ラブリーピース☆きらきらおねだり
コンパクトを開く。
僕の体が光に包まれる。
そして、お約束通りに、メイクアップしていく――!
よし。変身完了。
「あなたに愛を。この国に平和を!」
顔の横でピースサインを決める。
「魔法少女ラブリーピース☆」
きらきら~ん☆ウインク!
……ま、誰も見てないんだけどね!
「魔王~っ! うちの国になんてことするんだあああ~っ!」
ユイナが魔王に突っ込む声が響く。
これは……カオス……!
「お前は……えっと……」
魔王が頭を抱えている。
ま、まさか……名前が出てこない?
「シルベスタ王国の女王・ユイナだよ! 人の名前は、ちゃんと覚えて!」
「私は、好みの女の名前しか覚えない主義だからな」
魔王がドヤ顔を決めた。
ちょっと待って!
それ、どういう主義なの!?
「肉~! 肉食いたい~!」
止まっていたオーガが、再び動き出す。
それ以上食べたら、森がなくなるよ~!
「ラブリーピース☆スペシャルバリア~!」
僕は咄嗟にオーガの前に出て、叫んだ。
間一髪のところで、森に透明な壁が出現する。
これで、森を守ることができたぞ!
やればできるじゃん!
「え~……必殺技名がダサすぎる……」
ユイナの深いため息が聞こえた。
「そんなに残念な顔しないでよ……」
……僕、ちゃんと仕事したよね?
確かに、必殺技名はダサいけど。
「おや。そちらのお嬢さんは?」
イケボに呼ばれて振り向く。
近くで見れば見るほど……イケメンだった。
ドクン――。
思わず、ときめく。
「え……あ……ぼ、僕……じゃない、私は、魔法少女ラブリーピース……です……!」
顔立ちがきれいすぎて、直視できない。
僕、そういう趣味じゃないんだけど……この人は、別格だ。
「おお……なんと、美しい……」
魔王が感嘆の声を漏らした。
「……はい?」
顔を上げて辺りを見渡す。
その時――。
魔王が僕の手を握りしめた!
「ラブリーピースよ。私の妻になってはくれないか?」
周りにいる女の子たちから、悲鳴が上がる。
悲鳴を上げたいのは、僕の方だよ!
「……ご、ごめんなさいっ!」
僕、男なんです……とは言えない。
ここで正体を明かさないのも、魔法少女のお約束だからね。
「ぐっ……この私の誘いを断るとは……しかし、そんなところもまた魅力的だ……!」
地味に、魔王がダメージをくらっている。
そんなに、どストライクの女の子だったのかな……?
「魔王! この子ね、めっちゃ料理上手なんだよ~!」
ユイナが魔王の隙をついた。
「えっ?」
そんな攻撃、アリなの!?
「話を合わせて」
ユイナが僕の耳元で囁く。
な、何するつもり……!?
「ほう。それは、ぜひとも食べてみたいものだな」
「しかも、魔王だけじゃなく、腹ペコオーガの胃袋もガッチリ掴むこと、間違いなし!」
ユイナ、魔王、オーガ……そして、この場にいる全員の視線が僕に集まる。
や、やばい……!
「えっ……あ……はい……」
ここで否定したら、ぶっ飛ばされる。
しかも、全員に!
「……では、シルベスタ料理のフルコースを作ってもらえるか?」
魔王が、色っぽい目で僕を見つめる。
いや……あの……シルベスタ料理って、何……!?
「……食べたい」
オーガが舌なめずりしてる。
シルベスタ料理って、すごいんだな……。
「よし! まるっと解決! すごい食材集めて、すごいご飯作っちゃいます! そしたら、森を食べるの、やめてくださいね!」
ユイナが笑顔で言った。
しかも、しれっと言いたいことを全部詰め込んでる。
この人、メンタルも強いっ……!
「ふむ……」
腕を組んで悩まないでよ、魔王。
よし……もう、こうなったら、やるしかない!
「お願いできますか? 私、頑張るので……」
上目遣いで魔王を見る。
そして、心の中でこっそり唱える。
――ラブリーピース☆きらきらおねだり!
不覚にも、新しい必殺技を作ってしまった。
「わかった。未来の夫として、約束しよう」
魔王が僕に投げキッスをする。
「きゃ~!」
黄色い声援が、森中に響き渡った。
はあ……誰か、この役、変わってくれないかな。
「じゃ、明日のお昼に、ここでクッキングショーを開催しま~す!」
ユイナが元気よく告知する。
えっ!? 聞いてないんだけど!
「そうか……それでは、また会おう」
魔王が爽やかな笑みを浮かべて去っていった。
これは、領地の命運を賭けた戦いのはず……だよね?
いいんだろうか……某テレビのナントカクッキングみたいなノリで……。
――こうして、僕の(不本意な)伝説の始まりである「異世界クッキングバトル」の幕が、静かに開けたのだった。




