黒歴史
「伊織ちゃん、今日の晩ご飯は何がいい?」
「絢音ちゃん、勉強頑張ってるわね」
「2人にお小遣いをあげなくちゃ」
共働きの両親に代わってお姉ちゃんと私を育ててくれた、大好きなおばあちゃん。
そんなおばあちゃんがおかしくなったのは、私が小学5年の終わり頃。物忘れが激しくなって、大好きな料理ができなくなり、買い物に出かけても自分の家がどこにあるのか分からず帰れなくなったり。
にこやかだった表情は、いつも不安気な表情になり、やがて無となっていった。
私が中学に入ると認知症がさらに進行して、昼夜問わず徘徊が始まった。
夜中に寝ている私の顔を覗き込んでいた時はさすがに怖かったな……
あの頃のお母さんは本当に大変そうだった。
お母さんは仕事中にも関わらず警察から頻繁に呼び出されていたし、夜もあまり眠れていなかったみたい。
だからお父さんはおばあちゃんの面倒を見るために土日は単身赴任先から家に帰って来てお母さんと介護の役割を交代していた。
お姉ちゃんもバイトの回数を減らしたり、なんとか家族の生活が回るように手伝ってくれていた。
それでも
家族の誰もが疲れ果てていた
みんな表情は暗くて、私は家にいることが息苦しく感じるようになった――
そしてあの日
去年の夏休み
お父さんとお母さんがケンカをして
私はもう家にいるのが嫌で
夜中に家を飛び出した
行く当てもなく近所のコンビニに立ち寄ったら、
「あれぇ?イオリんじゃん。おひさ〜」
「……アヤカちゃん?」
コンビニの入り口でたむろしていたのは、小学校の時のクラスメイト、折原絢香ちゃんだった。
「……アヤカぁ、誰この子」
「小学校んときの友だち〜」
アヤカちゃんは小学校の時から派手で素行も悪く、良くない噂も聞いた。一緒にたむろしていた友達もそれっぽい人たちだった。
悪そうな男子もいる。タバコ吸ってるし……
関わらない方がいいな。
「ヒマだし、カラオケ行かね?」
「いいね、イオリんも行こうよ」
でも流れ的に離れられない状況になった時、
「君たち、中学生か?」
警察官だった。
私たちはそのまま補導され、警察署に連れていかれる事態となってしまった――
その後は、親を呼び出され、こっ酷く叱られて
たまたまその場にいたということも信じてもらえず
私は大人を信用できなくなってしまった
夏休み中の部活で学校に行くと、私が補導された話は尾ひれが付いてみんなに広まっていた。
悪い連中と付き合っているとか、夜遊びしまくっているとか、酷いものは円光しているとか。
仲の良い友達はそんなウワサ信じなかったけど、顧問の先生と個別面談したこともきっかけとなって部内では完全孤立してしまった。
そんな中、テニスサークルに所属しているという近くの大学の学生たちがボランティアとしてテニスをコーチしてくれる話があった。
その時にコーチしてもらったのが、大学1年生の[八神 隼人コーチ。
長身の爽やかイケメン
それが最初の印象。
私は、始めそっけない態度をとり続けていたんだけど、八神コーチは苦笑いするだけで私のコーチをやめることはなかった。
見た目だけじゃなく果てしなく優しい八神コーチ
「伊織ちゃん、よくできたね。今の良かった」
って、頭を撫でてくれる。
私の心は少しずつほどけていって、八神コーチを信頼するようになっていった
あんなことがあったけど、夏休みの間は八神コーチがいるからそれだけで少しは学校に行くことへのハードルが下がった気がした。
部活が少しずつ楽しくなって、それに伴ってテニスの腕も上がっていって
気付けば、私は地区大会で優勝するくらい強の実力になっていた。
そして春、
私は中学3年になった
ウワサもほとんど消えて、私の周りには友達が集まるようになった。それもこれも八神コーチと小学校からの親友、沙希のおかげ。
沙希は私が補導された時、あらぬウワサで悩んでいた時、そばにいてくれた。
沙希に何かあれば絶対助けてあげるんだ。
それにもう一つ
おばあちゃんが老人ホームに入居できることが分かった。
お姉ちゃんも大学生になって、家庭が少しだけ落ち着いたように思えた。
環境が好転していくように思えた4月の始め、私に対して明らかに敵意を向ける人がいた。
後ろの席の愛善君。
去年の夏休み私が補導されたことでの私の人物像を勝手に決めつけているのかもしれない。
最初は少し悲しかったけど、沙希が同じクラスになったし気にしないようにしてた。
そんな中、あの事件が起きたんだ
きっと愛善君は私のことを嫌っているだろうし、私が怪我をさせてしまったことを恨むだろうと思った。
でも彼は……
「体育祭、サボれてラッキー……」
とか
「こんなのかすり傷だよ」
とか、恨むどころか私を突き飛ばしたことをすごく後悔して謝ってきたんだ。
私のことを嫌っているのか、気を遣っているのか
愛善君の感情の方向がよく分からない
なんか、不思議な人……
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