『いつか』って、『いつ』なの?
僕の夢は、みんなを笑顔にすること。
そのために、頑張ってる……はずだ。
僕、霧生颯真は、都内の名門私立中学校から帰ってきた。
「ただいま……」
都内の一等地に建つ高級タワーマンションの一室。塵1つないフローリングに、シミ1つない真っ白な壁。
「颯真、早くしなさい!フルートのレッスンに遅れるわよ!」
きっちりとしたパーマをかけ、光沢のあるワンピースを着た50代専業主婦の女……それが、僕の母さんだ。
「うん……」
はあ……今日も、機嫌悪そうだなあ。
「送迎する私の身にもなってよね」
まあ、大変なのは、わかるけど。
「母さんだって、大変なんだぞ」
一流企業で社長を務める父さん。
リビングのソファにどっしり座って新聞を広げている。
オールバックとちょびヒゲで、見た目はヤンキーの親分。怖いなあ。
「わかってるよ……」
僕は、そう言うしかない。
だって、大人2人に対して、子ども1人では、反論できないから。
「わかっているなら、いいのよ。料理、フルート、習字、フィギュアスケート……全部、頑張ってちょうだいね」
習い事の中身は、母さんの趣味だ。
自分でやればいいのに。
「うん……僕、準備、してくるね」
適当に返事をして、自分の部屋に逃げ込む。
でも、扉は板1枚だ。
「……ったく。男の子は、何考えてるのかわかんないわ。風子が生きていれば、よかったのに」
母さんのぼやきが聞こえる。
はあ……胃が痛い。
「風子は優秀だったよなあ。何をやらせても、笑顔で1番を取ってきて……」
風子……それは、僕が生まれてすぐに死んだ姉だ。当時7歳で、交通事故に遭い、即死したらしい。
父さんを涙声にするなんて、すごい人だ。
「僕が、優秀な女の子だったらなあ……」
頑張っても、姉の代わりでしかない。
それでも、支度をして、全部をこなす。いつか笑ってほしいから。
でも、『いつか』って、『いつ』なんだろう。




