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Sea:06 魚の身は、なぜ赤い?|見た目じゃわからない筋肉のひみつ

昼すぎの展示ルームには、冷房の風がゆるく流れていた。


その一角。展示用の冷蔵ガラスケースをじーっとのぞきこむミオの姿がある。




「……これ、ぜんぶ魚の切り身?」




「うん、ラボで調べた標本らしいよ」




ハルキが隣からのぞきこむ。冷凍庫の中には、いくつかの透明パックが並んでいた。白い身、赤い身、オレンジ色のようなものもある。




「見た目、ずいぶん違うね」ミオが首をかしげた。




「たぶん、血の量じゃない?」ケンタが手を挙げる。「赤いのは血が多いやつ!白いのは冷たい海にいるやつ!」




「え、ちょっと待って。じゃあサーモンはどっち?」




「サーモン……えーと、ピンク!」




「それ色のまんまじゃん!」




3人の視線の先では、脂の乗ったサーモンの切り身が、じっと無言で凍っている。




「でもさ、見た目の色で決まるんじゃないの?」ミオが不思議そうに首をひねった。




そのときだった。ふわりと、紅茶の香りが漂ってきた。




「ふふ、それは“中身を知るとびっくりする話”のひとつかもね」




いつもの“ちょっと変わった教授”──汐ノ宮教授が、白衣のまま手にカップを持って現れた。メガネは曇っている。




「たとえばサーモン。見た目は赤いけれど、じつは“白身魚”なんだ」




「えっ!?」3人の声が重なる。




「うそだー!赤いのに!?」ケンタが叫ぶ。




「でも、魚の分類って“見た目の色”じゃないの?」




「いい質問だね。魚の“身の色”を決めているのは、筋肉の使い方なんだよ」




教授はホワイトボードに、シンプルな図を描きながら続けた。




「赤身の魚は、ずっと泳ぎ続ける魚。マグロやカツオが代表だね。


こういう魚は、持久力が必要だから“ミオグロビン”という赤い色素をたくさん含んだ筋肉を持っている」




「それが、赤く見える理由なんですね?」ミオがメモを取りながらうなずく。




「逆に白身魚――タイやヒラメ、フグなどは、ふだんあまり動かず、必要なときだけすばやく動く魚。


だから、“瞬発力用の白い筋肉”が多い。これが白身なんだ」




「泳ぎ方で筋肉の色が違うのか……すごい」ハルキが感心する。




「筋肉は“生き方の記録”とも言えるかもしれないね」




「じゃあ、サーモンは?」ケンタがぐいっと乗り出す。




「サーモンやマスは、分類上は白身魚。


でも、エビやカニのような**赤い色素アスタキサンチン**を含むものを食べ続けることで、体に色がたまっていく。


それで“赤く見える白身”になるんだよ」




「エビで色が変わるの!?」




「食べ物が筋肉に“しみこんで”いくような感じだね。


ちなみに、ニワトリも実は“白身肉”だけど、放し飼いでよく運動する地鶏は、赤っぽくなることもある」




「うそだろ……食べ物と生活で“身の色”変わるの!?」




ケンタは思わず、自分の腕を見つめる。




「じゃあ、俺がエビばっか食べたら、ピンクになる!?」




「なりません」ミオとハルキがぴしゃり。




「でも、完全に“赤”と“白”だけでわけられる魚ばかりじゃないんだよ」




教授はにこりと笑って、図に“グレーの矢印”を足した。




「たとえば、サバやブリ。このあたりは“中間筋”が多くて、赤身と白身のちょうど間のような性質を持っている」




「そんなのあるの!?名前は?」




「分類上は白身魚。でも、筋肉の働きで見ると、“グラデーション”のようになってる」




「グラデーション筋肉……」ハルキが目を細める。「なんか強そうだな」




「筋肉の色は、タンパク質がどう働くかで変わる。


そして、実はどんな魚でも“火を通すと白くなる”のは、筋肉タンパク質が変性するからなんだ」




「たしかに!マグロも焼くと白い!」




「焼いたあとの“色”と“本来の筋肉の色”は別なんだよ。そこも混同しやすいポイントだね」




「それって……魚の色だけ見て“この魚はこう”って決めるの、あんまり意味ないかも」




ミオが、しみじみつぶやく。




「色だけで決めつけるのは、ちょっともったいないよな」ハルキも真剣な顔になる。




「おれ、今日から“中間派”になるわ!」ケンタが胸を張る。「赤も白も、いいとこ取りのピンクが最強!」




教授は紅茶をひとくち飲んで、静かに言った。




「“馬子にも衣装”という言葉があるけれど、見た目の印象だけじゃなく、中身を知ることのほうが大切だよね」




「……馬じゃなくて魚だけどね」ハルキがぽそっと。




「でもさ、こういうのって、“十人十色”っていうのとも似てるね」ミオがにっこり。




「魚も人間も、見た目や色じゃなくて、どう生きてるかなんだな……」




その日のラボの冷蔵展示は、なんだか前よりキラキラして見えた。




冷たく並んだ切り身たちも、みんなそれぞれ、ちがう人生(魚生)を生きてきたのだと思うと。




展示ケースの中。


サーモンの切り身が、やわらかい照明の中で、少しだけ赤く光って見えた。




それは、エビを食べてきた証かもしれないし、


もしかしたら――今日もちゃんと生きてきた証なのかもしれない。

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