」
ポヨォォォン。
かわいいけど……やる気はどこ。
「ラブリーピースよ。暖かい家は、いつでも用意できているからな」
「えっ……それって……」
「二人の愛の巣だ。楽しみにしていてくれ」
魔王がカッコよくウインク。
結婚式すっ飛ばして、新居完成してるぅ!
暖かい家は魅力的だけど、そうじゃないっ!!
「では、参ろうか。スライムたちよ」
「……はい!」
赤いスライムたちがきっちり整列してついていく。
――軍隊か。
「はあ……」
絶望している僕に、青いスライムたちが寄ってくる。
「わあああい! わあああい!」
そして、ポヨォォォン。
……うん、跳ねる以外の技は知らないようだ。
「……どうするの?」
ユイナもきょとん。
「僕にもわかんないよ……」
だって、フィギュアスケートを人に教えたことないし。
でも、このままじゃ魔王と同棲コース……!
「わあああい! あれ楽しそう!」
青いスライムたちが、湖の方へポヨポヨ向かっていく。
「ちょっと! どこ行くの~!」
ああ! もう!
競技うんぬん以前に、統率ゼロ!
誰か、シープドッグ、貸してえええ!!




