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すごい。やさしくは、ないだろう。でも、体育館の舞台で、自分が、やると決まれば、絶対「透明になるコイン」のマジックをやろうとさおりは思った。
「お次は、トランプのマジックでございます」
おじいちゃんは、テーブルの上のトランプを持ち上げた。
普通のトランプよりひと回り大きなトランプだった。
「そこのお嬢様、こちらにいらしてください」
おじいちゃんがさおりに手招きをして台のそばに呼び寄せる。
「それでは、どれでもいいですから、お好きな一枚を選んでください」
さおりは、一枚を選んだ。スペードの3、マークと数字をしっかり頭の中に入れる。
おじいちゃんは、そのカードを一番上に乗せる。そうして、トランプを切ってさおりが選んだスペードの3をあてた。
おじいちゃんがしたトランプのマジックは、種明かしをすれば、さおりと全く同じだった。
でも、「お客様の選んだカードは、これですね」というまでの動きがとても自然なのだった。
カードをあてる時も、すべてのカードの中から「これ」と言うのではなくて、十数枚ずつ扇型に広げ、「この中にはありません」などと言ってお客様の方に絵柄を見せていく。
おじいちゃんは、三度目に作った扇型からさおりの選んだスペードの3をあててみせた。
トランプの次はスカーフのマジックだった。
さおりがやると結び目が出来るのに、おじいちゃんがやると結び目を作ったはずなのに出来てない。赤と黄色のつないだスカーフを魔法をかけて引っ張るとさっと赤と黄色のスカーフがばらけてしまう。
「それでは、マジシャン相島のマジックショーを終わりたいと思います。ありがとうございました。トランプを選んでくださったお嬢さん、ささやかな私からのプレゼントをお受け取りください」
さっと手が動き、差し出された手には、先ほど消えた造花の花束が握られていたのだった。
「すごい、すごい。ねえ、おばあちゃん、マジシャン相島は健在だよ」
さおりは、本棚の上に飾られた「アチラの世界」にいるおばあちゃんの写真に向かって言った。
おばあちゃんは、写真の中で笑っている。「そうね、さおりのいう通りね」とでも言っているみたいだ。
「健在?マジシャン相島は、まだまだ衰え知らずだよ」
おじいちゃんは、笑った。