視線を外すことができなかった
「愛善、君……?」
保健室のドアを開けたのは
藍川さんだった
一瞬、時間が止まったような感覚に陥って
「ごめん、どいてくれる?」
出入り口を塞ぐように立っていた藍川さんに、抑揚なくそう言った佳奈ちゃん
「あ、うん……」
藍川さん、僕たちのやり取り、聞いていたのかな……
保健室から去っていく佳奈ちゃんの背中を見つめて
それから、僕を見た
「ぼ、僕もそろそろ戻るよ」
「うん……」
藍川さんは、きっと何かの空気を感じ取ったのかもしれない。
少し戸惑った様子を見せている
やましいことなんて何もしていない
していないのに、僕はこれ以上ここにいることが居た堪れなくなった
「あ、あのッ」
保健室から去る僕に、藍川さんが声を掛ける
なぜだろう……藍川さんの顔をまともに見ることができない
「怪我、とかない?……大丈夫?」
そういえばなんで藍川さんは保健室に来たんだろう。保健委員だったのかな?
それとも……僕を心配して……
いや、ナイナイそんなこと
「うん、大丈夫だよ。藍川さん、この後リレーだよね?僕、応援してるから」
恥ずかしさもあって早口になってしまった。
「……ありがと。がんばるね」
それだけ聞いたら僕は下駄箱へと走り出した――
*
運動会も大詰め
最後のプログラム、学年別のクラス対抗リレーが始まる
さっき、応援するって言っちゃったから、みんなと一緒に真面目に声援を送らなきゃな。
リレーの選手には、藍川さんが選ばれている。
意外にも藍川さんって運動神経良くて足も速いらしい。部活はテニス部だったっけ。琴葉もそうだったな。
そして、将吾君も相変わらずリレーの選手に入っている。クラスでもトップクラスで運動神経が良くてなんでもできちゃう。
そう。
将吾君は勉強も運動もなんでもできちゃうんだ。
僕とはまったくの正反対だ。
本当はすごくモテるのに、いつも佳奈ちゃんと一緒にいるから誰も手が出せないって陽キャたちが言ってた。
将吾君と佳奈ちゃん、付き合っているのかな……
多分、そうだろうな
だったらなんで
佳奈ちゃんは、さっき僕に対してあんなこと言ったんだろう……
『ねぇ、幸也……私たち、また、昔みたいに……』
心がザワつく
もうあの2人とは関わらないって決めたのに……
タンッ!
『スタートしました!』
考えごとをしていたら、リレーが始まっていた。
わぁッ!!
声援の大きさに、少し気後れしてしまう。
藍川さんは……第三走者か。
トラックを半周するからちょうど僕たちの席の前を走ることになる。
第二走者から藍川さんにバトンが渡った!
……速い!
いつもとは違った表情
真剣な眼差し
走ることへの直向きな姿勢
「藍川いけー!」
「きゃぁー!伊織ー!」
周りの声援が霞んでしまうほどの力と美しさが
僕の目を奪った
僕は、
視線を外すことができなかった。
バトンが渡って走り終わった後
手を膝につけて呼吸を整える姿さえも
なんか……
「かっこいい……」
無意識に口から溢れていた
ハッと我に帰り、急に恥ずかしくなった。
誰にも聞かれてないよな?
我ながらキモ過ぎた……
ガッ!
な、なんだ?!
後ろから椅子を蹴られた?!
振り向くと
「か、漆原さん……?」
佳奈ちゃんが腕を組みながら僕を睨んでいた……
思わず「佳奈ちゃん」て言いそうになり言い直した。いったいなんだっていうんだ、さっきから。
「ごめ〜ん」
悪びれることもなく、そっぽを向きながらそう言う佳奈ちゃん。
全然反省してないしワザとでしょ?!
結果、僕たちのクラスは優勝こそできなかったけど、団結力が高まった。
ただし、僕がその輪の中に入っているかは微妙なところだけど……
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