愛のおいかけっこ
ヤバそうなモンスターがいる……ということは、彼もいるはずだ。僕は、慌てて、周りを見渡した。
「我が遺跡へようこそ。ラブリーピース」
気配を感じて、振り向く。
やっぱり、いた……!
「ま、魔王……!」
魔王は、中折れ帽子をかぶり、白いシャツをワイルドに開け、ジーパンを履いている。
このスタイルは……80年代の某考古学者……!
――セクシー!
今から映画の撮影をするような格好だ。まあ、もう、映画は完結してるんだけどね。
「ボス! 筆はいただきましたぜ!」
「ご苦労だったな。ゴーレム」
ゴーレムが魔王に筆を渡す。
ちょっと、待って!
「筆は、サラサのものなんです。返してもらえませんか?」
ラブリーピース☆きらきらおねだり……!
だって、事実ですから。
でも、魔王は、さらさらの黒髪をなびかせただけだった。
「この筆がほしければ、私と愛のおいかけっこをしてもらおう」
「……はい?」
「負けたら、私の嫁になってもらうぞ」
僕は、事実を述べただけなのに……!
全然、伝わってない! このままだと、また嫁にされちゃう……!
ぞっと血の気が引いていくのを自分でも感じた。
「ひゃっはああ!久しぶりに、面白いもの、見られるぜえええ!」
チンピラ、大喜び。
「ああ。盛大な結婚式が見られるぞ」
「フゥ~! チョ~楽しみィ~!」
盛大な結婚式って、何のこと!?
勝手に話を進めないで!
「おいかけっこね! 負けないんだから!」
ユイナが、ドーンと言い放つ。
こうなったら、仕方ない……でも、誰がどこを走るの?
「コースは、これだ」
魔王が遺跡の奥の方を指差す。
確かに、ところどころ、道が途切れた迷路みたいな足場はあるけど……。
奥が深すぎて、ゴールが、見えないよっ……!
「走るのは、サラサね」
ユイナがさも当然という顔をして、サラサを見る。こんな華奢な女性のどこに乗れと……!?
でも、当のサラサは全く動じない。
「……トカゲ使いの荒いお方だ」
そう言って、大きなトカゲの姿になってしまった。サラマンダーってやつだ。
「さあ! 乗って! ラブリーピース!」
「う、うん……」
車に乗るみたいなテンションで言わないでほしい。まあ、ユイナは慣れてるんだろうけど。
僕は、いったい、この異世界で何体の生き物に乗ればいいんだ?
「……では、始めよう……よ~い……ドンっ!」
魔王の低く響く声が、遺跡の壁を震わせた。
……と同時に、ゴーレムに乗って、走り出してしまった。ゴーレムの体は、金粉のように輝いている。
何あれ! ずるいっ!
「魔法の筆の効果だ。仕方あるまい」
バフがかかってるの!?
なおさら、ずるい!
「さあ! 我々も出撃するよ~!」
ユイナの掛け声に合わせて、サラサも走り出す。見た目はどっしりしてるけど、スピードはけっこう速い!
でも、このトカゲ、しがみつくところがない!
その間にも、ドスドスドスドスと進んでいく。
だから、張りつく……けど、怖い……!
「どうするの? あの隙間」
ユイナが尋ねて、顔を上げる。
気づけば、道と道の切れ目まで進んでいた。
……本当に、どうするつもりなの!?
「飛んでやる!」
サラサがスピードを上げて……。
――飛んだああああ!
「うわああああ!」
僕は、高所恐怖症なんだよおお!




