叫べばいいってもんじゃない
再び、雪の中をゆっくりと進む。
雪はやんできたけど、寒いものは寒い。
「ラブリーピース~……」
「常夏にはできないからね」
ユイナが不満げに口を尖らせる。
ラブリーピースも、ア〇クサじゃないからね!
「わあああ~い!」
この声は……!
ユイナと一緒に木に隠れて、声の方を見る。
すごい数のスライムが思い思いに滑ってる……!
スケート靴だけでなく、ソリ、スキー板、ボブスレー……。
みんな、楽しそうだ。
その中に、きらきら光るスケート靴があった。
でも、ここからだと足元しか見えない。もう少し様子を見て……。
「あれだ……!」
ユイナが花金のOLのような軽やかさで走り出す。
ちょっと! まだ定時じゃないよ!
「待って! ユイナ!」
その靴を履いているのは――がっしりした筋肉質な男。
……ということは!
「女。お前も、スケートに興味があるのか」
澄みきった空気に響くイケボ……!
「あ~! も~! また魔王か~っ!」
出たあああ!
……っていうか、今日はどんな服着てるんだろ。
ちらっと木陰から顔を出すと、魔王はスポ少パパ風の黒コートを羽織っていた。
珍しく地味だな……。
そんなことを考えていた時――。
「うわあ!」
目の前で、ポヨォォンと何かが跳ねた。
「君のこと、知ってるよ! 魔法少女ラブリーピースでしょ?」
スライムがテンション高く喋る。
「そ、そうだけど……」
スライムたちは次々と現れ、さらに畳みかけてくる。
「一緒にやろうよ! アイスダンス!」
「えっ……!?」
よりによってアイスダンス……!?
まずは普通に滑ろうよ……!
「これ、履いて!」
どこからともなくスケート靴を取り出すスライムたち。
いや、知ってるよ。僕、フィギュアスケートジュニアの東京大会上位常連だから。
「おお。ラブリーピース。そこにいるのか」
魔王がこちらに気づいた。
仕方ない。面倒なことになる前に、出るか。
「魔王様、何をしているのですか?」
「うむ。私は今日、スライムたちのアイスダンス講師をしているのだ」
そう言って、片足でくるくると華麗に舞う魔王。
「魔王様~! 素敵~!」
「やってみた~い!」
スライムたちがピョンピョン喜ぶ。
「魔王って、そんなこともするんだね……」
ユイナが氷点下の視線を送る。
「心配するな。この私が手取り足取り教えてやろう」
「……いや、まず靴履かせてもらっていいですか」
そうして氷上へ。
すっと立ち上がると、魔王が目を見張る。
「おお、筋がいいな、ラブリーピース!」
岸辺では、ユイナが遭難者のように虚ろな目で座っていた。
「それでは、失礼して……!」
軽やかに氷を蹴り、舞う。
ツインテールが揺れて少し邪魔だけど、気持ちは乗っている。
「ラブリーピース☆トリプルアクセル!」
氷上で華麗に回転し、スライムたちが歓声を上げた。
調子に乗って――
「ラブリーピース☆ダブルトゥーループ!」
「ラブリーピース☆イナバウアー!」
決めポーズ! 氷上Ver.完成!
なお、魔法は、いっさい使っておりません!
「おお~!」
「かっこい~!」
「ラブリーピース! すごいよ~!」
「……ありがとう」
魔王もスライムも、ユイナまでも拍手している。
これで、めでたし――いや違う!
僕、魔法のスケート靴を取り返しに来たんだった!
「静かにしなあああ!」
ドスのきいたラスボス声が響く。アナスタシアだ……!
今度は蛍光イエローのドレス。
眩しすぎて網膜が焼けるっ!
「三日後、この街の中央広場で――アイスダンス大会を開く!覚悟しなああ!」
近距離で言われると、迫力満点。
いや、それ、どういうこと!?!?
「やった! やった!」
「いいね!楽しそう!」
「アイスダンス……ということは、私は、ペアでラブリーピースとともに踊るのだな……」
スライムも、ユイナも、魔王も理解してない!
僕もよくわかんない!!
おばあちゃん――!!
叫べばいいってもんじゃないんだからね――!!




