1話
旧科学時代の講義は、この時代における数少ない系統性を備えた学問であるのだが、非合理性に重きを置いたシーマ文明の台頭によってこれまで軽視されてきた。我が校においてもその履修率は低下の一途を辿っており、それは十九世紀以降の科学時代における神学の有り様と近似している。呪術的・超科学的特性を持ったシーマの発見は甚大な包括的影響力と置換的な淘汰性を持ち、拠って前時代の人類が何千年もかけて培ってきた数多の専門分野はこれに退廃したのだ。この講義では全十二回に渡って前時代からの変遷を辿りながら、我々シーマ社会に未だ根強く残っている旧科学の影響を鑑みると共に、この学問の必要性を真摯に訴えるものとする。
以上は私が旧科学時代のオリエンテーションで語った主たる概要である。壇上から見る分には学生達の反応は二極化しており、この講義の大半は私と同じように、シーマに不適合であるか、もしくは不得手であるけれど、座学だけは得意な者、あるいは余程の科学文明時代の好事家で構成されていた。後ろの席にはシーマに適合した学生もちらほらいる。もっとも彼らの多くは若い無知な野心家で、その批判精神のために私に目に物を見せてやろうと冷笑的な態度で臨んでいる者も少なくない。手を挙げたのは去年の不可知現象学で好成績を残していた鈴成理子だった。
「日奈多先生は新科学主義者なのですか?」と彼女は言った。
毎年これを訊く学生は現れる。それはそうとオリエンテーションとしては資質を証明するのに有効でもあった。
「いいえ」と私は言った。「ただ、今の時代においては、我々の考え方や、言語、思想のレベルにおいても、科学の時代が基盤となっています。そうした時代の歴史的文脈を無視して現代は語れない」私はそう言うと、親指につけた木製の指輪を取って見せた。百パーセント柊の木で構成された指輪である。「これは皆さんもご存じの通りスマホと呼ばれるものです。なぜただの指輪とは異なるのでしょう?」
「シーマで作った指輪だからです。僕も同じ物を持っていますよ」
そう言ったのは、最前列の熱心な学生だった。吹田透、二十二歳、名簿によればMTの学生だと説明されている。
私は彼に頷いた。
「そうです。私たちのようなMTにはこれがないと生活も儘ならない」
私はそう言うと、学生達を一通り眺め、指輪のある手で指をぱちんと弾いた。するとゲールルゲームに熱中している学生がはっと顔を上げる。彼はこちらに頭を下げると、謝罪の思念を送り、ゲールルをポケットにいそいそと隠した。
「とりわけ通信機能を備えた指輪のことを私たちはスマホと呼称します」と私は気にせず説明を続けた。「これは旧科学時代の通信機器であるスマホの名残です。正式名称はスマートフォン。賢い電話という意味ですが、これは当時の技術で多機能であったことが由来になります。……余談ですが、当時も通信可能な指輪はあって、それはスマートリングと呼ばれていたようですね。しかしこちらはあまり普及しなかったようで文献に乏しい」
「しかし先生」と鈴成理子は眉をしかめて言った。「言葉が何だって言うんです? そのスマホが別の名前でも何も困ることはないじゃありませんか?」
「たとえばクルードとか?」と野次が飛んだ。
理子はきつく彼らを睨むと、奥歯をかちっと鳴らし、唇の端から緑色の火花を散らした。私は彼女に注意の思念を送り、野次馬たちをたしなめる。その声が落ち着いた後で話を再開した。「もちろん、たとえばこれがあなたの名前や私の名前だってかまわないわけだけど、これがスマホと呼ばれるにはそれだけの歴史的な意味がある。たとえば名称の語源を知ることで私たちはスマホとは何かを正確に知り得て、またそこから広がる新たな解釈が生まれる。でももしこれが鈴成だったり、日奈多だったら、そうした歴史的文脈は途絶え、どのようにしても解釈は不可能でしょう。もちろんクルードでも絶対に駄目だね」
