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ドラゴンさんは横文字NG

ジャンの家を一歩出た瞬間、空気がびりっと震えた。

銀色の巨体が、玄関前の海をふさぐようにどっしりと構えている。陽の光を反射して鱗がぎらりと光り、吐息ひとつで家ごと吹き飛ばしそうな迫力だ。


でかい……! ジャンの家なんて、ひと息でぺしゃんこだ。


「よう、ドラゴンさん」


ジャンが僕と並んで、堂々と銀竜の前に立った。

ちゃんと精霊っぽいことしてる……! 丸腰なのに……!


「ジャンよ。約束の生け贄は、用意できたのか?」


しわがれた、おじいちゃんみたいな声が響く。低く重たいのに、どこか懐かしい響きだ。

声とのギャップがすごい。見た目は伝説級のドラゴンなのに、声は近所の公園でグラウンドゴルフしてるおじいちゃんそのものじゃないか。


「そりゃあもう! とびっきり器量のいい娘を用意しといたぜ」


ジャンがにやっと笑い、僕の背中を押した。

うう……逃げられない。


「こ、こんにちは……」


「ほう……これは……」


ドラゴンがじいっと僕を見つめてくる。

黄金色の瞳に射抜かれるようで、思わずパラオを握り締めて、俯いた。

恥ずかしいから、そんなに見ないでほしい……。頬がほんのり熱くなる。

この格好、ほんと無理……!


「お主、名はなんと言う?」


ゆっくりとした口調。声だけ聞いたら完全に温厚なご老人なのに、見た目との落差が激しすぎる。


「え、えっと……ラブリーピース……です……」


上目遣いでおそるおそる答える。


「ラブ……なんじゃて?」


一拍の間。たぶんあるがぐぐっと寄る。

え、そこでつまずくの!?


「ら、ラブリーピースです……」


もう一度言ってみる。すると、ドラゴンは腕(?)を組んで、うーんと考え込み始めた。

ちょっと、なんか深刻に悩んでる!? どうしよう、変な間できちゃった! 誰か助けて~!


「わしゃあ、横文字に疎くてのう……」


ふぉっ、ふぉっとのんびり笑うドラゴン。

悩んでたの、そこ!? 名前が横文字ってだけ!?


「ドラゴンさん、彼女の名前はラブリーピースだぞ」


ジャンが助け舟を出す。それを聞いたドラゴンは、目を細めてうなずいた。


「……じゃあ、ラブでええかの?」


いやいや、絶対ちゃんと聞き取れてない。でも、もう、いいや。


「あ……はい……」


むしろ、敢闘賞あげたいくらいだよ。


「ふむ……では、参ろうかの」


ドラゴンがぐいっと首を下げる。

え、これ……乗れってこと!? まさか、このバカンスみたいな格好でドラゴンに乗るの!?


「は、はい……」


おそるおそる銀色の背中にまたがる。鱗は見た目より温かく、でも滑りそうで怖い。


「そぉれ!」


僕がしがみついたのを確認すると、ドラゴンは一気に海へと泳ぎ出した。


「うわあああああっ!」


景色が一瞬で流れ、ジャンの姿が豆粒みたいになっていく。

まるで人生初のジェットスキー……いや、ジェットドラゴンだ。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ~! 飛ばしていくぞ~いっ!」


「む、無理しないでくださいねっ!」


「な~に、心配するでない。わしゃあ、まだ千百歳じゃ~。若かろう」


それ、若いの!? ドラゴンの感覚わかんない!


「そ~れ! ドラゴントルネードじゃああ!」


「うわあああ!!」


背中がぐるぐる回る! 風が容赦なく顔に叩きつけられる!

ちょっと! 張り切りすぎじゃない!? 認知症の認定調査のときだけ急に元気になるおじいちゃんみたいになってるんだけど!!


僕の悲鳴は、空の彼方に吸い込まれていった――。


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