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おじいちゃんが、軽く黒い棒を動かすと棒の真ん中辺りから造花の小さな花束が飛び出した。さおりが、これまで、見たことがない仕掛けだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。しばし、マジシャン相島の不思議な世界に皆様をお連れいたします」
おじいちゃんが挨拶する間にも黒いスティックのアチコチから造花の小さな花束がピョコン、ピョコンと飛び出して来て、さおりに「ええっ」っと驚きの声をあげさせる。
おじいちゃんは、黒いスティックから飛び出した造花の小さな花束をひとつ取ると、黒いスティックを台の上に置き、その手にした造花の花束をさおりの視界の中で、ゆらゆらと揺らし始めた。
あの造花、きっと、消えてしまうんだわ。マジックの仕掛けを解こうと、さおりは、おじいちゃんの手の動きと造花の花束を懸命に目で追った。
ゆらゆら、ゆらゆら、それが、急に速く動いたかと思うと「ハッ」っとおじいちゃんの声があがり、次の瞬間、造花の花束は、さおりの視界から消えていた。おそらく、黒のタキシードの上着に秘密がありそうだが、本当にさおりの目には、空中で消えてしまったかにしか見えなかった。
さおりは、「うわっ」と口を開けていた。
マジシャン相島は、さおりに向かって言う。
「それでは、お客様、コインの空中移動をお見せしたします。このコインは、普通のコインとわけが違います。透明になって瞬間移動をやってのける超能力コインでございます」
おじいちゃんの手の平に乗っているのはコインは、五百円玉よりひと回り大きくピカピカの銀色である。
透明になる?瞬間移動?
「ありえない」
さおりは、おじいちゃんに聞こえるように言って首を振る。
「ありえない、とおっしゃいましたね。お客様、その言葉をお忘れなく」
おじいちゃんは、右手の手の平に乗せたコインをさおりにさしだしグーを作ると、左手の手の平で「透明になれ、透明になれ」とおまじないをかける。右手の手の平を開けばコインは、消えている。次の瞬間、手の平でグーを作ってパーにすれば、銀色のコインが姿を現わした。
「どうでしょう?お客様、コインの魔力信じていただけたでしょうか?」
「フシギィー」
真正面にいながら、さおりには、この言葉しか出て来ない。
「びっくりするのは、これからですよ」
おじいちゃんは、右手の手の平から左手の手の平にコインの瞬間移動をさせる。さらに、一度手の平からコインを消した後、再び手の平を開けば、コインが二枚になっている。その手の平を閉じて、「透明なるコインよ、姿を現わすのだ」と言うと、おじいちゃんの手の平の中のコインの枚数は三枚になっていたのだった。