「でもそれは合理の世界の話でしょう? なんだか新科学的で、どうしても私は科学とシーマを繋げたがる危険な匂いがするんです」
「合理の世界は決して悪ではないよ。たしかに論理や合理性を最たる真とした世界は実現できず、それまでの科学でシーマを解明する試みは全て失敗に終わった。おかげで宗教は今では再び信仰心を取り戻しているんだけど、それはそれとして科学は神の存在まで否定はしなかった。それさえも自分の土俵として飲み込もうとするハングリーさと寛容な精神を持ち合わせ、自分たちの文化や思想が神話に根付いていることを科学時代の人たちは積極的に認めていた。しかし昨今の時代では、神話の時代を認めながら、その過程にある科学時代をまるごと否定するという、歴史的にも希有な例が流行しているみたいだ」
「シーマは科学よりも勝っているからですよ」と野次が飛んだ。「そういうのMTの人は認めたがりませんがね!」
私は指を力強く弾いた。すると彼は目を丸くして、きゅっと口を閉じたが、すぐに隣の友人と肘を付き合って笑いだした。
「科学の時代では学問に優劣をつけなかったよ。それに二項対立ではないんだ。神話の時代にあった占星術は天文学のなかで生きていた。シーマの時代においても旧科学の統計学は使われているよね?」私はそう言うと、顔をぷいと背けた。「それに私の考えるところ、旧科学時代は発展の余地を残し、シーマを充分に見極める前に終焉したんだ」
そのとき終わりのチャイムが鳴り、ふいに窓の外を見やった。すると中庭で空中を飛び回っている学生たちが続々と地上に降りている。塀より先の遠い街並みでは、一時間前にはあったはずの鉄筋コンクリートのビルが消滅し、代わりに巨大な樹ビルが竹の子のようににょきにょきと生えていた。市長の都市計画では、前時代的な住宅は環境破壊と公害をイメージさせるからという理由で、そうしたアパートやマンションは巨大な樹木のビルに置き変えられることになったのだ。実際にこの樹ビルは生きているので光合成を行い、CO2の削減に貢献している。今やオレンジタウンの景観は樹木を中心として、未だ開発が進んでいない鉄筋コンクリートの建築物に囲まれ、その更に外側で小さく見える海が隠れるようにこっそりと待ち伏せていた。
学生達は蜘蛛の子のように散らばった。鈴成理子は納得のいかないような顔つきで、参考書を鞄に戻すと、重そうに背負って教室を後にしている。私はため息をつき、教材を纏めた。吹田透が教壇にやって来たときには研究室に戻る準備も終わっていた。
「先生はMTと聞きました」と彼は言った。「そして先生は科学を教えるMTですが、新科学主義運動についてどう思われますか?」
「私は新科学主義運動には否定的な立場で、それは前時代的な過ちを繰り返すだけだと考えてるよ。……それと正確には、新科学主義運動ではなく、科学至上主義運動だと思うね。もっとも科学に縋る気持ちは同じMTとして充分にわかる」
「先生は旧科学時代がシーマを充分に見極める前に終焉したと仰いました。これはつまりもっと長い時間を掛けることができたなら科学によってシーマを解明することも可能だったのではないでしょうか?」
「もちろん神話がそうだったように、旧科学は自らの領域にシーマを取り込むことは可能だったろうね。しかし科学によって神の存在が証明できなかったように、科学によってシーマを証明することは不可能だった。私が考えるところ、旧科学文明の退廃はそうした頑なの精神と驕りから発生する慢心の内側から生じているんだ」
親指につけたスマホが震えている。頭皮が洗浄力の高いシャンプーで洗った後みたいに痒くなる。歴史学部長の篠田真守から強い思念が送られてきていた。
「そろそろ次に行かなくてはならない」私は指輪をこつこつ叩きながら言った。「悪いけど、もういいかな?」
