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Sea:04 マンボウはすぐ死ぬって本当?|知った気になってた生き物

「それ、すぐ死ぬ魚じゃん!」

SNSで広まった“すぐ死ぬ伝説”に、子どもたちは笑いながらマンボウを眺めていた。


でも――本当は、そうじゃなかった。


繊細だけど、しなやかに。


ぬぼーっと見える体には、海で生き延びるためのすごい秘密があった。


知識が変わると、見え方も変わる。

“知った気になっていた命”に、ちゃんと出会い直す回。


昼下がりの「海のあそびラボ」は、子どもたちの声でにぎわっていた。




展示スペースの入り口近く。水色の背景に描かれた巨大な魚のパネルの前で、ケンタが声を上げる。




「うわっ、でっか! これマンボウ!? なんか、ぬぼーってしてる!」




その丸い顔と、ぺらぺらしたヒレ。パネルの前に集まった子どもたちも興味津々だ。




「かわいいような、ちょっとヘンな顔だよね」ミオが首をかしげる。




「でもさ、これって“すぐ死ぬ魚”じゃなかった?」ケンタが言う。「ガラスにぶつかったら死ぬ、泡食べたら死ぬ、寄生虫ついたら死ぬ……って、SNSで見たよ!」




「まさに都市伝説級のポンコツ生物じゃん」とハルキが笑う。




そのとき、ふわりと紅茶の香りが漂った。




「ふふ、それ、ちょっとした誤解から生まれた“ネットの都市伝説”なんだよ」




ふり返ると、汐ノ宮教授が立っていた。白衣に紅茶、そしてくもった丸メガネ。いつもの“ちょっと変わった教授”だ。




「誤解? でも実際、死にやすいんじゃないの?」ケンタが不思議そうに尋ねる。




「いい質問だね。たしかにマンボウは、とても繊細な生き物なんだ。でも、“泡を食べたら死ぬ”とか“自分のうんちを見て死ぬ”なんて話は、完全にジョークやネタ。現実とはだいぶズレてるよ」




教授は展示台の隣にある透明ケースを指差した。中には、白くてゼリーのような模型が飾られている。




「たとえばこの体。骨が少なく、筋肉もゆるくて、ぷるぷるの組織でできている。だからこそ、傷つきやすい。でもね、それって“弱い”ってことじゃない。むしろ、無駄なエネルギーを使わずに浮いていられる進化なんだ」




「ぷかぷかしてるだけなのに、進化……?」ミオが目を丸くする。




「そのとおり。マンボウは“省エネの天才”なんだよ。泳ぎが苦手なぶん、浮力をうまく利用して、クラゲや小型のプランクトンを食べながら広い海を漂ってる」




「おまけに、体はこんなにデカいし……でも、なんでこんな巨体なのに絶滅してないの?」ケンタが首をひねる。




「答えは、とんでもない繁殖力。マンボウのメスは、一度に3億個もの卵を産む。これは、魚類でも最大級の数なんだ」




「さんおく!?」ケンタが飛び上がる。「0いくつあるかもわかんないよ!」




「それだけの子どもを産まなきゃ、生き残れない世界ってことだな」ハルキが腕を組む。




「そのとおり。外敵は多いし、海の環境も過酷だ。だから、“数で勝負”して命をつないでいる。派手じゃないけど、戦ってる生き物なんだよ」




教授は言いながら、展示パネル横のモニターをつけた。そこには、小さなマンボウの幼魚が、海中をふわふわと漂っている映像が映し出される。




「この子たちは、まだ赤ちゃん。手のひらサイズだけど、数ヶ月で一気に成長していく。しかも、成魚と姿がまるで違う。いわば“変身”する魚なんだ」




「そんなに違うの?」ミオが身を乗り出す。




「うん。トゲトゲした姿から、徐々に今の“丸っこいマンボウ”に変わっていくんだ。ちなみにこの変態へんたいって言葉、魚の成長段階で“姿が変わること”を意味するよ。念のため説明しとくけどね」




「さすが教授、親切……」




「それにね、マンボウの皮ふはとても厚くて、最大で7センチもある。傷つきやすいけど、実は“分厚いバリア”でもあるんだよ。しかも、表面には寄生虫を防ぐための粘液まで分泌されている」




「えっ、それって……防御力高いじゃん!」ケンタがびっくりする。




「そう。そして、寄生虫がついてもただのんびりしてるわけじゃない。自分から“クリーニング魚”のいる場所に行って、体を掃除してもらうし、時には海面からジャンプして振り落とすこともある」




「マンボウがジャンプ!?」ハルキが笑い出す。




「うん、信じられないかもしれないけど、実際に観察されている行動なんだ」




「……ぜんぜんポンコツじゃないじゃん」ケンタがポツリとつぶやく。




「うん。むしろ“繊細に見えて、しぶとく生き残ってる”って感じだよね」ミオがパネルを見上げる。




「そのとおり。たとえば“サンフィッシング”という習性もある。海の表面で体を横たえて、日光浴をするんだ。体温を調整したり、ビタミンを合成したり――まるで太陽を活かす研究者のようだよ」




「ポンコツどころか、“博士魚”じゃん!」ケンタが言うと、ミオもハルキも吹き出した。




教授はにこりと笑って、静かに言った。




「ネットの話には面白いものもあるけど、“百聞は一見にしかず”っていうことわざがあるように、ちゃんと自分の目で見て、調べて、考えてみること。それが、“ほんとうに知る”ってことなんだよ」




そのとき、モニターの中のマンボウが、ふわりと方向を変えた。




「動いた!」ミオが指さす。




「うわさをすれば影、ってやつか」ハルキが肩をすくめる。




「……がんばって生きてるんだな」ケンタがそっとつぶやく。




「そう。派手じゃないけど、静かに、そしてたくましく命をつないでいる」




汐ノ宮教授のその言葉に、子どもたちはしばらく黙って映像を見つめた。




そしてケンタがぽつりと呟く。




「なんか……マンボウ、マジで推せる魚じゃん……」




「今日から“ケンタボウ”でいいんじゃない?」ミオが笑う。




「まちがいなく“サンフィッシング系男子”だな」とハルキ。




教授は紅茶をひとくち飲んで、満足そうに言った。




「さて、今日は“知った気になってた命”を、ひとつ知ることができたね。次は、もっと意外な生き物を見に行こう」




「よっしゃ!今度は“ほんとの最強”を探すぞ!」 「でもマンボウも、じわじわ最強だったな」 「いや俺、推しができちゃったかも……」




笑い声が広がる展示室の奥。


その先のモニターの中で、マンボウの幼魚がもう一度、ふわりと回転した。




まるで「ちゃんと知ってくれてありがとう」とでも言うように。

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