Sea:01 『クラゲに脳はないのに、生きている?』
海って、地球の70%を占めてるのに、
実はまだ「3%」しかわかっていないらしいです。
じゃあ、その知られていない残りの97%には、どんなふしぎが眠っているんだろう?
この物語は、そんな“知らない海”に、ちょっとだけ近づいてみるシリーズです。
1話目のテーマは、「クラゲには脳がない?」──
もしよかったら、海の中の“ちょっと不思議で、ちょっとやさしい話”を、覗いていってください。
夕暮れの潮風がそっと吹き抜ける、海辺の研究館──「海のあそびラボ」。
その奥の図書スペースに、今日もあの“ちょっと変わった教授”がいた。
「……それでね、クラゲには脳がないんだ」
唐突に、汐ノ宮教授は目の前の子どもたちにそう言った。
「へ?」
と、ハルキが素っ頓狂な声を上げる。
「それって、生きてるのに? どうやって動いてんの?」
「そもそもクラゲって、なに考えてるの?」
ミオが机にあごを乗せながら、眉をひそめる。
「考えてないんだよ」
教授は笑った。
「脳がないんだから」
「えぇぇぇえぇーー!?!?!?」
ケンタが椅子から転げ落ちた。
汐ノ宮教授は、くすくすと笑いながら続けた。
「クラゲはね、“神経網”というネットワークだけで体を動かしてる。
人間のような“司令塔”はないけど、光や振動に反応して動くことはできるんだ」
「ってことはさ……クラゲは感情もないの?」
と、ハルキが真面目な顔で聞く。
「ない。というか、あってもわからない。だって本人たちが“考える”ってことをしていないんだから」
「わたし、クラゲが好きだったのに、なんか寂しい……」
とミオ。
「でもさ、逆に言えば、“何も考えずにただ生きる”ってすごくない?」
と、教授が笑う。
「え?」
「誰かの言葉に悩んだり、明日のことで不安になったりしない。
ただ、ゆらゆらと流されながら、でも確かに生きている」
子どもたちは一瞬、黙った。
「……俺もさ、今日宿題やってなくて、いろいろ考えてたけど……」
とケンタ。
「クラゲって、考えなくていいんだよな」
「違うよ。ケンタ、それは言い訳だよ」
とハルキが即ツッコミを入れる。
「でもさ、クラゲってすごくない?」
ミオが言った。
「脳も心もなくても、生きてるって……ロボットじゃなくて、命なんだよ?」
教授はにこりと微笑んだ。
「そうだね。クラゲは、生き物として“最小限”で、でも“完璧”なんだ」
そして、立ち上がった。
「さあ、今日はクラゲの水槽、掃除してくれるかい? あいつら、意外とデリケートなんだ」
「まかせて教授!」
「ゆらゆらしてくる!」
「ケンタ、掃除はゆらゆらしなくていいよ」
夕陽が差し込む水槽前。
クラゲたちは、今日もゆらゆら、なにも語らず、ただ漂っていた。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
「クラゲには脳がない」──それって、なんだか不思議で、
でもちょっと羨ましくもあって、怖くもあって。
そんな“考えない命”を通して、
「じゃあ“考える”って、なんなんだろう?」って、ふと立ち止まれるような、
小さな問いを描いてみたくて、この物語をはじめました。
『3%の海』は、海の生き物の“本当にある話”をもとにした短編シリーズです。
ちょっとだけ学べて、ちょっとだけ泣けて、
そして、どこかやさしくなれるような──
そんな海のショートストーリーを、これからもお届けしていきます。
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また、次の海でお会いできますように。