吹田透は納得がいかないのか、思慮深げな顔つきで立っていた。しかし私は彼が語った科学主義運動について敢えて踏み込んで訊ねたりはしなかった。それは自らの立場と保身を考慮した上での選択だ。
「もしまだ質問があるなら後で私の研究室においで」と私は言った。「五限目なら空いているから」
彼は首を振った。
「いえ、大丈夫です。そこまでしていただくことではありません。……僕も次がありますからこれで失礼します」
彼はそう言うと、教室を出た。私はその暗い後ろ姿を見送った後で、命令に従って歴史学部長の研究室へと向かった。
篠田真守は大柄で肩幅も広く、部屋の奥にある机に窮屈そうに座りながら、神経質そうな顔をしてこちらを出迎えてくれた。彼は左目に眼帯をしており、その眼球は彼の周りを衛星のように回っている。しかし私を認めると、それはぴたりと宙で止まり、彼の眼窩に入っている右目と平行して睨みをきかせた。彼は太い指の手で私に席を勧めた。その指には指輪はひとつだけ、それはスマホでは無くて、エンゲージリングだった。真のATは道具を持たないというのは古からの格言である。
「日奈多准教授、先ほどの講義はとても斬新な切り口だったな」
私はぎくりとした。彼の左目が教室内を飛んでいたことを私はまるで気づいていなかったのだ。
「ありがとうございます」
すると左目が充血しながらこちらに向かってきた。「分かっていると思うが、褒めているんじゃない」と彼は言った。「私は皮肉を言っているのだ。君のやり方は扇情的すぎやしないか?」
「内容は前学期と同じですよ。でも今まで栗田学部長からそんなことを言われたことはありませんでした」
「今は私が学部長だ。栗田さんはどうも自由を美徳とする傾向があったようだが、ともかく君は私の方針に従って貰わなければならない。そして私の方針はなるべく個人的な見解を語らずに科学を語ることにある。ここは君の信徒を作る場所ではない」
「待ってください」と私は慌てて言った。「私は学説に則って講義を進めていますよ。何も自分の考えを押しつけているわけじゃありません。ましてや私は信徒なんて作る気はない。もちろん旧科学に対する寛容な精神は広まって欲しいですが、それは他の学問を専門としている人間でも同じ考えになるはずです」
「問題は旧科学に対する寛容な精神そのものだよ。昨今では特に風当たりが強いからね。以前からAT優勢思想の雰囲気があったが、マイノリティたちの科学主義運動が活発になり、その反動で企業連が反発してミーア派の政治家連中も旧科学を冷遇するようになった。義務教育から自然科学の分野が撤廃されたと聞いたときは、かつての中国で起こったとされる文化大革命でも起きたのかと思って卒倒しかけたよ。あの時は自分が眼鏡を掛けていなくてほっとしたものだな。それはそうと大学でも旧科学分野を教えている学者は今ではもう有数だ。君が研究している文化人類学も西日本ではもう消えたという報告もある」
「……だからこそ語らねばならないと思われませんか?」
彼は笑った。
「君は実に正直な人だなあ! しかしだね、もう少し身の振り方を弁えなければならない。あまり功を急げば栗田学部長みたいに目をつけられる。そうなったら大学の籍を失うことになるぞ。最近は誰がどこで見ているかわかったものじゃないからな」
服部理事長のことが脳裏に過り、そこで私は言外の意味を察した。彼は私に警戒すべき人を教えてくれているのだ。服部理事長はミーア派の衆議院議員で、栗田学部長が履修科目に科学の分野を増設したことを、反体制的だと指摘して退任まで追い込んでいる。加持学長を筆頭に彼女の腹心は教職員を問わず多くいるようだった。
「……わかりました」と私は言った。「なるべく考慮して言動には気をつけましょう。そもそも私は学者で、教育者ではない。ましてや歴史学の分野ではない人間です。だからあまり多く語れることもないはず」
