アレといえば、アレ
いがみ合うドラゴンさんと魔王。
やれやれ……どうするかな。
その時――。
「お~い! ラブリーピース! 迎えに来たぞ~!」
洞窟の奥から、地鳴りのような声が響く。
クラーケン姿のジャンと、その背に乗るユイナが――土煙を上げて突撃してきた!
「ジャン……! ユイナ……!」
ホームランの衝撃で崩れかけている洞窟を、すさまじい勢いで進んでくる。
やばい! ブレーキなんか、踏んでくれなさそう!
「はあ……今度は……女とイカか……」
「ユイナだよ~っ!」
「俺様はジャンだ~っ!」
ドラゴンさんと魔王のにらみ合いに、ようやくブレーキがかかった。
でも――違う戦いが始まってる……!
「そうじゃ。褒美に、アレをやろう」
ドラゴンさんは鍾乳洞の周りをごそごそし始めた。
何かを探してる……のかな。
「アレ……?」
「アレといえば、アレじゃよ!」
「アレ……あのアレ?」
「そう、それじゃ!」
……いや、わかんないから!
「確か、500年前にこの辺にしまったんじゃがのう……」
結晶の周りは、確かにでこぼこしている。
でも、隙間に物を隠すスペースなんてあったかな。
ドラゴンさんの感覚って、やっぱりよくわかんない。
「あったぞ~い!」
ドラゴンさんが僕に、泥まみれの何かを差し出す。
土と埃を払ってみると――これは……笛?
「ぎゃああああ!」
ドンッ、と陸地が揺れた。
ユイナとジャンが、岸にぶつかったらしい。
「いててて……」
ジャンが頭を抱える。スピード落とさないからだよ……。
「ありがと~! ジャン!」
そして、痛がるジャンを見て、楽しそうに笑う女王様。
この女王様、容赦ないな……。
「ユイナ……」
ユイナが僕の背後にいるドラゴンさんと魔王に槍を突きつける。
「ちょっと! ラブリーピースに何させるつもり!?」
「ああ……ユイナ、これはね――」
説明しようとしたところに、ジャンが乱入してきた。
「まさか、その埃っぽい土偶で、俺たちを呪い殺すつもりか……!?」
……土偶!?
僕が持ってるのは明らかに笛だけど!
この精霊の目、大丈夫なのかなあ。
「かわいいラブにそんなことさせるわけなかろう!」
「そうだ。そんなものを持たせるなら、この私が許さない」
ドラゴンさんと魔王が、再び臨戦体勢に入る。
この人たち、僕のことになると一致団結するみたい……じゃなくて!
みんな、僕の――!
「演奏を聞いてえええ!」
洞窟に声が反響する。
その瞬間、誰もが動きを止めた。
空気が静まり返る。
僕はそっと笛を唇に当て、音を吹く。
楽譜なんてない。
でも、何を奏でるべきか――それだけは、わかっていた。
吹けば吹くほど、埃まみれの笛がきらきらと輝いていく。
「俺の笛が……輝いている……!」
ジャンが口をぽかんと開ける。
やっぱり、これがジャンの笛なんだ……。
土偶って言ってたけど。
心の中で、ちょっとだけ突っ込む。
「ほおお……これは……」
ドラゴンさんの感慨深そうな声が聞こえる。
そう……つまり、これは――。
――エターナル・フルーティスト!
「なんと、美しい……!」
気づけば、水着がワンショルダーの大人っぽい赤いドレスに変わっていた。
髪型もふわっとまとめたお団子ヘア。
歩くたびに、銀色のハイヒールがカツカツと音を立てる。
これも、なかなか大胆な衣装だなあ。
「心洗われるなあ……」
「女よ。今日は気が合うな」
「そ、そ、そ~だね~!」
ユイナと魔王まで普通に会話している。
この場にいる誰もが、体を揺らし、リズムを取りながら楽しそうにしていた。
それが、僕には何より嬉しかった。
だから、吹く。
みんなを笑顔にしたいから。
笛に導かれるまま、最後の音を奏でた。
その時――。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……」
ご満悦なドラゴンさんの声が響いた。
光に包まれて、消えかけている……!
「ドラゴンさん……あの……」
「最期にいい演奏が聞けてよかった……」
「そう言っていただけて、光栄です」
「自分に自信を持て」
光の中で、ドラゴンさんが微笑む。
「さすれば――世界は変わる」
「え……?」
「魔法少女に……幸あらんことを……」
そう言い残して、すうっと消えていった。
僕なんかが、自分に自信を持っていいのかな。
でも――少しだけ、胸の奥があたたかい。
ありがとう、ドラゴンさん。
心の中でそっとつぶやいた。
「ちょっと! すごい! すごすぎるよ!」
「く、苦しいっ……!」
ユイナが僕に襟巻きのように巻きつく。
いや、ヘビかもしれない! 息ができないほどの勢い!
「その笛、やるわ!」
「ありがと~!」
僕の代わりにユイナが答える。
相変わらず、ノリが軽い……!
魔王がジャンとユイナを見て、深海のように深いため息をついた。
「もう少し、お前のそばにいたかったが、仕方ない」
「え……」
魔王が、反対側の岸へ向かって歩き出す。
さっきの衝撃で、ぽっかりと穴が開いていた。
でも、その先は――海。
「また会おう、ラブリーピース」
そう言って投げキッスをすると、
魔王はクロールで泳ぎ去っていった。
……っていうか、オリンピックで金メダル取れそうなくらい速いんだけど。
どうやって鍛えてんの……?
「じゃ、俺たちも帰るか~!」
「え? どうやって……?」
「決まってんだろ! 海に深~く、潜るんだよ!」
「私、潜水得意~!」
ユイナがキャッキャと笑う。
はあ……次は、下か……。
もう……魔法少女づかいが荒いんだから。




