人ならざるものたち
ユイナと手をつないで歩いていた。
だけど――全然、前に進んでる感じがしない。
「ユイナ。さっきから、同じところ通ってない?」
目の前には、幹が太くて空を突くような大木。
ど~んと立ってるその姿を、もう何度も見た気がする。
「そうだっけ……?」
ユイナは首をかしげるけど、覚えてないみたいだ。
……おかしい。
森がいくら広くても、まったく同じ空間を何度も通るなんて、普通ありえない。
僕は足を止めて、あたりを見回した。
風はなく、葉っぱ一枚さえ揺れない。
夜虫の声も、いつの間にか消えている。
……静かすぎる。
「ユイナ……?」
隣を見た瞬間、ゾクリと背筋が冷えた。
ユイナは俯いたまま、ぴくりとも動かない。
え……なに、その雰囲気……。
息を呑む僕の目の前で、ユイナがゆっくりと顔を上げた。
瞳が真っ赤に光る。口の端が裂けるように歪み――
「エサ……キタ……」
うわ、怖っ……!
「ま、まさか……これが噂の……」
森に棲む、人ならざるもの――!
目の前のユイナは、ぐにゃりと姿を変えた。
茶色く湿った泥みたいな肌。ヒト型だけど、輪郭はぼやけている。
「クウ……クッテヤル……!」
「ええっ!? 今まで一緒にいたの、偽物だったの!?」
僕のときめき、返せ~~~!!
「ア……ア……」
声にならない声が、四方八方から響いてきた。
いつの間にか、木々の陰や茂みの中から、同じようなヒト型がぞろぞろと現れている。
全然気づかなかった……!
……こうなったら仕方ない。
「ラブリーピースサンシャインフラッシュアロー!」
僕は大声で叫んだ。
夜空が一瞬で輝き、無数の光の矢が降り注ぐ。
「グオオオオ!」
泥のヒト型たちが、光に焼かれたみたいに身をよじった。
よし、その調子だ!ラブリーピース!
……と思ったのも束の間。
背後にぬるりとした気配。
振り返ると、ヒト型が腕を広げ、抱きつこうとしてきていた!
「ちょっと……! バッグハグなら、オッケー……なわけないでしょ!」
僕が向きを変えた瞬間――
まばゆい光が、森全体を照らした。
ヒト型たちが右往左往し始める。
その中心に立っていたのは――
額に角、背中に羽。真っ白な毛並みの馬だった。
月光を浴びたたてがみが風に揺れて、ため息が出るほど、美しい。
ユニコーンだ……!
「力をお貸ししましょう、魔法少女様」
あのとき僕を呼んでいた、か細い女性の声。
そうか……君だったのか……!
「……ありがとう」
「あなたのおかげで、少し力を取り戻せました。あともうひと息です」
「はい!」
「私の角に触れてください」
僕は恐る恐る角に手を伸ばした。
じんわりと温かい光が掌に染みこんでいく。
胸の奥から、力が満ちていくのがわかる。
よし……いける!
「ラブリーピースユニコーンムーンライト!」
僕が叫ぶと、白くまばゆい光がスポットライトのように森を包み込んだ。
ヒト型たちが悲鳴を上げ、溶けるように消えていく。
「グワアアアア!」
今度は、一体残らず――浄化完了!
森の木々がざわざわと揺れた。
まるで勝利を祝ってるみたいに。
いつの間にか、茶色く、しなびていた葉は、鮮やかな緑色に戻っていた。
「……やれやれ」
胸をなでおろしながら、自分の手を見下ろす。
……偽物と手、つないじゃったな。
うう、洗いたい……。
「あなたの行きたい場所まで送ります。行き先はどこですか?」
はっ! そうだった!
手を洗うところを心配している場合じゃなかった!
「広場へお願いします!」
ユニコーンに向かって、できるだけかっこよく答えると、彼女は優雅にうなずき、腰を下ろした。
「かしこまりました。では、乗ってください」
「は、はい……!」
背中は思ったよりふかふかで、温かい。
「それでは、参ります!」
その瞬間、ユニコーンは地を蹴って、夜空へと舞い上がった。
「うわああああ!」
森が、みるみる豆粒みたいになっていく。
風が顔を切るように冷たくて……下を見るのが怖い!
……っていうか、ずっと気づかないふりしてたんだけど。
僕……高所恐怖症だったんだな……と。