「旧科学文明の講義があることが今ではもう奇跡だよ。それはいずれこの大学が寛容な気っ風であることの証明になるはずだ。だから今の仕事に不満はあるかもしれないが、みすみす奪わせるわけにはいかんよ。私だってかつては旧科学文明史を学んでいた人間だったんだ」彼はそう言うと、物思いに耽ったかのように、手元へと目を伏せた。「……たしかに旧科学はシーマを解明できなかった。特にシーマは数学が通用せず、1足す1は3となり、摩擦も起こさずに火を起こし、物理学に反したことが当然のように起きる。何も自然科学の分野ばかりではない。最新の研究では哲学のトロッコ問題もシーマ学では成り立たないと証明されたみたいだ。心理学で言えば囚人のジレンマは統計が明らかに反転したらしい。……しかしだね、私たちのベースとなっているのは、やはりこの理性的な世界じゃないか。1足す1は2だと知り、その上でシーマでは3となることを知ることが基本条件だと思うんだよ」
私は頷いた。それは肯定を意味するというよりは、相づちのための返事だったが、篠田真守の次の言葉を考えるに、彼はそういう風に捉えなかったようだ。
「でもこれは私や君が古いタイプの人間であるせいで、これからの世代は全く異なる常識がベースとなるのかもしれない。かつて旧科学時代に神を信じる者が極端に減ったように、その転換期にいる可能性を私たちは見極めなければな。……だから君もあまり彼らと敵対的になってはいけない」
「ご忠告ありがとうございます」
「いや、構わないんだ」彼は首を振って言った。「何故ならいざという時に私はきっと君を守れないからね。その埋め合わせを今のうちに済ませておきたかった」
今度は私が笑った。私よりも実に正直な人だと思ったからだ。篠田真守は顔をむっとさせた。
「なにか?」
「いえ、ただ私は社会性に乏しい研究者だと思っただけです。どうにもこういうことに関しては察しが悪い」
「それだけではないよ。陥れられる者の耳にはいつも重要なことが入ってこないようになっているんだ。『ブルータス、お前もか』とは誰の言葉だったかな?」
「カエサル」
「気をつけなさい。どうにも君は人をすぐに信頼してしまうところがあるからな」
私は一礼をして、その場を退出するために扉を開けた。すると出入り口の側に、無色透明な髪をした、背丈の低い少女が立っている。抜け目なく篠田真守の左目は彼女の存在を捉えた。
「おお、真司君か!」と彼は言った。「ちょうどいいところに来た。彼女は校内でも有名な占術師だよ。せっかくだから君も占ってもらいたまえ。……真司君、構わないかな?」
真司は頷いた。
「ええ、構いませんよ、篠田教授。……それでは日奈多准教授、私と同じ高さで瞳を見つめてくださいまし」
私は腰をぐっと屈め、彼女と目を合わせた。そうしながら私は首を捻った。「君、私の講義を受けたことがあった? ……というのも私の名前をどうして知っているのか不思議に思ってね」
「見つめれば自ずと分かるものです。それよりも日奈多准教授も私の瞳に集中してくださいまし」
私はそうした。篠田真守の左目も同じように従った。
「真司君の占いは実に正確で絶対なんだよ」彼は興奮を隠しきれない様子で言った。「絶対なんだ。これまで一度も外れたことがないんだからな!」
「先生、お静かに願います」
「おっと失礼」
すると彼女の瞳のなかで蛍光色の霧が起こって竜巻のように渦巻きはじめる。それは動物の姿を模したかと思えば、次の瞬間には幾何学的模様になって、他の模様が代わる代わる浮かび上がっていった。
「何が浮かび上がったか私にお教えください」
「四足動物、数字の魔方陣、トルマンダー、すき焼き」
真司はじっと私の顔や口の動きを見つめていた。その全てを瞬き一つせずに見逃そうとはしない。
