精霊ジャンの家
僕の中では、港町=海が見える街……のはずだった。
でも、ジャンに案内されたのは、カヌーサイズの小舟が一隻浮かぶ、寂れた桟橋だけだった。
「よ~し、これに乗って~」
「えっ!? これ……?」
透き通った海の下には、サメみたいな影がうようよと泳いでいる。
落ちたら、命はないな……。
「俺様の家は、海の上に浮かぶ集落のひとつなんだ。建物の間は、舟で移動してんだよ」
「わ、わかった……」
恐る恐る船に乗り込む。
案の定、小さいからすっごく揺れる!
さらに――
「イェーイ! レッツゴー!」
ユイナが勢いよくジャンプして乗り込み、船はジェットコースターのようにぐらんぐらん!
ぎゃああああっ!!
……でも、本人には何の悪気もないみたいだ。
怖すぎる、この女王様!!
「よ~し、出発~!」
ジャンがオールを漕ぎ出す。潮風が顔に当たり、キラキラと波が光る――本来なら気持ちいいはずなんだけど、僕は必死に縁をつかんで、揺れに耐えるのが精一杯だった。
「着いたぜ」
ふらふらになりながら船を降りると、そこには、ベニヤ板を打ちつけただけのような家がぽつんと建っていた。
中に入ると、昼寝用のハンモックがひとつあるだけ。
「……ここが、ジャンの家?」
喉元まで言葉が出かかったところで、ジャンがぽつりと語り出した。
「実は、明日、この街から生け贄を差し出すことになってんだ。……ドラゴンにな」
ジャンの声が、いつになく低い。
笑ってごまかしているけれど、その目はほんの少しだけ沈んでいた。
えええっ!? いきなり重っ!!
「精霊の俺様が、着飾ったかわいい女の子を引き渡さなきゃならねえ。でも……正直、気が進まねえんだよな……」
「精霊も大変だね~」
ユイナ、完全に他人事!
「魔法少女様だったら、ちょうどいいかな~って思ったんだけど……」
ジャンがじっと僕を見る。
……まあ、一般人を巻き込むわけにはいかないし。
「……そういうことなら、変身しても、いいけど……」
僕は嫌そうな顔をしたつもりだったけど、ジャンには伝わらなかったらしい。表情がパッと明るくなる。
「よっしゃ! 善は急げだ、準備しよう!」
「うん! そうだね!」
「……準備? 何の?」
ジャンもユイナも、めちゃくちゃやる気だ。
魔法少女に変身すればいいだけじゃないの!?
「水に強いメイク!」
「セクシーな勝負水着!」
「ちょっと待ってえええ!!」
僕、今から生け贄になるんだよね!?
グラビアアイドルの撮影じゃないよね!?
「殺られる前に殺るんだよ」
ジャンがにやりと笑う。
いや、“殺る”の意味が違うから!!
「市場に行くぞ! 水着代は俺が払う!」
「メイク道具は王宮持ちで!」
ジャンとユイナが、やけに息ぴったりで玄関へ向かう。
……僕、どうなっちゃうんだろう……。




