モテない中年男性
魔王は颯爽と去り、オーガがドスドスと足音を響かせて、森の奥へ消えていった。
その足音が遠のいた瞬間、森の中でごそごそと一本の木が動き出す。しかも、僕らの方へ勢いよく近づいてくる。
いや……呼んでないんだけど。
「いやあ~! 助かったよ!ユイナちゃ~ん!」
木はユイナの前でピタッと止まる。そして、くたびれた中年男性の姿になった。
近くで見ると、服はしわくちゃだ。母さんが見たら、速攻でアイロンをかけるだろう。
「も~。精霊なんだから、しっかりしてよね」
ユイナに激しく同感だ。
「仕方ないでしょ! 俺より、魔王の方がよっぽど人望あるから」
グエルの言い分にも、激しく同感。ふと気づくと、黄色い声援を送っていた透明な羽の女の子たちは、全員いなくなっていた。
あの娘たち、現金だな……。
「それより、シルベスタ料理なんて、面倒なもの、作れるの?」
グエルが僕を睨み付ける。
何なの! その失礼な目は! 腹立つんだけど!
「……っていうか、シルベスタ料理って、何なんですか?」
怒りを抑えて、冷静に尋ねると、グエルはオーバーなくらい後ずさった。
「やだ! もう! そっからなの!?」
なんで僕が怒られなくちゃいけないの!?
もう……これだから、モテない中年男性は……。
「グルメなグエルなら、わかるよね?」
「わかるけどさ……ユイナちゃんだって、食べたことあるでしょ?」
「食べたことはあるけど、作れないよ」
し――――――ん……。
こんな時に限って、風の音ひとつしない。
「じゃあ、とりあえず、うちに来てくれ。材料も確認したいし……」
「りょ~かい……ってわけで、レッツゴー!」
ユイナが先頭を切って歩き出す。
……だから! 置いていかないでってば!