どうやら彼女の占術は、自らの瞳から浮かび上がる模様を被験者から口伝えに聞き、そうすることで被験者の未来や天命を正確に読みとることができるようだった。私がそう断言しなかったのは、そもそもシーマを行使するのに必要とされる法則が個人によって変わることが原因にあり、たとえば予知深層推理学では術師と被験者の手が触れることによって占えるATもいれば、このように目を合わせて被験者との協力があることで占うATもいるからだ。その現れ方も多種多様で、読み取り方も個々によって異にする。こうしたことがシーマ学全体で起きているわけだから、そのためシーマ学はその複雑性から系統的に分類することを難解に極め、全体的に講師も知識の専門家というよりは、指導員としてのエキスパートが多い傾向にある。それはそうと相手に助言を与えることから占術には心理学の応用も組み込まれている。もっとも、今では占術師の方が心理カウンセラーや精神分析医よりも実践的で、薬の投与がない分身体的なリスクはなく、根拠は無くても効果があることは明白に実証されている。
そのうち彼女の瞳から霧は消えた。すると顔から血の気も失せ、唇は震えはじめる。見つめてると、だんだん私も彼女と同じようになりそうだった。
「どうしたの?」と私は訊いた。
篠田真守は椅子から立ち上がった。彼の机に置かれた指はそわそわと動いていた。
「真司君、日奈多先生の結果はどうだったんだね?」
「あ、あの」と彼女は言った。「一度占った結果は変わらないんです。だからこれを言おうが、言うまいが、結果は同じなんですが……」
私は微笑んだ。唇の端に痙攣している感覚があった。「別に無理して話す必要はないよ。私もそちらの方がいいような気がしてきた」
篠田真守が叫んだ。
「はやく言っておしまい!」
「死にます!」と彼女は反射的に言った。
「え」
私と篠田真守は呟いた。
彼女は口元に手をやり、こちらの顔色を伺うように見た。彼女は側にある椅子に向かおうとしたが、脚が思うように動かず、そのまま床にぺたりと座ってしまう。「日奈多准教授は今学期の最後の講義で死にます」彼女は目を虚ろにさせながら言った。「拳銃による殺人です。顔に大きな傷のある男に殺されるんです」
「拳銃だって!」と篠田真守は叫んだ。「この時代に拳銃なんてものを持っている奴がいるのか! ……いやあ、これは面白い冗談だな! 君がそんなユーモアを持っていたなんて! なあ、真司君?」
「ははは」と私は言った。
しかし真司の蒼白な顔に私たちは揃って深刻な面持ちで黙りした。しばらくして篠田真守は呟くように語りはじめる。「……日奈多准教授、これは救いになるかはわからんがね、占術学は国家資格のあるATで九〇パーセントになるが、資格のない学生では四年生でも六八パーセントの確率でしか予言が当たらないという統計があるみたいなんだ。これは経験の少ない術師の読み違いと正確さを欠いた言語伝達ミスの結果らしい。占術科の島田助教授に聞いたから間違いの無い情報だとは思うがね」
「それは頼もしいですね」私は笑みも浮かべずに言った。「真司君の統計が百パーセントでなければもっと喜べたのですが……」
すると彼女は頬に涙が伝い、うつ伏せに倒れて嗚咽して泣き始めた。烏のようにわあわあと声をあげている。篠田真守は急いで重い腰を上げて彼女に駆け寄った。
「おお、すまなかった。君のせいではないんだ」彼は眉を困らせながら叫んだ。「日奈多准教授! あなたは一学徒になんてことを仰るんだね!」
「いや、私は事実を述べたまでで……」
「全くけしからん! 出て行きなさい! 今すぐ行くのだよ!」
彼の左目が押しのけるように迫ってきた。私は後ずさると、蠅でも追い払うかみたいにその後を追い、仕切りから身体が出ると、扉はひとりでに閉まった。閉まった扉から真司の嗚咽混じりの声が聞こえた。
「お告げがあります。……文明社会から遠ざかり、二足歩行をやめなさい。さすれば光は求められるだろう」
「無理だよ」と私は言った。