セクハラ禁止!
クッキングショーが終わって――。
僕が作った料理は、魔王とオーガが一滴残さず完食した。
「これで、満足……」
オーガの身体が、きらきらとした光の粒子になって、ふわっと消えていく。
その顔は、さっきまでの険しさが嘘みたいに柔らかくて、ちょっと笑っているように見えた。
……え、もしかして、僕、料理でモンスターを倒しちゃった?
呆気に取られていると、魔王がすうっと近づいてきた。
え、ちょ、距離近い!
「な、な、何でしょうか……」
魔王は長い黒髪をさらっとかきあげ、真っ直ぐに僕を見つめてきた。目がマジだ。
「この胸の高鳴りは本物だ。ますます、お前のことが好きになった」
「あ、あの……」
ここで告白とか、タイミングおかしくない!?
おろおろしていると、ユイナが僕と魔王の間に、ずいっと割って入った。
「ああ~、すみませ~ん。この子、ウブなんで、そういうのはちょっと~」
「ふん。私の愛を邪魔するとは、野暮な女だな」
「だから、ユイナだってば!名前、覚えて!」
魔王とユイナが、バチバチと火花を散らす。
きゃ~、私を取り合ってケンカしないで~……って、少女漫画ならなるんだろうけど。
僕、男子中学生だし。しかも魔法少女(?)だし。なんとも言えない気持ちで見守るしかない。
「……では、ラブリーピースに見合う男になるため、私も自分を磨くことにしよう」
魔王がウインクを決める。爽やかすぎてちょっとムカつく。
そのまま、すっと消えていった。
……はあ。こういうお約束、いつまで続くのかな。
その時――。
ドドドドッと、足音がこっちに突っ込んできた!
「ありがとう! 魔法少女様っ!!」
グエルだ!
満面の笑みで、勢いよく抱きつこうとしてくる。
ちょ、待って、それはダメ――――!
「ラブリーピース☆セクハラ禁止バリア――――!!」
全力で叫んだ瞬間、目の前にレンガ造りの壁がどーんと出現!
グエルが見事に激突した。
「ぎゃあああああ!」
……僕の心のように、そびえ立つ高~い壁だ。うん。
「よし。これで、世界の平和は守られた」
ユイナがキャッキャと笑う。めっちゃ楽しそう。
「そ、そうだね……」
ちょっと、やりすぎたかもしれない。ごめん、グエル……。
僕は心の中で謝りながら、フーマの姿に戻った。変身が解けると同時に、壁もふっと消える。
「お疲れ様、フーマ」
ユイナがにこっと微笑む。
その声を聞いたグエルが、ぱっと顔を上げた。
「男……!?」
その顔は、まるで好きなアイドルが結婚発表したファンのようだった。
そんな絶望しないで!むしろ、こっちが本当の僕だからね!?
「よくわかんないけど、男の子、召喚しちゃったんだよね~」
ユイナが肩をすくめる。グエルは腕を組んで、少し考えこむ素振りを見せた。
「ま、いっか!それより、居酒屋で打ち上げやろうぜ!」
え、もうちょっと感謝とかあってもよくない!?
僕、命懸けで戦ったんだけど!
……っていうか、今、居酒屋って言ったよね?
「いいね~!ビール、ピッチャーでいこう!」
テンション爆上がりのユイナ。
……え、君、ビール飲むの!?
「ユイナって、いくつなの?」
ふと、素朴な疑問が口をついて出た。
同い年くらいだと思ってたけど、年齢の話したことなかったな……。
「ヒ・ミ・ツ♡」
ユイナがきらきらした目でウインクする。僕は一瞬、言葉を失った。
……ですよね。
「ああ~……35歳独身ら……ぐほおっ!」
ユイナの拳が、グエルの頬にクリティカルヒットした!
痛そう……。女性の年齢バラすからだよ、おっさん……。
まさか、僕よりふた回りくらい上だったとは……。衝撃。
「フーマも行こう!美味しいノンアルコールビール、あるから!」
「う、うん……」
ユイナは、ぐったりしてるグエルを軽く乗り越えて、スタスタと歩いていく。
魔王の脅威は去ったけど……なんか、別の意味で心配だなあ。




