サメより危険なイイ男
ドラゴンさんは、ゴツゴツとした洞窟へ突入した。ちなみに――速度はMAXのままだ。
「もうすぐ着くぞ~い!」
テンションの上昇とともに、スピードも上昇。
いや、着くなら速度を落として! 陸地にぶつかる~っ!
「うわあああ!」
もうダメだ……と思った瞬間、ドラゴンさんがピタッと止まった。
「よ~し! 着いたぞ~」
ドラゴンさんは僕を乗せたまま、悠々と陸地へ上がる。
急ブレーキ、ダメ絶対。
今度乗るときは、モミジマークつけないとな……。
「よき場所じゃろう」
洞窟を進むうち、天井いっぱいに光が反射していることに気づく。
大小さまざまな結晶が、わずかに差し込む日光を受けてきらきらと輝いていた。
まるで鍾乳洞のようだ。結晶の奥には、時間の積み重ねを感じさせる美しさがあった。
「きれい……」
思わず、笑みがこぼれる。
「ふぉっふぉっふぉ~。ようやく客人が笑顔になってくれたのう」
ドラゴンさんも、どこか嬉しそうに鼻を鳴らした。
「え?」
「つい、ドラゴンらしく“生け贄をよこせ”と言うてしもうたが、わしゃあ本当は、客人をもてなしたいだけなんじゃよ」
「ドラゴンさん……」
「今までも何人か連れてきたが、みんな逃げてしもうてのう……お前さんが初めてじゃ」
「そうでしたか……」
鋭い目が、みるみるうちに優しくなる。
見た目はごついけど、意外とお茶目なところもあるんだな。
「ゆっくりしてゆけ。ここの湧き水は、最高にうまいぞ~」
「ありがとうございます」
結晶の間に、透きとおった泉があった。
ぽこぽこと泡を立てながら、水が湧き出している。
手で掬おうとした時、水面に映るドラゴンさんの顔がゆがんだ。
「いてて……」
「どうされましたか……?」
「はあ……さっきは見栄を張ってしもうたが、わしゃあもう長くないでの~」
「え?」
1,100歳って、若いんじゃないの?
でも、腰をトントンと叩く姿は、やっぱりおじいちゃん……。
ドラゴンの寿命って、よくわかんないな。
「おお、そうじゃ……え~っと……ちょっと待ってくれの」
「はい……?」
ドラゴンさんが、腰をさすりながら――そのまま海にダイブ!
バッシャアアアン!
僕にも、豪快に水しぶきが降りかかる。
はあ……水着でよかった……。
ほっと胸を撫で下ろしていると、魚をくわえたドラゴンさんが再び現れた。
「天然の魚じゃ~! た~んと食え~!」
モゴモゴと喋る姿は、まるで入れ歯を外したおじいちゃん。
魚は陸地に置かれ、ピチピチと跳ねている。
ありがたいですけど……生はムリです……!
そう言おうとした瞬間――。
バッシャアアアン!
再び大きな波が立ち、水面から“何か”が姿を現した。
でかっ……!
「おおお! 来たぞ~! 大物じゃ~!」
ドラゴンさんは少年のようにキャッキャと喜んでいる。
いや、でも、その眼光と牙……これは――!
「……人食いサメっ!」
ドラゴンさん、キャッキャしてる場合じゃないよ!
僕はまだ死にたくない……いや、一回は死んでるけど!
その時――洞窟内に、よく通る声が響いた。
「ラブリーピース~!」
イケボ……! まさか……!
顔を上げると、そこには――
人食いサメの背に立つ、水着姿の魔王がいた。
わお……! 鍛え上げられた、ムッキムキのいい体。
男でもハアハアしちゃう。
「ま、魔王……! どうしてここに……!」
魔王は軽やかにサメから降り、濡れた髪をかき上げながら僕に近づいてくる。
「街で話を聞いて、いてもたってもいられなくなったのだ……!」
ヤバい、ヤバい!
その距離感、人食いサメより危険だから!




