僕は、美味しくないよ!
ユイナにお辞儀して、心の中で、3秒数える。
これでよし……っと。
よくわからないけど、これで、悪いようにはされないだろう。安心して、顔を上げた。
その時――。
複数の低い唸り声が聞こえてきた。
「えっ……!?」
気がつくと、僕の周りを、狼の群れがぐるっと取り囲んでいる。
狼たちが、舌なめずりをしながら、じりじりと距離を詰めてくる。
ぼ、ぼ、僕は……美味しくないよぉぉ!!
「半年前、永い眠りについていた魔王が目覚めたの。それ以来、各地で異変が起きてるんだよね~」
ユイナが軽いノリで言いながら、槍をブンッと横薙ぎ。
――バシュン!
狼が3匹まとめて吹っ飛んだ。
笑顔が怖いってば!!
「それは……大変……ですね……」
僕も今、めちゃくちゃ大変なんだけど!?
「だから、力を貸してほしいの! 伝説の魔法少女様!」
ユイナの視線が僕に突き刺さる。
周囲を見渡す。……誰もいない。
もしかして、僕のこと?
「あの……僕、男ですけど」
「……?」
ユイナが首を傾げた。
“解せぬ”って顔をしないでっ!
「本の通りに召喚の儀、やったんだけどなあ……」
いやその本、ホントに大丈夫?
まさか“限定版特典シール”を貼り忘れたとかで召喚ミスってないよね!?
「いや、僕に言われましても……」
ユイナは黙り込む。
でも、槍を振るう手は止まらない。
狼が、1匹……また1匹……まるで雑草のように刈られていく。
強っ……! この人、戦闘力バグってない?
「ま、男でも女でもいいや! とりあえず、魔法少女に変身して!」
ユイナが胸を張って、どや顔をキメた。
ちょっ……扱い方、雑っ……!
「ど、どうやって……?」
「私が時間を稼ぐ!」
ユイナは次々と現れる狼を吹っ飛ばし始める。
……っていうか、狼、どこから湧いてんの!? 無限湧き!?
「いや……その……」
「だから、あの岩に隠れて、変身して!」
ユイナが大きな岩を指差す。
なるほど、ちゃんと身バレ防止仕様なのね……って、そういう問題じゃない!
「え……あ……はい……」
なすすべなく、僕は岩陰に移動する。
状況はまったく改善していない。
ただ、岩越しにユイナが狼を蹴散らす姿を見るだけ。
はぁ……僕の人生、これでいいのかなあ……。




