ア○クサじゃないっ!!
サラサの領地を離れると、あたりは一面の銀世界。
雪と氷に覆われた極寒の地を、僕とユイナは、力なく歩いていた。
「さ、寒いね~……」
モコモコのコートを着ていても、ユイナの歯はガチガチ鳴っている。
霊長類最強女子にも、寒さは天敵らしい。目がうるうるしてる。
一方の僕はというと、膝まで埋まる雪に体力をごっそり奪われていた。
「寒いのはいいけど……歩きにくい……!」
一歩ごとに沈む。滑る。しかも雪は容赦なく降ってくる。
気がつけば、先頭を歩くユイナとの距離がどんどん開いていた。
「フーマ! 常夏にして~っ!」
少し離れた場所からユイナが叫ぶ。
「ムリ~っ! 僕は、ア○クサじゃないからああっ!!」
息が白く散った瞬間、ユイナが立ち止まり、きょろきょろとあたりを見渡した。
「このへんのはずなんだけどなあ……雪の精霊の家……」
「え、家なんてどこに――」
と言いかけた時だった。
地面の向こうから、ズザザザーーッ!!という音が迫ってくる。
「わあああい!!」
かわいい声! でも、音速!?
青いスライムたちが、ソリに乗って爆速で坂を下ってくる!
「きゃ~!かわいい~! ソリで遊んでる~!」
「いや、あれボブスレーだから!」
時速100キロは出てる! スピード違反、ダメ絶対!
そして、彼らの後を猛スピードで追う影がひとつ。
「待ちなあああああ!!」
声の主は――全身キラッキラの大粒宝石をまとった、玉ねぎヘッドのおばあちゃん!
メイクは、アイシャドウ蛍光ブルー、口紅ネオンピンクで、まぶしい!
夜でも安全! 反射板いらず!!
「ひぃぃぃ……モンスター出たぁぁぁ……!」
「ちがうよ! 雪の精霊・アナスタシアだ~!」
「えっ!? 今のがおばあちゃ……じゃなくて、精霊!?」
「ユイナ! そこにいるなら、あのスライムどもを捕まえなあああ!!」
アナスタシアおばあちゃんが、全力で叫ぶ。
その勢い、もはや吹雪!
「わ、わかったよ! てか止めないと、事故るって!!」
僕は慌てて鞄からコンパクトを取り出した。
お約束の変身タイム、いざ開幕!
洋服、メイク、ヘア、アクセサリー――
蛍光おばあちゃんに負けないよう、気持ちだけでも全力でキラ盛り!
「あなたに、愛を。この国に、平和を」
頬の横で、ピースサイン!
「魔法少女・ラブリーピース!!」
きらきらきら~ん☆
……って、決めポーズしてる場合じゃない!!
「わああああい!」
爆速スライム号が目前! 止めなきゃ!
「ラブリーピース☆壁画アート!!」
僕とスライム号の間に、大きな粘土の壁が立ちはだかる。
勢い余ったスライムたちは――
「ピ!」
見事に壁にハマって、ポテッと落ちていく。
いいね、スライム型のアート完成。
……って、何やってんの僕!?
「どきなああああ!! このアナスタシア様が壁なんかで止まるとでも、思ったかああああ!」
その後ろから、輝きの暴走列車・アナスタシアおばあちゃんが突撃!
ドガアアアン!!
きれいに、壁にハマったーーー!!
……いや、きれいにじゃない! どうすんのこの壁っ!!
「ちょっとぉぉ! 髪が! 髪が抜けるじゃないかあああ!!」
壁の向こうから、絶叫が響いた。
はあ……この壁、片付けるの、憂鬱だなあ。




